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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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■009 初調合



 学校から帰ってくるとさすがにもう限界で、そのままベッドに倒れこみ、三時間ほどの睡眠を取った。

 起きたらすでに七時を回っていて、少し焦ってしまったけど。

 DWOデモンズ中では二十四時間の間に一日が三回巡ってくる。

 これは八時間で一日が過ぎるということではなく、本当に体感時間で二十四時間過ぎるのだ。つまり丸一日DWO(デモンズ)にログインしていれば、三日過ごしたと同じだけの時間が感覚的にプレイヤーには流れることになる。(実際は一日のログイン時間が決められているので、丸一日ログインするのは不可能だが)

 DWOデモンズの一日、八時間のうち、だいたい五時間が昼で、三時間が夜。

 つまり、こちらの二十四時間に当てはめると、今現在、午後七時というのは、ゲーム時間ですでにお昼を越えているということなのだ。

 ゲーム内でも夜になってしまうとやれることは限られてしまう。そんな無駄なことをするわけにはいかない。

 手早く夕食を取り、VRドライブを起動させて、DWOデモンズの世界へとログインした。





 目覚めるとそこはログアウトした安宿の個室で、窓から見える景色がまだ昼下がりの午後だということを認識させる。


「お、本当にパラメータが少し上がってるな」


 ステータスを確認すると、筋力から幸運度、HPたいりょくMPまりょくSTスタミナにいたるまで一時的に5%ほど上がってる。これは高級ないい宿屋に泊まれば、もっと上がるのかな?

 この効果を無駄にしないためにすぐにでも狩りに行きたかったが、その前にフレンド登録を確認する。

 レンとウェンディさんがログインしているのが確認できた。えーっと、声を送るチャットってのはこれか?

 レンの名前をタッチすると、ピッ、と向こうに繋がった音がした。


『はい。シロさんですか?』

「あ、うん。そう。今どこにいる?」

『【北の森】に狩りに来てます。ウェンディさんも一緒です』

「そうか。じゃあ今から僕もそこに行くよ。入口のところで会える?」

『はい。わかりました。では』


 チャットを切って、僕は宿屋から通りに出る。通りには相変わらずプレイヤーやNPCが行き交い、賑やかな喧騒を生み出していた。

 そのまま北区の方へと向かい、広場のポータルエリアへと足を踏み入れる。【北の森】を選択し、一気に転移した。

 北の森の入口で少し待つと、レンとウェンディさんがやって来た。僕はまた二人のパーティに入れてもらい、それからパーティのメンバーにしか聞こえないという、パーティチャットで話しかける。


『なぜ目の前にいるのにパーティチャットを?』

『ちょっと周りに聞かれたくない話なんでね。実は【セーレの翼】の効果がわかった』


 疑問を抱くウェンディさんにそう答え、昨日起こったことを話していく。


『なるほど、ランダム転移ですか。レベル上げには使えませんが、様々な場所に行けるのなら、素材の収集にはいいかもしれませんね』

『モンスターからは取れないけどね。戦ってもまず勝てないし』

『じゃあ活用できそうなのは、せいぜい【採取】、【採掘】あたりです?』

『【伐採】も行けるかもしれませんよ、お嬢様』


 やはりこのスキルの使い道といったらせいぜいそのくらいだよな。

 だけどそれをお金にするのは難しいかもしれない。昨日も怪しまれたし。

 するとレンが提案してくる。


『「露店の敷布」を買って、自分で売るってのは?』

『無人販売にしておいても、プレイヤー名は出ますからね。結局、シロ様のことがバレてしまうと思いますよ』


 自らのアイテムを販売できる『露店の敷布』は、無人販売にしておくこともできる。その際は売り子の代理アバター(デモ子さんのようなミニキャラ)が店番をしてくれるのだが、プレイヤーがログインしてないと値引きや相談・交渉などはできない。

 そしてその際も『○○の店』と鑑定すれば表示されてしまうらしい。それでは意味がない。


『普通にNPCの店に売るしかないか』

『それが一番良いかと』


 無難に方針がまとまったところで、さっそく狩りを始める。昨日買った装備をやっと試すことができた。

 ククリナイフのおかげで、灰色狼も前より楽に倒せるようになった。防具の方もダメージを吸収してくれる。こりゃいいや。宿屋効果もあるんだろうけどね。

 僕らは森の奥へと進み、開けた場所で『水晶鹿』というモンスターに出会った。

 けっこう大きい。頭の角がキラキラと水晶のように輝いている。


わたくしが引き寄せます。シロ様は回り込んで遊撃をお願いします。お嬢様は援護射撃を」

「わかった」

「うん」


 こちらに気付いた水晶鹿が敵意を持って向かってくる。それに対し、大きく息を吸い込んだウェンディさんが、勢い良く口から火炎放射器のように火を吐いた。うおっ! びっくりした! これが【竜人族ドラゴニュート】の種族スキル【ブレス】か。

