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第88話

 別室に入って二時間後。



 私は真っ白なドレスを着せられ、綺麗にメイクアップもしてもらい、ご丁寧に、短めとはいえベールまでつけてもらい、まるで花嫁さんみたいな恰好で別室から出された。


 部屋の外では増沢君が、待ちくたびれた様子もなく、携帯で誰かと話をしているようだったけど、私を見た途端、電話の向こうに二言三言、話をしてさっさと電話を切った。


「・・・・・・・」


 私の姿を見て、増沢君は呆然と立ち尽くした。


「あ、あの・・・・」


 いったいどういう事なの? そう聞こうとしたけれど、それよりも先に


「思った通りだ! 姉御に良く似合ってます!

 そのドレス、茉莉香さんが姉御にって選んだんですよ!」


「茉莉香さんが?」


 昨日結婚式を挙げた茉莉香さんを思い出した。昨日はろくに話す事も出来ず、遠くからそっと、幸せを見守るだけだった。

 

 そんな私の思いを知ってか知らずか、増沢君は、抱き付いてきそうな勢いでそう言うと、手続きをして、私の手を取って店を出た。


 店を出ながら、引きずらない長さとはいえ、慣れないベールの扱いに困っている私に、店の人がついてきてくれて、車に乗るのを手伝ってくれた。


「ねえ、どういう事? 何があるの? どうして私こんな格好させられるの?」


 不満と疑問を爆発させつつ、運転席の増沢君にそう聞いたけど、彼は"いいからいいから"といって相手にもしてくれない。


 車を走らせてしばらくして、やがて車は目的地に着いた。


着いたところは、観光地から少し離れた海沿いにあるリゾートホテルだった。ホテルのそばには海があり、私が泊まっているホテル同様、海がきれいなところだった。


「ここに、みんな宿泊してるんです」


「みん・・・な?」


 その言葉に、背中が冷たくなった。でも、彼は嬉しそうに頷いた。そして車を降りると、助手席のドアを開けて、私に手を貸してくれて、車から降りた。


「もうみんな、スタンバイしてるはずですから、急ぎましょう!」


 スタンバイって、なによ!! そう聞く事も出来ず、彼は私の手を引いて、ホテルのフロントへと向かった。


 フロントの大きな時計は、もうすぐ10時になる。増沢君と待ち合わせしてから、ゆうに三時間がすぎようとしていた。思ったより時間がかかっていたことに軽く驚いた。


 増沢君が、フロントで何か話すと、すぐに私はホテルの従業員さんに別の場所に案内された。増沢君は、相変らずフロントで何かを話している。


「ま、増沢君!!」


 慌てて彼を呼んだけど、時すでに遅し、あっという間にフロントの奥の施設へと続く通路へと案内されて、彼の姿は見えなくなってしまった。


 通路の奥は、パーティーが出来るほどの大きな部屋・・・日本のホテルで言う所の宴会場、とか披露宴会場、といった所だろうか? 


 日本と違い、窓が多くて開放的だ。窓から庭に出ることが出来て、海が一望できるようだ。


 やがて通された部屋は、何かの控室のような部屋だった。


「ここでお待ちください」


 流暢とは言えない日本語でそう言われ、私は勧められるままに椅子に座り、辺りを見回した。


 窓に面した明るい部屋で、海が良く見えて、とても景色のよいところだった。向こうの方は、プライベートビーチになっているようだ。ここでのんびりできたらどんなに素敵だろう。


でも、何も知らされていない私は、不安に駆られっぱなしだった。


嫌な予感がして、そして真相が知りたくて、私は控え室の外に出て、さっきのパーティー会場へと向かう短い廊下を慣れない服装で走り、そっと中を覗いてみると・・・


「うっそでしょ?」


小さく呟いた。


その会場にはすでにお客さんらしい人が揃っていて、事務所のタレントさんやらスタッフ、今日帰国するはずのうちの両親まで座っている。しかも、全員夏服とはいえ正装していた。まるでこれから披露宴かパーティーでも始まるかのように・・・


 そして、私の、白いドレス・・・まさか・・・


 その光景と、今の自分の姿と、これから始まる何かに、今更ながら驚いて後ずさりたとき・・・


「逃げるなよ!」


 四年たっても、忘れることなど出来ない声が、耳に突き刺さった。びっくりして振り返ると、その視線の先には、昨日の兄と同じ、白いタキシードを隙なく着こなしたた結斗が立っていた。


「全く・・・控え室にいないと思ったら・・・」


 テレビ越しの機械音じみた声でも、歌っているときの磨き上げられた声でもない、生の・・・以前は当たり前の様に聞いていた、俺様口調な結斗の声だった。


 その姿は、あの頃よりももっと精悍で、歳を重ねたせいか、凛々しくなったように見える。以前はもっとアイドルっぽくて華やかな雰囲気だったけれど、今はそれ以上に大人の色気も混ざって、以前よりも魅力的な姿だった。彼はタキシード姿のせいか、その魅力に拍車がかかるようだった。

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