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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第四章:DWO:第四エリア
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■098 ふぞろいな冒険者たち

■入院したりなんだりで大変でしたが、皆さまもお身体にお気をつけて。





『グルガアァァァァッ!!』


 耳が痛くなるほどの咆哮をあげて、僕らへと飛びかかってきたオルトロスが、右前脚の爪をガルガドさんめがけて振り下ろした。


「いきなりかよッ……!?」


 大剣を盾のように寝かせ、その腹でガードしたガルガドさんだったが、オルトロスの一撃に堪え切れず、身体が宙に浮いてしまった。

 そしてそのまま吹っ飛んで地面へと落ちる。なんてパワーだ。


「【一文字斬り】!」


 僕は瞬間的に【加速】を使い、駆け抜けるようにオルトロスの前脚を戦技で斬りつける。

 『双剣使い(デュアルフェンサー)』となり、ジョブスキル【双剣熟練】を手に入れたことにより、攻撃力は以前より上がっている……はずなんだが、オルトロスは僕のつけた傷などなんでもないかのように、正面にいたアイリスへと向けてその爪を振るった。


「くっ!」


 襲いかかる爪を後方へ飛んで躱し、アイリスが腰から細剣レイピアを抜いた。青白い刀身が冷気のエフェクトを放つ。氷属性か。


「【ペネトレイト】!」


 後方へ飛んだアイリスが着地と同時に今度は前方へと飛ぶ。【ペネトレイト】はうちのシズカもよく使うが、薙刀術だけじゃなく細剣術でも使えるんだな。

 戦技による力を込めた突きの一撃がオルトロスの前脚に突き刺さる。しかしこれもダメージを受けたそぶりも見せずに、オルトロスは口から炎を吐いた。

 その炎は正面にいたアイリスに襲いかかる。


「!? っ、『クロケル』!」


 オルトロスから抜いたレイピアをヒュン、とアイリスが上へと一閃させると、彼女の前に瞬時にして氷の壁が現れ、炎からの直撃を防いだ。

 しかしその氷の壁はあっという間に炎によって溶けてしまう。なんとかその間にアイリスは横へ退避していたが、あの炎のブレスはヤバいだろ……。

 クロケル……確か彼女のソロモンスキルは【クロケルの氷刃】。あれがその能力なのだろうか。


『シャアアアァァァッ!』

「おっとぉ!?」


 余計なことを考えていた僕にオルトロスの尻尾が牙を剥く。蛇の頭をしたその尻尾は軽くアナコンダほどの太さがあり、それが意思を持った別のモンスターのように襲いかかってくるから面倒だ。

 手にした双炎剣『白焔改びゃくえんかい』と『黒焔改こくえんかい』で斬りつけて、そこから一時退避しようとした時、パチッ、と空気が帯電したように弾けた。え、これって……!


「【雷槍】」


 そう呟いたユウ君の手のひらからズバンッ! と稲妻が走る。その一撃はオルトロスに直撃し、ついでにその周囲へいた僕らへも稲妻を撒き散らした。危なっ!


「ちょっ! なにしてのよ! 気をつけなさいよね!」


 僕と同じく巻き込まれかけたアイリスがユウ君に文句を言うが、彼はどこ吹く風と聞き流し、今度は手のひらを上にかざすと、そこにバスケットボール大の雷の塊を発生させた。


「え、ちょっと……!」

「まさか……!」

「【雷球】」


 嫌な予感がした僕とアイリスは急いでオルトロスから離れる。次の瞬間、ユウ君の手から放たれた雷の玉がオルトロスへと炸裂した。


『グルガアァッ!?』


 さすがにこれは堪えられなかったのか、オルトロスが唸りを上げて一歩後退する。しかしそれも一瞬で、すぐさまオルトロスは自分にダメージを与えたユウ君へとヘイトを移し、駆け出していく。