 熟練度が上がっていくと、炎だけじゃなく、氷とか毒とか、様々なブレスを使えるようになるらしい。

 しかし、まだ低レベルの【ブレス】は、それほど水晶鹿にダメージを与えることはできなかった。だけど、これで水晶鹿は狙う対象をウェンディさんに定めたようだ。

 さらにウェンディさんは盾を構え、【挑発】スキルを使う。

 モンスターには敵対心ヘイトというプレイヤーへの攻撃優先順位を決めるための数値があるという。

 これが高いほどモンスターに狙われるわけだが、【挑発】スキルはそれをさらに高める効果がある。

 つまり、今現在、水晶鹿の狙いはウェンディさん一人に絞られて、攻撃がそっちへ向かうってことだ。

 鹿の突進をウェンディさんが盾を使って受け止める。ともすれば吹っ飛ばされそうな一撃だが、ウェンディさんはビクともしない。ゲームとはいえ、細身の女性が大きな鹿の突進を受け止めるは、なかなかにシュールだ。

 あれは【不動】スキルが発揮されているんだな。

 今のうちに鹿の背後に回り、ククリナイフを一閃。後ろ足で蹴られる前に、バックステップで離脱する。

 今度は僕の方に敵対心を向けて来た鹿の体に、ドスッ! と後方からレンの放った矢が刺さった。その隙に剣を構えたウェンディさんの戦技が放たれる。


「【スラッシュ】」


 鹿の首元から盛大な血飛沫が飛ぶ。

 戦技【スラッシュ】は、斬撃系の戦闘スキルの熟練度が10%を超えると習得できる、いわゆる「必殺技」だ。

 くそう、カッコいいな。僕も早く覚えたい。

 そんな思いを抱きつつ、よろける鹿の横腹にククリナイフを突き立てる。そこへ再びレンの放った矢が次々と刺さり、水晶鹿は光の粒子となって消えた。


「なんとか倒せたな」


 ドロップアイテムは自動的に各自のインベントリにランダムで放り込まれるようになっている。その場でドロップするようにもパーティリーダーの設定でできるようだが、パーティの場合、この方が面倒がなくていい。


「あ、『水晶鹿の角』が手に入りました!」


 レンが嬉しそうにウィンドウを開いて確認している。いいなあ。僕の方は『水晶鹿の肉』と『水晶鹿の毛皮』だ。なんと、ウェンディさんも『水晶鹿の角』を手に入れたらしい。

 パーティで戦闘すると、その戦闘貢献度によってドロップするアイテムや量が変わるらしい。なるほど、サボっているやつにはレアアイテムは出にくいようになっているわけだ。回復役や支援役にもちゃんとこの貢献度は適用される。

 しかし一匹しか倒してないのに、なんで角が二個ドロップするんだろう。左右の角で二本ってことなのかな?

 それからも僕らは森の奥で魔獣を狩り続けた。時々、森の中で薬草も小まめに採取しておくのを忘れない。中には【解毒草】というものもわずかだがあった。

 やがて陽が暮れてきたので引き返すことにし、今日の狩りを終える。

 リアルの時間でいったらもう午後九時過ぎだ。さすがに小学生をこれ以上夜更かしさせるわけにもいかないしな。

 二人が協力してくれたおかげでレベルも二つ上がって6になった。


「じゃあ、シロさんまたー」

「おやすみなさいませ、シロ様」


 フライハイトの噴水広場で二人はログアウトした。二人は宿屋に泊まらないんだな。

 さて、僕も夜の町に繰り出すか。

 向かったのはいつもの「素材屋」。『水晶鹿の肉』や『灰色狼の毛皮』、『一角兎の角』だのを一括で売る。なかなかけっこうなお金になった。

 それから町の道具屋へ行き、【地図】と【ピッケル(小型)】、【調合セット(初級)】を買う。

 ピッケルの方は鉱石を採掘するために、調合セットは自分でポーションを作るために買ったのだ。それと忘れずに、作ったポーションを入れる小瓶もいくつか買っておく。

 そして最後にスキルショップへ行き、初期スキルである【採掘】と【採取】を買った。

 わはははは、これで今日の稼ぎはほとんど使い尽くした。また貧乏に逆戻りだ。まったく宵越しの金は持たないとか、江戸っ子じゃないんだからさ……。

 ふう、とため息をついて、昨日と同じ宿屋へ直行する。さすがに宿屋に泊まるくらいのお金は残してあるよ?

 前金を払い個室へ入ると、さっそく買ったばかりの調合セットを取り出す。買った時についていた小冊子を開くとポーションの作り方が載っていた。



■薬草を五枚、薬研やげんを使い、ゴリゴリと細かく潰します。


■蒸留水(なければ効果は落ちますが、普通の水でも構いません)を細かく潰した薬草と混ぜ、用意した小瓶に注ぎ、【調合】を発動させます。


■初心者ならば30秒ほど待てば、ポーションが完成します。熟練度により、成功率や時間が変わります。



 ……なんだこれ。ホントにこんなんでポーションできんの? まあ、いかにもゲーム的で助かるけども。

 マジで専門的な作り方とか面倒くさいだけだし。僕はゲームがしたいんであって、薬剤師の修業をしたいわけじゃないからな。

 とりあえずレシピの通りに、薬研やげんと言われるV字型の器に薬草を入れて、車輪状のものでゴリゴリと潰す。


 ゴリゴリ……。

 ゴリゴリ……。

 ゴリゴリ……。


 ゲームなのに……けっこう……労力がいるな……。

 んー、これくらいでいいか?

