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第61話

やがて時は過ぎ。


 兄は、私と話す事さえ、なくなった。


 反抗期、とかいうものだったのかもしれない。


思春期、と呼ばれる時代だったのかも知れない。


 つい数年前まで、兄べったりだった私は、今は中学生となり、用がない限り、兄とは話さなくなっていた。


兄も同じだった。


 でも、それを不思議には思わなかった。


 私は、自然に兄離れし、兄は、自然に妹離れしていく。


その時がくるまでは、側にいなくちゃいけない時間。無理やり引き剥がしちゃいけない、大切な大切な時間。


 それぞれが成長してゆくのに必要な、大切なステップ・・・・後になって、そう言うものだと判った。


 私の視線は、大好きだった兄から、テレビの画面の向こうの、キラキラした世界へと変わっていった。


 そんな世界で歌って踊るアイドルを、私はうっとりした目で見ていた。


 最近デビューした、とあるアイドルグループの一人だ。


「ねえねえ、"司"ってすっごいかっこいいね!」


「そうかー?」


 私の笑顔を、不満げに見る、お兄ちゃん。


「うん! 王子様みたい!」


「王子さま、ねぇ・・・」


 お兄ちゃんは呆れたように笑った。


「何よ?」


 その笑いが気になって、私はお兄ちゃんを睨んだ。


「別に」


 普通の家庭の、普通の兄妹の会話が、そこにあった。


「お兄ちゃんが、こんなカッコよかったらよかったのになぁ…」


「うるせっ!」


 憎まれ口をたたきながらも、私とお兄ちゃんは、一定の距離を保ちながらも、普通の家庭の兄妹として育ち・・・


 私は地元の中学から、地元の高校へと進学して・・・お兄ちゃんは大学へ行き・・・・・


 そして・・・・・




 私もお兄ちゃんも、それぞれ、堅実に就職して、地元で暮らして。


 都心で一人暮らしすることもなく、華やかな世界に身を置くこともなく。


 テレビの向こうの世界に夢を馳せ、叶わない恋をして、元気や笑顔もらって。


 いつか、本当の恋をして


そして・・・





 ウエディングドレスを着た私を、兄は茫然と見ていた。


「・・・似合う?」


「馬子にも衣裳」


「もうっ! お兄ちゃん嫌い!」


「嘘。似合ってる」


 そう言うと、お兄ちゃんは穏やかに笑い、私の頭をそっと撫でてくれた。


「おめでとう。幸せに、な」


「ありがとう」


 兄よりも先に結婚が決まった私は、兄に、持っていたブーケを手渡した。


「??なんだよ?」


「次に結婚できますように」


「お前は・・・っ

 花嫁のブーケを貰った奴は、次の花嫁になるんだよ!

 男がもらったって意味ないだろ!」


「いいじゃん!


 私の最後の嫌がらせ!

 悔しかったら、早く結婚してよ!」


「うるせっ!」


 兄の舌打ちが聞こえた。それでも、私が差し出したブーケをちゃんと受け取ってくれた。


 そして、向こうで待っている、あの人の所へ行こうと、兄に背を向けた。


 その時。


「花奏!」


 兄に、名前を呼ばれた。そう言えばこうして名前を呼ばれるのは、何年振りだろう? それぞれの思春期と反抗期を経て、名前を呼ぶことはなくなっていた。


 その兄が、"花奏"と呼んでくれた。それが嬉しくて、振り返った。


「何?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 兄は何か言っていた。でも、その声は上手く聞き取れなくて、口が動いているのだけ、見えた。


「なぁに?聞こえないっ!」


 私は兄に近づいて、もう一度聞こうとしたけれど、近づき、あと少しで兄に触れられる距離まで近づいた時・・・辺りが再び、真っ白な光に包まれた。

 


 


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