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癒しの空間の気が抜けないやつら 長谷部編

作者: 五十嵐 涼

 何故、サラリーマンはスーツ姿なんかで仕事をする決まりになったのだ。


だいたいどの季節にも合わないし、着心地だってこんな窮屈な服装は仕事効率を悪化させているだけではないか。


こんな拘束具みたいな格好をさせられて会議で「良い案を出せ」なんて言われたって、脳みそまで締め付けられている感じがして出るものも出ない。


突き刺す様な夏の日差しを全身にジリジリと浴びながら、長谷部 広太はそんな事をブツブツと呟きながら外回りの営業を今日もこなしていた。


今時の若者らしい細身の体系に、着なれて無い感がにじみ出ているスーツ姿。


どこからどう見ても、仕事がバリバリに出きるタイプには見えない。


実際、長谷部は要領も悪く仕事が出きるタイプではなのだが、枠から外れる事は出来ないタイプな為、今日も嫌々ながらもこうして仕事をこなしていた。


彼は小規模な店舗に顧客や売り上げ管理システム導入を斡旋している会社に勤めており、新規の店に行っては営業を、既存の顧客から何か連絡があればすぐに駆けつけるという営業兼サポーター役をこなして、いや、強いられていた。


なにぶん、長谷部の勤めている会社は人件費削減の為、慢性的な人手不足でまだ入社1年目だという彼にどんどんメインの仕事が任されていっていた。


「はぁ〜転職したいな〜、でもせっかく正社員で働けているしな〜」


大学を卒業して、この就職難の中正社員になれただけでもよしとするべきなのだろうが、長谷部には大学生気分がまだ抜けておらず毎日仕事をする事への不平不満が日々蓄積されていくばかりだった。


「駄目だ、こんな暑さじゃまともに頭も働かない。美和さんに癒してもらおう」

 

彼は短くカットした髪の間から滝の様に流れ落ちる汗をハンカチで拭いながら、ドロドロと溶けてしまいそうな重い足をある店へと引きずり歩いた。


その店は商業店舗で賑わうビル群から少し外れ、人通りがまばらになる裏路地の古いビルの地下一階にあった。


昭和臭が漂う小さなオフィスビルの中で、その地下のお店だけが異空間の様であり、入り口の扉も錆び付いた鉄板みたいな無機質なドアでなく、ぬくもりのあるウッド調の扉になっていた。


長谷部がその扉を開くとカランと少し高めの心地よい音をたててドアーベルが鳴る。


「あ、いらっしゃい」


店は入り口の正面にカウンターがあり、カウンター席が5席、あとは奥にゆったりとした2人掛けのソファー席が1つあるだけの小さなものだった。


カウンターの中には店の店主である美和という女性が立っており、コーヒーカップを丁寧に拭きながら長谷部に笑顔を見せた。美和は長い髪をキッチリと一つに束ね、白いシャツに黒のエプロン姿でいかにも喫茶店といった格好をしていた。顔は特別美人といった訳ではないが柔らかい女性らしい魅力があり、30代手前の良い落ち着きも持ったその雰囲気は、仕事に疲れた男達にはたまらないといった感じだ。


店内には煎れたてのコーヒーの香りが立ちこめており、長谷部はその香りと美和の笑顔を吸い込む様に深く深呼吸をすると、ゆっくりと瞳を閉じた。


(はぁ〜、ここに来るとやっぱり落ち着くな〜)


長谷部が幸福を噛み締めていると、いきなり顔面に固い物体がぶつかってきた。


「いっ、いでっっ」


痛みで目を開けると、そのにはアコースティックギターを背負ったおかっぱ頭の美少女が立っていた。


長谷部の顔面に当たったのは彼女のギターのヘッド部分で、本来なら彼より小柄な彼女が背負っているギターが顔面なんかには当たる筈もないのだが、わざとなのか何なのか彼女はやたら高い位置で背負っている為、よく彼の顔面に攻撃をしてくるのだった。


「そんな所で突っ立っていられると邪魔なんだけど。早く金置いて帰れよ」


「いやいや、ユウコちゃん、まだ俺来たばっかりだし。座ってもなければ注文もしてないんですけど」


「じゃあ、早く座んな」


ユウコは無愛想にカウンターの一番端の席を指差した。


このユウコという少女はまだ17歳なのだが高校には行かず昼間はこの喫茶店でバイトをし、夜は路上でライヴを行うという生活を送っていた。


彼女は祖父がイタリア人という事もあり日本人離れをしたハッキリとした目鼻立ちをしており、街を歩けば男性だけでなく女性からも振り向かれるという程の容姿の持ち主だ。


しかし、本人にはその自覚が全くない上に破天荒な性格も兼ね備えている為、残念な事にいつもダメ男ばかりに引っかかってしまう。


男が出来ると「命よりも大事」と言い張るギターをあっさり売り、男に貢ぎ、そして捨てられてはバイトで貯めたお金でまたギターを買い、路上で失恋ソングを叫びまくるという事を永遠とループしていた。