「【アイスバインド】!』

『ガッ!?』


 横から放たれたジェシカさんの魔法がオルトロスの足を凍結させる。それを力任せにバキバキと壊していくオルトロス。少しの足止めにしかならないのか。


「【サウザンドレイン】!」


 今度は後方からレンの放った矢の雨がオルトロスへと降り注ぐ。その間に倒れていたガルガドさんがオルトロスへと接近し、高く跳躍して大剣を振りかぶった。


「【大切断】!」

『シャアアアアァッ!』


 勢いよく振り下ろされた大剣を、鞭のようにしなった尻尾の蛇が弾く。空中でバランスを崩したガルガドさんはなんとか着地したが、その間にオルトロスは【アイスバインド】の呪縛から脱出し、後方へ跳んで逃げた。くそっ。


『ゴガァアアァァッ!』


 再びオルトロスは炎のブレスを吐き、首を振って広範囲に撒き散らす。僕らはダメージを受けつつもそれを全力で避け、オルトロスから距離を取った。


「ちょっとあんた! さっき私たちを巻き添えにしようとしたでしょ!」

「……別に。勝手に避けると思った。避けられないタイミングじゃなかったし」

「この……!」


 アイリスがユウ君へ食ってかかる。確かにさっきのは避けられないタイミングではなかった。しかし一声かけてもよかったんじゃないかとも思う。

 

「っていうか、お兄さんたち出し惜しみしているの? みんなソロモンスキル持ってるんでしょ?」


 睨みつけるアイリスを無視して、訝しむような目を僕に向ける。どうやら彼は僕らが手を抜いていると思っているようだった。心外だな。


「あいにくと私たちのソロモンスキルはあなたたち二人のような直接的な戦闘スキルじゃないのよ。悪いけど期待しないで」

「……そう」


 僕の代わりにジェシカさんが答えると、ユウ君は興味をなくしたかのように視線をオルトロスへと戻した。なんというか、ドライな子だな……。

 ガルガドさんのアイテムドロップ率が上がる【ヴォレフォールの鉤爪】は知っているが、ジェシカさんの【ナベリウスの祝福】がどんなスキルなのか僕らは知らない。

 ジェシカさんの言う通りなら、戦闘で活躍するスキルじゃないようだ。


『ゴルガアァァァッ!』

「来るぞッ!」


 オルトロスが真っ直ぐにこちらへと駆けてくる。僕らは散開して逃げたが、オルトロスはユウ君へと狙いを定め、その身を宙へと踊らせた。


「……ッ、【雷装】」


 ユウ君の両腕に装備された黄金のガントレットが雷を纏う。彼はバチバチと帯電しながら、迫り来るオルトロスに対して拳を固めた。


『グラアッ!』

「【剛昇拳】」


 ユウ君をひと飲みにせんとばかりに大きく口を開いたオルトロスは、その鋭い牙を外され、喉元に雷を帯びた一撃を食らう。


「っ……!?」


 軍配はユウ君に上がったかに見えたが、拳を食らわせた右腕が、無数に生えた蛇のたてがみにがっしりと絡め取られている。

 オルトロスはそのまま軽く地を蹴り、首から地面へとダイブした。


「ぐふ……ッ!」


 グシャっと、リアルなら内臓が破裂してもおかしくないほどの衝撃。くっ、大丈夫か!? さすがにあれだけでHPが0になるとは思えないが、僕のように紙装甲ならあり得る。


「【ファイアボール】!」

『ブグアッ!?』


 ユウ君を押し潰したオルトロスの横っ面に、ジェシカさんの放った特大の火の玉がぶち当たる。

 オルトロスが立ち上がった瞬間、ユウ君が蛇の手から離れ、地面に落ちた。


「【加速】!」


 僕はオルトロスの脚の間をくぐり抜けるように駆け抜けて、倒れたユウ君を拾い上げる。そしてそのまま大回りをして、レンの下へと彼を運んだ。


「【ハイヒール】!」


 レンが覚えたばかりの中回復魔法を発動させる。彼女はあまりMPが高い方ではないので、序盤でのこの【ハイヒール】は痛いが、この際仕方がない。


「大丈夫ですか? 動けます?」

「……別にハイポーションとか持ってたのに」


 回復魔法をかけられたユウ君がレンの視線を外しながら立ち上がる。いや、助けてもらったのにその言い草はないだろう。レンが戸惑っているじゃないか。お礼の言葉くらいあるだろう、普通。

