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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第四章:DWO:第四エリア
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■106 【傲慢】の領国

■アイテム『火薬』について矛盾がありましたので修正いたしました。






「いつにも増してひでぇ顔だな」

「よし、その喧嘩買った」

「だからそういう意味じゃねえって!」


 机の上でぐったりとしていると奏汰が喧嘩を売って……話しかけてきた。いや、自分でも疲れているのは自覚できているんだけど。


「ねえ、リーゼ。リーゼもなんか疲れてない? 髪とかボサボサだよ?」

「ううー……いろいろあって心労が……」


 ちらりと横に視線を向けるとリーゼも机に突っ伏して、遥花に心配されていた。

 無理もない。あんな脅しをかけられたんじゃな。自分の望む望まないにかかわらず、秘密を抱え込むってのは苦しいもんだ。

 ここ数日、いろんなことが起こりすぎて僕も混乱気味だ。

 どこかまだ信じられないところもある。宇宙人とかホントなのかね、と。ステレオタイプのタコのような宇宙人とかなら一発で信じたかもしれないが。

 まあリーゼの話だと、その星の原住民にできるだけ似た種族が降りてくるらしいから、地球の場合火星人パターンはなかったのだろう。

 隣のリーゼを眺める。この子が宇宙人ねえ……。

 リーゼと視線がぶつかる。なんとなく気まずくなってどちらともなく目を逸らした。


「二人ともなんか変……。こっ、これはもしや、二人の間になにか進展があった!? 恋なの!? 恋の始まりなの!?」

「「違う」」

「ちぇー」


 リーゼとユニゾンした否定の言葉に遥花が唇を尖らせる。そんな話ならどんなに楽か。

 地球征服とかはない、とは言うけど、どこまで信用できる話か僕にはわからない。過激派とやらもいるらしいし。

 しかも【連合】、【同盟】、【帝国】、それぞれがなにか含むところがありそうなんだよな……。他の組織を出し抜こうとしているというか。

 はぁー……。宇宙から銀色の巨人でもやってきて三分くらいでパパッと解決してくんないかなぁ。



          ◇ ◇ ◇



 授業が終わり、帰路に就く。当然というか、僕とリーゼは同じ道を帰る。お隣さんだからな。

 帰ったら『DWOデモンズ』にログインだ。あー、その前に夕食の買い物してかないとな。ノドカとマドカは好き嫌いがないようだけど、今日はなににしたもんか。僕一人ならスーパーの弁当でいいんだけど……。

 夕飯の献立を思い浮かべる僕に、隣を歩いていたリーゼが突然声をかけてきた。


「あ、思い出した。白兎はくと君、前にお守り見せてくれたよね」

「ん? これ?」


 首元から紐にぶら下げたお守り袋を取り出す。百花ももかおばあちゃんからもらった龍眼りゅうがんだ。これがどうかしたのか?


「それね、『レガリア』って言って、ある星の王権の証なの。その持ち主は『王』としての資格を有する……つまり王位継承権を持つという証なんだけど……」

「……は?」


 コロンと手のひらに出した龍眼を持ったまま、僕は固まってしまった。レガリア? 王権の証? なにそれ?


「ちょっ、ちょっと待て! これ、宇宙人の物なのか!?」

「たぶん……だけど。私も本物を見たことはないからなんとも言えない。白兎君にはそのレガリアに『瞳』が見えるんでしょう?」

「瞳……っていうか、猫とか爬虫類の眼のような縦筋が見えるだけだけど」


 そう答えると、リーゼは僕の手のひらに乗った龍眼を、じっ、と見つめて、やがて小さく息を吐いた。

 

「やっぱり私には見えない。間違いなく『レガリア』は白兎君に結びついているよ。たぶん、それ捨てても盗まれても白兎君のところへ戻ってくると思う」


 怖っ!? なにそれ!? 呪いのアイテムかい!

 龍眼は透き通った翡翠色を夕陽に輝かせ、その名の通り、まるで龍の眼のようにこちらを見ているようだ。これが王権の証? だとしてもなんで地球に?


