第56話
さんざん考えた結果。
次の日の仕事上がり
俺は草野のマンションへと行ってみた。
珍しく、仕事が午後の早い時間に終わったので、マネージャーに草野の家の近くで降ろしてもらった。
草野のマンションは、住宅街の中にある中型マンションだった。駅前や大通りのような人通りの多さはないけど、住宅のどこにも人の気配を感じる事ができた。何かあった時に目撃者が全くいなくなる・・・という雰囲気でもなかった。
これだけ人の気配と生活感が漂っているなのに、驚くほど周囲は静かで、まるで時間が止まっているような雰囲気さえする場所だった。
叫び声が上がれば誰かが気づきそうだし、不審者がいれば、目撃者がどこかで必ず現れるだろう。
マンションのメイン玄関は、例によってカードキーでロックされるもので、簡単に内部に入れる所ではなかった。
「部屋番号は・・・」
増沢にもらった草野の情報には、部屋番号も書かれてあった。
「405号室・・・4階か」
そう呟いた時だった。
「っきゃーーーーー!」
「窓から女の人が!!」
「おい、あの子、首に鎖つけてるぞ!」
周囲の人のざわめきが聞こえ、同時にマンションの周辺にわらわらと人が集まってきた。
そして、改めて、草野の部屋のあたりの窓を見てみた時!
・・・俺は、その光景を、一生忘れられないだろう。
花奏が、窓から、首をつっている姿。
その首には、まるで犬の様に、鎖がついていた。
あの部屋に監禁されていた花奏が、
思い余って窓から飛び降りたんだろうか?
鎖の長さが、一階の地面までの長さはなく。
二階の高さの辺りで、首つり状態となっていた。
「か・・かな・・・で・・・・」
それを見た途端。頭の中が真っ白になり、へなへなと膝が地面に着いた。
その場に座り込んでいた。
「おい、大丈夫か?」
近くにいた老人にそう声をかけられたけど、俺は反応さえできなかった。
「ちょっと、誰か救急車呼んで!!!」
女性の高い叫び声が、静かな住宅地に響き、さらに目撃者を増やしていった。
俺は、ハッと我に帰り、ポケットから携帯を取り出すと、動転したままの震える指で救急車の手配をした。




