最後の一砂
滑り落ちる時をじっと見つめていた。青い砂の入った砂時計はきっかりと3分でその役割を終え、再びひっくり返すことでまた命を吹き返す。そしてまた3分。わたしはそれを無心で繰り返しながら、ほかになにをするわけでもなく、西日の差し込む部屋にいた。
あとこれを10回繰り返す頃にはご飯の支度をしよう。
なんとなく頭の片隅で思いながら、果たしてそれが実行されるかどうかは怪しかった。もう何度この砂時計を逆転させたかわからない。そもそも端から回数など数えてはいないのだから。
不思議と心が落ち着くこの「儀式」を、わたしはいつの頃からか続けていた。ロウソクの炎を見つめるよりも自分には効果があっただけだったが、しかして、返す回数は以前にも増して多くなったような気がする。
センセイは、心配ないと笑ってくれた。「以前のあなたよりはよほど健康的だ」とも。ほんとうにそうだろうか。この狂気じみた「儀式」が不健康じゃないと、ほんとうに言い切れるのだろうか。
ことん。
また砂時計を逆さまにする。ああ、これは、何度目の3分後なのだろう。今が何時で、いつからの3分後で、いつの3分前なのだ?
ことん。
黒い何かがわたしの中に入り込むほど、わたしはひたすらに青い砂の最後を見届けなければならない。その最後の一砂がいつ落ちてもいいように、ただじっとしている義務があるのだ。
でも、結局、いつもなにが最後なのかわからなくなる。
ことん。
連綿と続くこの「儀式」はいつか光を見るのだろうか。3分ずつ歩を進めるわたしの時間は、いずれ途切れぬ世界へと行けるのだろうか。センセイはまた笑って励ましてくれるだろうか。
そろそろ、晩ご飯かな。
ことん。