「百花おばあちゃんの話だと、平安の時代にうちの御先祖様が地上に落ちた龍を助けたお礼としてもらったって言ってたけど……」

「平安時代……今から800〜1200年前だっけ? たぶんその落ちた龍って漂流者ドリフターズだったんじゃないかな……。今までに地球に不時着した宇宙人も何人かはいるの。私たちに救助されればいいんだけど、遅くなると現地の人に殺されてしまうこともあったらしいからね。白兎君の御先祖様が助けたってのはそういうことなんじゃないかと思う」


 御先祖様が地球に墜落した宇宙人を匿ったってことか? それでお礼にこれをもらった?


「だからってレガリアを渡すってのはちょっと信じられないんだけど……瞳が見える以上、ちゃんと継承されてるってことだし、無理矢理簒奪(さんだつ)したわけじゃないってことだし……」

「これってそんなすごいものなのか……?」

「当たり前でしょ。日本でいうところの『三種の神器』みたいなものだよ? 天皇陛下が外国で道に迷ったからって、現地の人にお礼にあげちゃうものだと思う?」


 ありえない。それ以前に外国で迷子って時点で非常事態だけれども。

 そんなものを僕が持っていていいのか……? いや、捨てても戻ってくるんだっけか。


「次に母艦ふねに行ったときに調べてみるよ。とにかくそれはあまり見せびらかさない方がいいと思う。野心のある宇宙人が寄ってくるかもしれないから。銀河の果てまで拉致されたくないでしょう?」


 おっかないな! 百花おばあちゃん、なんちゅうもんをくれたんだ……!

 宇宙へ拉致なんてシャレにならない。僕は龍眼をお守り袋へ入れて、服の中へと戻した。

 なにかい? ウチの血筋は宇宙人と関わることになる呪いでもかかっているのだろうか?

 これって偶然なのかね。今の状況では判断しようもない。今度百花おばあちゃんのところに行って詳しい話を聞いてみよう。

 リーゼと別れ(まあ、あとでDWOデモンズで会うのだが)、スーパーへと夕食の食材を買いに行く。今日は手の込んだものを作る気力がない。スパゲッティあたりで勘弁してもらおう。お詫びとして油揚げも買っていく。いや、狐ってコレ好きそうじゃん……。


「ふおああっ!? 美味しいです!」

「ふわああっ!? 美味しいの!」

「そ、そか。そりゃよかった……」


 油揚げのチーズ焼きは好評だった。二人ともがつがつと夢中になって食べている。こら、いなり寿司とか出したらとんでもないことになるんじゃないかね……?



          ◇ ◇ ◇



 ログインすると、ギルドホームの自室にはノドカとマドカの姿はなかった。あれ? あの子らもログインしたはずだが。天社あまつやしろの方に行ったのか?

 まあ、そもそもあの子らはギルドメンバーじゃないしな。あくまでゲスト扱いで、立ち位置としてはNPCということになる。

 この『DWOデモンズ』にはNPCという存在はいないという、隠された真実があるんだけれども。

 あれ? そういやガイドキャラクターのデモ子さんも中に人がいるのだろうか? かなり喜怒哀楽の激しいキャラだったけれど。……ま、いいや。

 僕は自室を出てリビングの方に行ってみたが誰もいなかった。あれ? レンとウェンディさん、あとリンカさんはログインしているはずなのにな。

 中庭の方から声がしたので行ってみると、隅の方に造った修練場にみんなが集まっていた。

 ドスッ! と壁際に立てられた藁人形に矢が刺さる。放ったのはレンだ。しかし、手にしているのは弓矢ではない。

 木製の弓床、その先端に交差するように弓が取り付けられた、いわゆるクロスボウだ。

 構えたレンが再び引き金を引く。真っ直ぐに飛び出した鋭い矢は、またも藁人形に突き刺さり、藁人形の頭上にダメージ値がポップする。おお、結構高いな。

 あの藁人形はギルドポイントで買える、ダメージ値を測定するためのアイテムである。どんなに斬ろうが叩こうが壊れることはない。


「すごいですね。一発の威力なら今の装備よりこちらの方が上です」

「素材も今ある一番いいものを使った。威力は当然」


 レンの言葉にドヤ顔でリンカさんが答える。リンカさんが作ったんだな、あのクロスボウ。ははあ、さっそく【魔工学】スキルを試してみたってわけか。


「あ、シロさん」

「や。すごい威力じゃないか、その弓」

「はい。本当のクロスボウと違って装填も一瞬ですから連射もできます。ただ、スキルがないので専用の戦技が使えないんですけど」


 あ、そうか。レンの持っている弓のスキルは【弓の心得】から派生した【長弓術】である。僕が剣を持ってもミウラの持つ【大剣術】の【回転斬り】ができないように、レンも長弓ではないクロスボウでは【長弓術】のスキルは使えない。


