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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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■010 鉱石採掘




「よし、じゃあ行ってみるか」


 次の日、僕は再びポータルエリア前へと来ていた。今日はレンたちがログインしてなかったので、一人で動く。

 【セーレの翼】をセットし、ランダムジャンプの用意をする。所持金も2000G以下なんで、たとえ死んでも金庫があるから減らないぞ、と。死にたくはないけれど……。

 ポータルエリアへと足を踏み出し、一瞬にして見たこともない場所へ連れて行かれる。

 目の前に広がるのは荒れ果てた荒野だった。サボテンとか生えてる。なんだこの西部劇の世界は……。グランドキャニオンとかにありそうな岩山が遠くに見える。

 足下の小さいポータルエリアから出て、地図を買うことで使えるようになったマップウィンドウを開く。

 【西部開拓地】……ってまんまかよ! もうちょっと捻れって……あれ?

 マップを見て現在地を確認する。ここって……【強欲】の領国じゃないか?

 もう一度見てみるが、やはりここは【怠惰】の領国じゃなく、【強欲】の領国だった。

 あらあ……【セーレの翼】で飛ぶのって所属国内だけじゃないのか……。

 確かにランダムなのだからそれも当たり前か。初めて飛んだところが【クレインの森】だったから、なんとなく【怠惰】の領国しか行けないと思い込んでた……。

 しかもここって明らかに【強欲】の第二の町より先だよな……。僕のマップ機能は【強欲】の第三エリアを示している。

 七つの領国にある、それぞれの七つの始まりの町は、中央部から一番離れた場所にある。

 つまり、中央部に近ければ近いほど、高エリアってわけだ。


「とりあえず、なにかないか探してみるか……」


 変なモンスターに襲われる前に、ささっとなにか手に入れて引き返そう。

 【セーレの翼】を外して、【鑑定】と入れ替える。現在の僕のスキル構成は、


───────────────

■使用スキル(7/7)

【順応性】【敏捷度UP(小)】

【見切り】【気配察知】

【鑑定】【採掘】【採取】


■予備スキル(4/10)

【短剣の心得】【調合】【蹴撃】

【セーレの翼】

───────────────


 と、【短剣の心得】をも外した構成だ。だって敵が来たら勝てるわけがないからさ……。なるべく逃げられるような感じにして、【鑑定】【採掘】【採取】を入れたらこんな感じに。

 草とかはあまり生えてないから【採取】の方は期待できないな。

 近場にあった岩壁を見てみると、幾つかの採掘ポイントがわかった。おお、これが【採掘】スキルの効果か。

 手が届く範囲にあったポイントにピッケルを突き立ててみる。むっ、ごろりと手のひらサイズの鉱石が落ちてきたぞ。


────────────────

【エイジャ鉱石】 Bランク


■unknown

□精製アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────────


 やっぱり【鑑定】しても僕の熟練度じゃわからんな。

 確かアイテムのランクはSSSを最高ランクにSS、S、AA、A、B、C、D、E、F、Gとなっていると公式サイトにあったから、真ん中くらいの価値はあるはず。

 とりあえず取れるだけ取っていくか。僕は手の届く範囲にあったポイントをピッケルで掘り起こしていく。

 高いところにあるポイントには残念ながら行けない。崖を楽に登れる【登攀とうはん】とかのスキルがあれば別なんだろうが。

 お?


────────────────

【サンドラ鉱石】 Bランク


■unknown

□精製アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────────


 また別な物が出てきたな。相変わらず鑑定できないが……。そのあとも掘り起こして掘り起こして、僕はいくつかの鉱石を手に入れた。はー……疲れた……。

 突然、ゾワッとした感覚に襲われる。振り向くとそこには、敵意を僕へ向けた巨大な赤い牛が、ぶふーっ、ぶふーっ、と呼吸を荒くしてこちらを睨んでいた。

 モンスター名がポップしたんだが見損ねた。もうそれどころじゃない、長くて大きな角は前方へと鋭く向けられていて、あれに貫かれたら間違いなく死に戻る。ちっくしょう、仕事しろよ【気配察知】!