 潰した薬草を小瓶に移し、蒸留水なんか手持ちにないので、とりあえず今日は水筒の水をトポポポ、と注いでいく。んで、【調合】を発動、と。

 ポゥッ、と小瓶が光り、脈動するように点滅する。な、なんか爆発とかしそうな雰囲気だな。

 突然、ポンッ、という音と小さな煙のエフェクトが起こる。うわっ、びっくりした。

 ……完成、したのか?


───────────────────

【ポーション(粗悪品)】 Gランク


■ポーションという名を騙った苦い水。

 わずかだがHPが回復する。

□回復アイテム/体力回復

□複数効果あり/

品質:BQ(粗悪品バッドクオリティ

───────────────────


 おおう……なんと惨憺たる……。Gランクって問題外じゃないか。アイテムのランクは普通Fが最低である。つまりGというのは売り物にもならないということで……。ランク外ってことだ。品質も粗悪品だし。

 ま、まあ、初心者なら最初はこんなもんだよな。


「とにかく数をこなせば熟練度も上がって、品質の高いポーションができるはずだ。よし、やるぞ!」


 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ポーション(粗悪品)】。

 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ポーション(粗悪品)】。

 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ポーション(粗悪品)】。

 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ポーション】。


 お! 初めて粗悪品以外の物ができた。


───────────────────

【ポーション】 Fランク


■HPが回復する。

□回復アイテム/体力回復

□複数効果あり/

品質:S(標準品質スタンダード

───────────────────


 うん、普通のポーションだな。やっとまともなのができた。五回作って一回の成功率か。

 うーん、残りの薬草はどうしようかな。薬草のまま売ればそれなりにお金になるけど、調合してしまうと売れもしない粗悪品ポーションの山になりかねない。

 いくらなんでもこんな粗悪品を買ってはくれないと思うしなあ。

 ええい、もういいや! この際【調合】の練習と割り切って、粗悪品を量産してやる! 少しだけど技術経験値も入るし!

 粗悪品、粗悪品、粗悪品、通常品、粗悪品、粗悪品、通常品、粗悪品……。

 ちぇっ、まともなのは合わせて三つだけか。わかってたけど、虚しいなあ……。

 ふと、薬草の量を増やして作ったらどうなるかと思い、試してみた。レシピの五倍、二十五枚ほどの薬草をゴリゴリと潰し、ポーションにする。


───────────────────

【ポーション(濃縮)】 Gランク


■HPが回復するが……。

□回復アイテム/体力回復

□複数効果あり/

品質:S(標準品質スタンダード

───────────────────


 んん? これは成功したのか? 品質は標準品質スタンダード。ランクは規格外のGランクだが。

 よくわからないが、ちょっと飲んでみる……か? 一応回復するとは書いてあるし。する「が……」が怖いけど。

 狩りから戻ってきて、HPも減ったままだから、どれくらい回復するかわかるだろう……。


「ブフォッ!?」


 僕はそのポーションをひと口含んだだけで、すぐさま吐き出した。


「ごへっ! ぶへっ! ペッ!」


 苦すぎる! とてもじゃないが飲めたもんじゃない! おまけに回復率は普通のポーションよりも低い! いや、低いのは吐き出したからかもしれないが、これは無理!

 ドロリとした舌触りがまた最悪だった。


「気持ちわるっ……」


 今だに口の中に苦味が広がってて、一向に消えやしない。うあー……。

 ダメだ、薬草を無駄にしただけだ。

 もういいや、早いけど今日はここでログアウトしよう。明日また学校で居眠りするのもまずいからな。

 僕は全てのアイテムをインベントリに突っ込んで、ウィンドウのログアウトに触れた。














【DWO ちょこっと解説】


■熟練度について

スキルにはそれぞれ緑色の小さなゲージがあり、熟練度が上がるにつれて中の黄色のゲージが伸びていく。これが緑から黄色に全部変わると熟練度が100%となり、☆マークがつく。

この熟練度によって、パラメータは上がっていく。筋力などのパラメータは☆マークがついたときに上がるのではなく、ゲージの上昇で上がっている。

同じ種族、同じレベルでも【剣術】の熟練度10%持ちと、90%持ちではその時点でパラメータが違うということ。



【DWO ちょこっと解説】を前の話にも付け足しました。のちのち設定が変わるかもしれませんが。







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― 新着の感想 ―
[一言] どろり濃厚ゴーヤ味。
[一言] 薬草を五枚とありますが、草ならば数え方は一本二本、、、 葉っぱならば枚で良いかとは思いますが。少し気になりましたので。
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