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13.頑固者のノート

ご無沙汰しております。個人の事情で執筆の難しい環境となっています。

本当に少しづつ書いて、何とか話の区切りのつく所までになりましたので、思い切って更新します。


 大国主おおくにぬしのおかげで俺の友人の大海原わたのはら隼人はやとは、とくに後遺症もなく一日の検査入院を経て全快した。面会謝絶だった生死をさまよう病人が、突然ケロリと回復したのだ。医者はやたらと首をひねって隼人の全身を精密に検査したが、


「どう考えても健康体としか言えない」


 と、それ以上の詮索を諦めた。だが念のためにと数日間は登校を控えるように釘を刺され、くそまじめな隼人はそれに従うことにしたという。

 本人は元気な自覚があって、こんなお墨付きをもらうことが出来たのだから、俺や速須なら喜んで「堂々と授業サボれて、ラッキー!」とゲーム三昧にでも更け入るところだ。


 だが隼人は堅物なので、テスト前のこの時期に授業に出られないことを惜しんでいた。そして見舞いに行った俺に休んでいる間の授業のノートを取ってくるようにと指図した。しかもそのノートの書き方を事細かく指示して。


「げー、面倒くせっ。板書きの写しをコピーすれば十分だろ?」俺が苦情を言うと


「お前のノートはひどくいい加減だからな。ノートぐらいちょっとは頭使って書いた方がお前のためになる」


 なんて、上から目線なセリフを吐かれた。


「人にもの頼んどいて、その言い方はないだろ?」


「お前や速須が赤点採らずに済んでいるのは、お前たちのために俺の取ったノートをわかりやすく解説付きにしたのを見せてやったおかげだろ? ギブアンドテイク。たまにはお前の方から感謝を見せろよ」


「あれ、解説付きだったのか?」


「……教科書くらい、読め。お前たちの事だから、気づいてないとは思っていたが」


 こういうものの言い方が腹立つんだよな~、こいつは。


「そういうのを親切の押し売りっていうんだ。こっちだって性格悪いお前の友人やってるんだし」


「友人が少なくて声掛けあったのはお互い様だ」


「だったら、速須にも頼めばいいだろ? なんで俺ばっかり」


「お前、自分だったら速須にノートを預けるか?」


 絶対、預けないな。授業を聞いているかも怪しいし。途中で放り出されて落書きでもされるのが関の山。やることがまるで小学生だ……

 結局俺は渋々隼人にノートを取ってくることを承諾した。


 承諾はしたが、はっきり言って面倒臭い。もともと俺も黒板に書かれたことさえテキトーに端折って書く方だし、隼人に言わせれば


「予習して要点を抑えてあれば、授業に集中しながらでも的確なノートは取れる」


 ってことらしいが、予習だの要点だのを考える気があれば、上から目線の隼人にわざわざノートを借りる必要なんてない。速須ほどあからさまじゃないが雑念のもとになる女神も憑りついているし、俺もバイト三昧だったのをいいことに適当にテストの出題箇所のヤマを張って、授業を聞き流したりしている。、正直さぼり癖がついてしまったんだろう。


 これを機会に勉強のペースを造り直せばいいのは分かってるんだが、なんていうか……隼人みたいな奴にああいう言われ方をすると、なんかやる気がそがれるっていうか……。

 で、俺は手を抜くことにした。隼人のノートの恩恵を受けたのは速須も一緒だ。本来なら勉強であいつをアテにするなんて無謀もいいところだが、今のあいつには「未来の嫁」がいる。転校早々申し訳ないが、稲櫛にも手伝ってもらおう。稲櫛はなんか頭良さそうだし、速須が頼めばきっと断らない。


 俺が「隼人のノート、手伝ってくれ」というと、案の定速須は渋ったが、稲櫛に頼んでもいいと言うと、それなら頼んでやると快諾した。嫌にすんなり引き受けた(いや、速須がノートを書くわけじゃないし)と思ったら、速須のやつは休み時間に教室で直接稲櫛にノートの件を頼み込んだ。

 元不良の速須が注目の美少女転校生に、不躾とも思える頼みを堂々としたのだ。当然教室中の視線が二人に集まった。だが稲櫛は、


「私のノートのコピーじゃダメなの?」と聞き返した。


「駄目だ。訳ありでね」と、詳細も明かさない速須に


「……仕方のない人ね。ちゃんと後で復習してね」


 と言ってあっさり引き受けた。まあ、稲櫛としては自分の未来の娘のせいで俺たちの友人を死の淵に立たせたのだから、ちょっとした罪滅ぼし気分で甘い態度になったんだろう。だが、事情を知らない級友たちは(特に男子が)驚いた。


