表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/97

第60話

 突然、意識が明るくなった。


 少しだけ、セピア色の世界だった。


 懐かしい風景が、目の前に広がっていた。


 懐かしい公園、通学路、小学校の裏の桜並木・・・そして、私が生まれて育った家。


 (花奏! ほら、学校行くぞ!)


 お兄ちゃんが、準備が終わるか終らないかの私に、そう声をかける。


(まってよー!!)


(ほら! 急げ!)


 私は慌てて、ランドセルを背負って、玄関で靴を履いて待っているお兄ちゃんの所へと行く。


(お待たせ!)


(じゃ、行ってきます)

(ママ、いってきまーす!!)

(行ってらっしゃい! 車に気を付けるのよ!)


 私達の背中を、母が笑顔で見送ってくれた。


(ほら、手!)


そう言って差し出された手に、何の疑いも疑問も持たずに私も手を伸ばし、手をつないで登校していた。それを冷やかしたりする人もいなかった。


 途中、お兄ちゃんのお友達も合流して、学校に着くころには大人数になっていた。集団登校みたいな登校風景だった。


 でも、それが私の日常だった。





 記憶が、途切れた。


 セピア色だった風景は、もう少しだけ色合いを帯びた。


 私の目の前には、中学の制服を着た、お兄ちゃんがいた。今日から中学生になるお兄ちゃんと、もう一緒に登校できない。


「じゃ、行ってきます!」


 登校時間も、私よりも早くなり、私がお兄ちゃんを見送るようになった。


「いってらっしゃい!」


 私は、お兄ちゃんに手を振った。


 その日から私は、一人で学校まで行く事になった。


 いつも兄の周りで騒がしくていた兄の友達たちも、今日から中学生だ。


 妙に静かになった周りに、戸惑っていると・・・


「新堂さん! おはよう!」


 登校途中に声をかけてきてくれたのは、同じクラスの女の子。私のうちからは少し離れた所に住んでいるけれど、学校の側まで来ると、通学路が一緒になる。


「お、おはよ」


「一緒に行こうよ!」


「うん!」


「新堂さん、おはよう!」


「花奏ちゃん!」


 気が付くと、私の周りには、同年代の女の子で一杯になっていた。


 記憶のない風景に戸惑いながらも、私は学校へと向かって行った。



 

 放課後、私は、少し離れた所に住んでいる女友達と一緒に遊んで。

 お兄ちゃんは部活で毎日帰りが遅かった。


お兄ちゃんがいないのは寂しかったけれど、家にいるお兄ちゃんは、以前どおり、優しかった。


「隼人、明日は?」


「午前中から部活!」


(あれ・・・?)


 お兄ちゃんのその言葉に妙な違和感を感じた。


(お兄ちゃん、いつの間にか部活にはいったんだろう?)


(それに、土日は、いつも三人でどっか遠くに出かけていたような・・・)


 心の中に妙な違和感を感じながらも、私は、違和感以上に、幸せな家の中の空気に身をゆだねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