「クロスボウって何に分類されるんだ?」

「鑑定ではクロスボウは【機械弓】。たぶん【機械弓術】。固定武器から習得できる特殊戦闘スキルで、【盾の心得】と同じなんじゃないかと思う」


 なるほど。リンカさんの説明を聞いて納得した。

 戦闘スキルを覚えるにはスキルオーブを使うか、元々持っていたスキルから別に派生させる方法がある。それとは別に同じ武器を使い続けると生まれる特殊な戦闘スキルがあるのだ。

 有名なところだと【盾の心得】だ。これは最初のキャラメイクで手に入れることができるスキルだが、それ以外で手に入れるには、盾を使用し続け、熟練して習得する必要がある。

 例えば【槍の心得】は【長槍術】と【短槍術】などに分かれるが、【短槍術】を選んだ場合、盾を装備することができるので、後から【盾の心得】を習得することが可能なのだ。

 【盾の心得】があれば【シールドガード】、【シールドバッシュ】といった戦技を使えるようになる。


「まったく戦技が使えないわけじゃないよね? 一応これも『弓』に分類されるわけだし」

「はい。【ストライクショット】などの【弓の心得】の戦技は使えます。ただ、【トライアロー】のような、拡散系や範囲攻撃ができないんですよ」


 むう。威力は上がったが、このままだと範囲攻撃ができないのか。それは痛いな。


「お嬢様。しばらく使用して、【機械弓術】を習得できるか試してみてはどうでしょうか。そちらなら範囲攻撃の戦技もあると思います」

「そうですね。どうしても範囲攻撃が必要な時は長弓に切り替えればいいわけですし。やってみます」


 レンが小さく拳を握りしめて決意を表明する。【機械弓術】か。長弓より小回りがききそうだし、より精密な射撃が期待できるかもしれないな。

 僕がそんなことを考えていると、リンカさんがこちらを向いて話しかけてきた。


「シロちゃんに頼みがある。私は銃も造りたい」

「銃!? そんなものまで造れるんですか。すごいな、【魔工学】……」

「それにはまだ熟練度が足りないけど、素材も足らない。なんと言ってもまず、『火薬』がない。どこかで手に入れられない?」


 そんなこと言われてもなあ。いくら『調達屋』と言われている僕でも『火薬』なんてもんはお目にかかったこともない。使われているの見たことないしな。【調合】スキルで作れるのかもしれないが……。あるいは【錬金術】……あ!

 あるじゃないか! グラスベン攻防戦でグリーンドラゴンを倒した時にもらった『炸裂弾』! あれなら近いものができるんじゃないか?

 さっそく僕はあの『炸裂弾』の作り手、ギルド『カクテル』の錬金術師、キールさんにチャットで連絡を取った。





『「炸裂弾」の爆発は火薬じゃなくて「爆弾石」って素材を使っているからなあ。「火薬」はよくわからん。噂だと「魔硝石」、「硫黄の玉」、「木炭」を【調合】するとできるらしいが、この中じゃ木炭以外はまず手に入らない。ランダムボックスか、ガチャで手に入れるしかないんだ』


 むう。どうやらかなり入手困難なようだ。『火薬』自体もランダムボックスかガチャで手に入る可能性はあるのだろうけど。あとはオークションか。


『だが「魔硝石」は【錬金術】で作れるからウチで都合してもいいぞ』


 お、それはありがたい。となると、必要なのは『硫黄の玉』か。


『普通、硫黄といったら火山帯だが……まだ「DWOデモンズ」では見つかってないしな。いや、正確には【怠惰】の領国では、か。【傲慢】の第四エリアには火山帯もあるって話だし。【怠惰こっち】とはまるきり反対だよな』