「ブモオオオオオオォォォォォ!!」

「きた──────────ッ!?」


 恐るべき突進力で、赤牛がこちらへ突っ込んでくる。岩壁を背にしていた僕は、転がるように横っ飛びでそれを躱した。躱したというか、本当にギリギリ! あと1センチもズレてたら脇腹抉られてた! くそっ、相変わらずこういう反射的な動きの時に限って、身体が重いなぁ!


「ブモォ!」


 岩壁に激突した赤牛は岩を粉々に砕き、うっとしそうに首を振ってそれを払う。

 その隙に僕は全力疾走で荒野を駆け抜け、その先にあるポータルエリアへと飛び込んだ。

 ウィンドウが開き、行き先を決める選択画面が出ようとしてる横で、赤牛がこちらへ突進してくるのが見える。あああ、早く早く!


「ブモォォォォ……!」


 赤牛の声が遠ざかる。間一髪、『フライハイト』を選択し、帰還することができた僕は、広場のポータルエリアでがっくりと膝をついた。

 心臓に悪いよ、コレ……。

 そんな僕をポータルエリアにいる人たちが訝しげに見ている。ヨロヨロとなんとか立ち上がり、そのままエリア外にあったベンチへと座り込んだ。


「なんとか死なずにすんだか……」


 いや、死んだ方が楽に戻れたのかもしれないが。だけど、あの死の体験を毎回味わうのは御免被ごめんこうむる。

 事実、VRにおける移動手段としての死に戻りは、あまりされないとか聞く。死んだ時でさえ痛みはそれほどでもないが、やはり恐怖感というのはどうしても拭えないものなのかもしれない。

 実際、僕も死んだ時、このまま復活しなかったら……みたいな思いがよぎったしな。死んだあと数秒間、何も見えず何も聞こえずの『間』があるんだよなあ。あれが怖い。もしもずっとこのままだったら……。そんな風にろくでもないことを考えてしまう。

 頬を叩いて気を取り直し、あらためてインベントリを開いて回収した物を確認する。エイジャ鉱石10個、サンドラ鉱石8個、それに鉄鉱石(上質)12個か。

 稼ぎがいいのかさっぱりわからんな。

 さて、おそらく(現時点では)貴重なこの鉱石、どうしたものか。本来ならこれを元に、【鍛冶】スキルを持っている生産プレイヤーあたりに自分の武器でも作ってもらうところだけど、出処を聞かれる可能性が高い。