 僕が一言文句を言おうかとすると、


「……でもありがとう」

「あ、はい」


 ぼそりと素っ気なく、ユウ君の口から感謝の言葉が漏れ、僕は開きかけた口をパクパクとさせてしまう。……なんだ、普通に言えるじゃんか。


「……そっちのお兄さんもありがとう」

「いや、まあ……うん」


 ……悪い子じゃないのかな? ちょっと人とのコミュニケーションが苦手……というか取り方がわからないっぽいけど。


「えっと……ユウ君はパーティプレイの経験は?」

「ない。ずっとソロ」


 それはそれですごいな……。第二エリアのボスであるブレイドウルフとか、一人で倒したってことか。


「ちょっと! 突っ立ってないで手伝いなさいよ!」


 オルトロスの攻撃をしのぎ続けるアイリスから怒号が飛んできた。おっといかん。立ち話している場合じゃなかった。


『シャアアアッッ!』


 オルトロスの尻尾である大蛇の口から、紫色の霧のようなものが辺りに噴出される。もうもうと立ち込めた紫色の霧は辺りに広まり、視界を薄っすらと染める。

 ピコン、と音がして自分のHPを見ると、ごく僅かだが減っていた。


「毒霧か!?」


 大きなダメージが付与されるものではないようだが、こう広範囲ではキュアポーションなどで毒を消してもまた食らってしまう。それなら……。

 僕はインベントリから特製の毒消し飴を取り出して口に含んだ。

 この飴は毒消しの効果を持続させる効果がある。舐めている間、毒を回復し続けるので、毒の沼地などでも普通に活動できるのだ。

 僕の行動を見て、レンも自分のインベントリから渡してあった毒消し飴を取り出して口に投げ込んだ。

 僕は小さな小瓶に入った残りの飴をユウ君に手渡す。


「……これは?」

「毒を無効化する飴だよ。ユウ君も舐めるといい」


 僕が説明すると彼は目を見開いて驚いていた。正確には無効化しているわけじゃないんだけどね。毒を食らっても瞬時に解毒しているってだけで。

 ユウ君は小瓶から取り出した深緑の飴を無造作に口の中へと放り込んだが、しばらくしてあまり豊かではない彼の表情がぐにゃりと辛そうに歪んだ。


「に、がい……」

「だろうねぇ。毒消し草をぎゅっと濃縮させたものだから。ま、良薬口に苦しって事で」


 今思ったが、【バカ舌】スキルがあればかなり苦い回復飴とか毒消し飴でも舐めていられるんじゃなかろうか。まあ、それだけのために戦闘スキル枠をひとつ使うのも贅沢な気もするし、回復ったって限度があるからな。それ以上の攻撃を受けたら回復も追っつかないし。

 ガルガドさんたちも飴を舐めたようで問題なく動いていた。アイリスもジェシカさんからもらったようだ。


『ゴガァアアアァァァァッ!』


 オルトロスが火炎放射器のように二つの口から炎を吐く。毒霧の中、ジェシカさんが【アイスウォール】、アイリスが【クロケルの氷刃】で作り上げた、似たような氷壁でそれを防いでいた。おっと、ヤバい!


「【加速】!」


 僕は最大速度でオルトロスへと迫り、インベントリから閃光弾を取り出して【投擲】でその片方の顔面目がけてぶん投げた。


「みんな目をつぶって!」


 閃光弾がオルトロスの顔面に当たると同時に爆発し、眩しい光が周囲に炸裂する。


『グルギュアァァァッ!?』


 視界を奪われたオルトロスがその場で暴れまくる。ジェシカさんたちはその隙にオルトロスの射程範囲外へと退避した。


「【トライアロー】!」


 後方からレンの放った矢が三つに分かれてオルトロスを襲い、躱すことのできない黒い巨犬はその三つの矢すべてを全身に受けた。

 と、後方に数歩下がったオルトロスが、その二つの頭を太陽へと向け、怒りの咆哮を上げる。


『グルオオオオオオオォォォォォォォォォッ!』

『ゴルガアアアアアアァァァァァァァァァッ!』


 大気を震わせる衝撃波がダブルで僕たちを襲った。身体が硬直して動くことができない。

 これって……ブレイドウルフと同じ【ハウリング】か!