 こっちは雪山だからね。【傲慢】の第四エリアには火山帯があるのか。なら向こうのプレイヤーなら持っている人がいるかもしれない。

 領国が違うプレイヤー間でのトレードは、(今現在)普通なら無理だが、僕には【セーレの翼】がある。

 それにちょうど【傲慢】には遥花ハル奏汰ソウがいる。情報を集めるには事欠かないだろう。

 方針は決まった。キールさんにお礼を言って、チャットを切る。すぐさま今度はフレンド登録しているハルへとチャットを繋ぐ。


『はいはーい。ハルですけどもー』

「あ、ハルか? シロだけど。ちょっと相談があるんだけど、【傲慢そっち】に行っていいかな?」

『ん? まあいいけど、レンちゃんやリゼルたちも?』

「あー、うん。リゼルも後で来るからそれから向かう。えーっと、『ライオネック』のポータルエリア前で」

『りょうかーい』


 ハルとのチャットを切る。『ライオネック』は【傲慢】にある第二エリアの町だ。というか、ここしか【傲慢】の町は登録してない。

 ハルとのチャットを切ってすぐにリゼルがホームにやってきた。今日はミウラとシズカは休みらしいから、この五人で【傲慢】の領国へ向かうとしよう。

 ギルドホームのポータルエリアから、【傲慢】第二エリアの町『ライオネック』へと【セーレの翼】でパーティ転移する。

 目の前に賑やかな広場が展開し、僕らは【傲慢】の領国へと足を踏み入れた。


「へぇー。【傲慢】の領国って言っても【怠惰】の領国とあんまり変わらないんだね」


 リゼルがライオネックの街並みを見ながらそんな感想を漏らす。おいおい、まだ世間的には領国を跨いだプレイヤーはいないみたいなんだから、言葉には気をつけた方がいいぞ。

 まあハルやソウのように、リアルでの知り合いがいなければ、バレることはほぼないと思うけども。


「あっ、ハルだ! おーい、こっちこっちー!」


 リゼルがハルを見つけたのか、大きく手を振っている。やがてハルが人混みの中から僕らの方へ駆けよってきた。お供に白い狼を連れている。僕と同じ名前のホワイトウルフのシロか。

 でっかくなったなあ、お前。前は子犬くらいの大きさだったのに、すっかり狼っぽくなって。レベルが上がったんだな。


「リゼル! レンちゃんたちも久しぶり! えっと、こっちの女の子は?」


 ハルがリンカさんを見て首を傾げる。あれ、初対面だったか?


「ああ、この人はリンカさん。【月見兎うち】のギルドメンバーで、『鍛冶師メタルスミス』だよ」

「よろしく」

「おおー、生産職だね! シロくんが素材を調達してリンカさんが造ってるんだ! なんかすごい武器持ってそう!」


 うん、まあ、あながち外れてもいない。先のエリアから手に入れた素材と、リンカさんの振るう『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』によって、僕らの武器は普通のプレイヤーが造る武器より高性能だから。今回もそれ絡みでの素材集めだしね。

 とりあえずどこか話ができるところへ移動しようと、僕らはハルの後を付いていった。

 ライオネックの町の大通りを抜け、ハルは中心部から離れていく。

 やがて町外れの丘の上にある、見晴らしのいい高台に僕らはたどり着いた。

 そこには大きな洋館風の喫茶店がポツンと建っていた。喫茶店のガラスにはシールで店名が貼られている。


「『カフェ・フローレス』……? あれ、『フローレス』って……」

「そう。ここが私たちのギルド『フローレス』の拠点ギルドホーム、カフェ・フローレスだよ!」


 ハルの所属するギルド、『フローレス』。その拠点に僕らはお邪魔することになった。










DWOデモンズ無関係 ちょこっと解説】


■レガリアについて


『王の物』を意味するラテン語が由来。レガリアとは王権などを象徴し、その正統性を認めさせる品物である。刀剣や玉璽ぎょくじ、王冠、王笏、宝珠など様々な物がある。日本で言えば三種の神器がこれに当たる。




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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませてもらってます。 クロスボウよりもコンパウンドボウの方が長弓術を活かせるかもしれないですね
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