 やはりNPCに売るしかないか。と、僕がベンチから腰を浮かせたタイミングで奴は現れた。


「おー、こないだのシロ兄ちゃんやんか」

「トーラスさん?」


 茶髪糸目の、見た目はチャラい【妖精族アールヴ】の青年がそこにいた。


「こないだはおおきになあ。自分から買った霊薬草な、知り合いの【調合】持ちにめっちゃ感謝されたわー」

「そうですか。それは、良かったです」


 周りの人に聞こえないように、声の音量を下げてトーラスさんが囁いてくる。それに対してなんとなく目を逸らす僕。すでにこの人には怪しまれているからなあ。


「もちろんどこで入手したかとか聞かれたけど、シロちゃんのことは一切言うてへんで? 商人は信用が第一さかいな」

「はあ……それはどうも」

「せやから……またなにかお宝が手に入ったんなら色付けて買いまっせ?」


 びくうっ! と硬直する僕を見て、トーラスさんがおかしそうに笑った。


「あかんわ、自分。顔に出すぎや。もうちょっとポーカーフェイスっちゅうもんを身につけた方がええで?」

「……そんなにわかります?」

「わかるわかる。どうしよう、まずいな、っちゅう考えが丸わかりや。嘘吐けへんタイプやな、あんた」


 はぁ……。そんなにわかりやすい顔してたかね。

 うーん、どうせバレてるし、黙ってくれるみたいだから、話してみるか。


「まあ、詳しくは話せませんけど、確かに珍しいアイテムを手に入れました。だけど騒がれるのは嫌なんで、NPCの店に売ろうかと思ってたところで」

「そら、もったいないわ。危ないとこやったで。で、それをわいに売ってもらえるのかな?」

「まあ、モノを見てから判断して下さい。僕の熟練度じゃ【鑑定】できなくて、価値がわからないんですよ」


 トーラスさんとの間に開いたトレードウィンドウに、エイジャ鉱石、サンドラ鉱石、鉄鉱石(上質)を表示する。


「フォアッ!?」


 それを見たトーラスさんが大声を上げてしまって、自分で自分の口を塞ぎ、キョロキョロと周りを見回していた。


「なんなん!? これなんなん!? どっからこんな……! いや、それは聞かへん約束やけど……予想外のモンやでこれ……」


 やはりそれなりに貴重なモノらしい。やっぱりトーラスさんは僕以上の【鑑定】を持っているようだ。


「上質な鉄鉱石はまだわかるわ。攻略組が幾つか手に入れとるからな。けど、残りの二つは……まだ発見されてない鉱石やで。しかも鉄鉱石よりランクが高い。これで熟練度の高い鍛冶師が武器や防具を作ったら、間違いなく現時点では最強クラスのもんができるで……」


 トーラスさんの言葉に僕は思わず固まってしまう。やはりマズかったかな……。


「ちなみに聞くけど……。この鉱石類ってさらに入手は可能なん?」

「できないことはないんですけど……。かなり大変ですね」

「つまりは可能っちゅうことか……。ならまだマシか。正直に言うと、この鉱石に値段を付けるのは難しい。例えば【鑑定】のできんNPCが提示した金額より、わいが100Gも高く買い取れば、シロちゃんとしては儲かったことになるやろ。けど手に入れたわいが、その百倍で他のプレイヤーに売ったらどうなる?」 

「僕としたら大損した気分になりますね」


 トーラスさんを仲介しなかったら、僕が百倍の値段で売れたわけだからな。まあ、その伝手があるかとか、いろんな要素は必要になってくるだろうが。


「せやろ? 商人は儲け時を逃したらあかん。せやけど儲け過ぎてもあかんのや。それをしたらただの転売屋になってまう」


 言わんとすることはなんとなくわかる。この鉱石だって、いつかはそこらじゅうに出回るだろう。儲けるなら今がチャンスのはずだ。

 どうやらトーラスさんはチャラい見た目と違って義理堅い人のようだ。黙っていれば安く買い叩くこともできたのにな。

 ま、あとあとそれがわかったら、僕も二度と売ろうとはしないだろうけどね。


「うーん、これはわいに売るよりも、直に生産者に売った方がええと思う。わいの知り合いの鍛冶師なら、けっこうな金額で買い取ってくれるはずやから紹介するわ。あるいはその鉱石でシロちゃんの武器とか頼むってのもありやと思うで」

「僕のこととか秘密にしてもらえますかね?」

「ああ、そいつは大丈夫や。口が固い……っちゅうより、どっちかというと無口な奴やから」

 

 確かに馴染みの武器職人がいると助かるな。さらに詮索してきたりしないのなら願ったり叶ったりだ。防具に関しては金属製の物はおそらく僕に向いていないので、あまり世話にならないかもしれないけど。

 それでも金属鎧や盾ならウェンディさんのを作ってもらえるかもしれないし、悪い話じゃないのかもしれない。

 僕は素材を集める。その人はそれでランクの高い武器を作って生産の熟練度と技術経験値が上がる。作った武器で僕が強くなる。僕が強くなればさらに素材が集まる、と。


「でもトーラスさんの儲けはないんじゃ?」

「わいは商人でもあるけど、【木工】スキル持ちでな。今度珍しい材木とか木工素材が手に入ったら、そん時に頼むわ」

 

 へえ。【木工】スキルか。確か弓矢とか杖、棍棒、馬車、極めれば家とか船とか作れるようになるんだっけか。


「時間あるなら今からそいつのところに行こか。たぶん町の鍛冶場にいるはずやから」

「お願いします」


 こうして僕はトーラスさんの知り合いであるという鍛冶師に会いに、町の鍛冶場へと向かったのである。















【DWO ちょこっと解説】


■【鑑定】について

【鑑定】スキルは基本的に【unknown】のものを判明させるスキルである。

熟練度がそのレベルに達していないと鑑定できない。

また、一度【鑑定】した自分のアイテムを【鑑定済】にすることで、他のプレイヤーにも詳細がわかるようにできる。売買されて持ち主が変わっても、持ち主が【鑑定済】を解除しなければそのままである。一度解除してしまうと再び【鑑定】しなければ【鑑定済】にはならない。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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