 僕らの中で誰一人動くことができなかった。僕とレンは【耳栓】スキルを持ってないし、ガルガドさんたちも持っていたって【耳栓】なんて特殊なスキルを常に装備スロットに入れているわけがない。


『グルルァァ……』


 オルトロスは目が回復してきたのか、僕らの方へと視線を向ける。こちらも【ハウリング】の呪縛から逃れ、動けるようになったが大きなチャンスを逃してしまった。

 【カクテル】のキールさんに『炸裂弾』を作ってもらっとくべきだったな……。


『ルガァッ!』


 オルトロスが前脚の爪で宙を切り裂く。その爪の先から四本の衝撃波がまるでサメの背ビレのように地面を抉りながら飛んできた。


「今度は【ソニックブーム】かよッ!?」


 ガルガドさんがぼやきながら、飛んできた衝撃波を防御する。

 【剣術】スキルにある【ソニックブーム】、【刀術】スキルにある【風刃】など、中距離まで斬撃が届く戦技はいくつかあるが、今のはそれにそっくりだった。

 爪を収めたオルトロスが再び空へと首を向ける。


『オォオオオオオォォォォォォォォォッ!』

『アァアアアアアァァァァァァァァァッ!』

「また……ッ!」


 【ハウリング】による再度の硬直。その直後、オルトロスが猛スピードで僕らに向かって突進してきた。


「ぐはっ!?」


 レンをかばったガルガドさんが吹っ飛ぶ。

 怖っ。あの巨体に体当たりを食らったら僕なんか一撃でやられるぞ。躱せないことはないけど、攻撃に転じられない。これじゃジリ貧だ。


「パワーもスピードもブレイドウルフとは比べ物にならないわ……。まず、あの機動性を削がないと話にならない」


 アイリスの意見に僕も賛成だ。しかしどうやってあの動きを止める? バインド系の魔法も一時的で、すぐに脱出されてしまうし……。


「地道に足を狙って動きを削っていくしかないかしら……。あるいはステータス異常を付与させる……」


 ステータス異常……? あっ……それがあったか! そうかそうか! それなら!


「【分身】!」

「えっ!?」


 驚くアイリスをよそに僕は【分身】で四人に分かれる。インベントリから各自『それ』を取り出して、オルトロスへと【加速】で一気に近づいた。


『ガルガァッ!』


 再び爪のソニックブームが四人の僕へと向けて放たれる。しかし【見切り】の上位スキル【心眼】を持ち、【加速】状態の僕ならそれを躱すことは不可能ではない。

 オルトロスへと近づいた僕は、持っていた『それ』……リンカさんが作り、ポイズンジェリーの猛毒を付与してくれた毒撒菱どくまきびしをジャラジャラと地面にバラ撒いた。


『ガアッ!』

「おっと」


 噛み付いてくるオルトロスの牙を躱す。撒菱のダメージはほぼないも同じ。オルトロスはなんの躊躇いもなく撒菱の上を動き回って僕に一撃を食らわせようと追いかけてくる。

 オルトロスの脚は大きく、さらに四つ脚だ。ドウメキの時とは比べ物にならない量の撒菱がザクザクと刺さっていく。


『ガガッ!?』

「おっ!?」


 オルトロスに紫色の毒のエフェクトが発生する。よしっ! さすがにあれだけの判定回数を重ねればヒットもするか。毒霧のお返しだ。

 相手も毒持ちモンスター、HPは大して減らないかもしれないが、毒のダメージを受けるたびにごく僅かだが、動きが止まる。今までのスピードでは動けないだろ。


「動きが鈍くなったわ!」

「今だ!」

「いく」


 明らかに動きに精彩を欠き始めたオルトロスを見て、アイリスとガルガドさん、それにユウ君が前に飛び出した。

 逆に僕は【分身】を解除して後方へと下がる。もう限界。HPもMPもレッドゾーンに突入しそう……。

 後は任せた。











DWOデモンズ ちょこっと解説】


■【ナベリウスの祝福】について

ソロモンスキル【ナベリウスの祝福】は、死んだ場合のデスペナルティを受けないという効果を持つ。これは個人だけではなく、パーティを組んだ全員に効果があり、これにより【スターライト】のメンバーは、死んでも一時間のデスペナルティ回復を待つことなく、すぐに戦闘を続けることができた。序盤でこれはズルい。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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