「なっ! なんだよっ。なんで稲櫛さんが速須の馴れ馴れしい頼みを引き受けるんだ? 速須! 稲櫛さんとなんかあったのか?」


 うろたえる級友に速須の答えは、


「別に。学校のごろつき連中に撫子が絡まれたのを、ちょっと助けただけさ」


 あのバカ。相当事実を歪曲している。


「撫子ぉ? いきなり下の名前で呼んでるっ。稲櫛さん、いいんですかぁ?」


 動揺する男子たちだが稲櫛は


「いいの。速須君は特別だから」


 と、きっぱり答えた。元夫を『君付け』で呼ぶことに照れがあるのか、気恥ずかしそうに頬をほんのり赤らめながら。

 教室内のだれもがあっけにとられ、速須と稲櫛を見つめている。こりゃあ、色々憶測を呼びそうだ。速須はと言えば狙い通りの効果に鼻高々で、いい気分そうな顔をしている。こんな真似して男の嫉妬を一身に浴びても、俺は知らね~ぞっ。


 なんて、他人ごとみたいに思っていたら、厄介なことになった。その日の放課後、稲櫛が困り顔で速須に頭を下げてきたのだ。


「ごめんなさい。預かったノートが一冊、どうしても見つからないの」


 隼人ってやつは面倒な性格をしている。寂しがりのくせに砕けたところがないし、くそ真面目で融通が利かない。努力家だからそれなりに成績がいいが、それを笠に着て「俺様」が過ぎるところがある。性根は親切心もあって悪くないんだが、嫌味や皮肉を口にして素直な部分を隠そうとする。

 たかがノート一冊。しかも面倒な注文を付けたのは隼人の方だ。それでもあいつのことだから、なくしたノートを絶対返せと必要以上に文句を言うのは目に見えている。


 とにかく、隼人の厄介な性格をよく知っている俺たちは必死にノートを探したが見つからない。稲櫛が簡単に人から預かったものをなくすとは思えないから、たぶん速須の調子の良さが嫉妬を招いて誰かに悪戯わるさでもされたんだろう。


「速須君のノートじゃなかったんだ」


 事情を話すと稲櫛は責任を感じたらしい。道祖神へのクラスアップのための修行(?)中だった咲耶と橘まで呼び出して、俺たちと一緒にさらにノートを探し回ってくれた。しかしノートは見つからない。速須に対する誰かの嫉妬なら、すでに捨てられた可能性もある。


「なくしたのは私だもの。大海原君って人に、一緒に謝るわ。私のノートや予習のメモもコピーするし、授業内容も説明する。誠心誠意お詫びすれば許してもらえるんじゃない?」


 普通ならそうだよなー。でも、あいつの頑固さは筋金入り。隼人の家に謝罪に行くと、転校したての美少女(しかも実は女神)の誠意も効果がなく、


「ノートの問題じゃないね。俺は理のことを心配して、ワザとあんな頼み方をしたんだ。それなのに横着して預けたものをなくす根性が気に入らない」と、容赦ない。


「だからこんなに謝ってるじゃないか。これ以上どうしろっていうんだ」


「どうしろもこうしろもない。預かったものはちゃんと返せ。それだけだ」


「だから見つかりそうもないって言ってるだろ? あんまり無理言うと、友人の縁を切るぞ」


 売り言葉に買い言葉で、俺もつい強気な言い方をすると、


「あー、それでも結構。こっちは大して困らないね。ただし、縁を切ってもノートは返してもらうぞ。じゃなきゃこっちの気が済まない」


 う~っ。なんつー、可愛げのない態度だっ! こっちだってお前なんか知るもんか……と啖呵を切りたいのは山々だが、コイツは自分が厄介な夫婦神に憑りつかれていることを知らずにいる。教えてやったって、頭の固いコイツが「神」だの、「転生」だの、「祟り」だのを信じるはずもない。悔しいが、俺の方が心配で本気で縁を切ったりできそうもない。


「どうしたらいいんだ……」


 隼人の家を出ると、俺達はマジで途方に暮れた。


「うーん。こうなったら僕の身内の『海の物知りじーちゃん』に頼るっきゃないかな」姿を現した橘が、眉間にしわを寄せながらつぶやいた。


「あいつを説得できそうな救いの神がいるのか?」俺は思わず反応した。


「説得っていうか……。塩椎神しおつちのかみっていう僕の遠縁にあたる有名な物知りの神がいて、今度の件と似たような話を聞いたことがあるんだ。塩椎しおつちじーちゃんは人を助けたり導いたりするのが専門だから、なんか知恵をくれるかもしれない」


 こんな身近に頼るアテがあったのか。


「ただねぇ。じーちゃんも本当にいい歳になってるから、ちゃんと相談に乗れるかな……?」


 橘が不安げにそういうと、突然、いかにもヨボヨボな老人が目の前に現れた。


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