「お、長谷部くん、今日も仕事さぼっていて良いのかな」


カウンターには既に先客がおり、長谷部の方を振り返ってニシシと笑った。


「Qさんこそ、毎日居ますけど原稿大丈夫なんですか?」


Qさんと呼ばれたその男は、中肉中背に黒ぶち眼鏡のまぁなんとも地味で特徴の無い顔の男だった。


彼は40年間一度も女性の肌に触れた事がない癖に官能小説を書いているという自称作家だ。


同人誌などで作品を販売しているらしいのだが、売れているのかどうかは謎である。


因に、本名のどこかに「きゅう」が付いているのでQさんと呼ばれているらしい。


「ここで書いているから良いんだよ、ほら」


そういいながら彼はカウンターの上に置いてある小型のノートの画面を見せてきた。


「えーと『昌男は栄子の事を考えると夜も眠れない。一見すると目を瞑りいびきをかいている姿は眠っている様だが、夢という妄想と闘っている為眠ったうちには入らないのだ』」


彼が官能小説作家だという事を分かっていながら、長谷部は美和やユウコの前で堂々と声に出して読み始めた。


何故この様な大胆な行動が女子の前でこうも平然と出来るのかには理由がある。


「ふむふむ、『そして、101回目のデートの日、妄想を現実とする為昌男はついに栄子の手を掴んだ。その乾燥したシナチクに菜種油を垂らした様な肌に昌男の理性は富士急ハイランドを飛び越えてしまったのだ。「え、栄子!」昌男はブーメランの様に一度栄子を放り投げては引き寄せると、博多名物からし明太子をすり潰して磯辺揚げにした様な唇を栄子のクロワッサンを彷彿とさせるその頬に押し当てた』……」


店内に沈黙が響き渡る。


「……ま、前よりは2人の距離が縮まった感じがしますね」


長谷部がぎこちない笑顔を作りながらも、なんとか言葉を口にした。


「私もそう思いますよ。クロワッサンって美味しそうなほっぺだし」


美和がふわりとした笑顔を見せる。多分彼女は本気でそう思っているのだ。


「いやいや、才能ないって、Qさん。だいたい経験も無い癖に官能なんて書いているんじゃねーよ」


ユウコの剣山よりも鋭い言葉にガクリとQが肩を落とした。


「待て待て、経験が無いからこその想像力じゃよ。Qくんには他の人には無い素晴らしい想像力がある。その目を紡いではいかんよ、ユウコくん」


そう声を掛けてきたのは、ソファー席に座る白髪の長い髪と髭を生やした着物姿の男性だった。


年齢は70代後半といった所だろうか。見た目だけで判断すると、書道家や陶芸家の様に見えた。


「また安賀谷さんの病気が始まった。無い才能を無理矢理見つけようとしなくて良いんだって」


ユウコがはぁと大きくため息を吐く。


「才能が無い人間なんていないといつも言っているだろう、ユウコくん!」


安賀谷がシワシワになった小さな瞼をカッと開いた。


「じゃあ、聞くけど安賀谷さんには何の才能があんのよ、ん?ジジイ、言ってみろよ」


「わ、わしゃ、わしゃ、えっと、その」


モゴモゴと口籠る安賀谷にユウコが見下した様な視線を浴びせ続けた。


「才能無いヤツはいねーんだろ?何の才能があるんですかー安賀谷さーん」


「わしゃ、わしゃ、女性のパンチーを見ただけで寿命を3年伸ばせるという才能を持っておるのじゃーーーーー!!!!!」


バキィィィィィィ


ユウコが背負っていたギターをフルスイングさせ、安賀谷の顔面に命中させた。


「で、長谷部、注文は」


刀を鞘に収める様にギターを背負い直すと、ユウコがギッと長谷部の方に顔を向けた。


「ひっっ、い、いつもので」


「ふふ、そう言うと思ってもう作っておきました」


美和がスッと長谷部の前にコースターを置くとその上にアイスコーヒーが入ったグラスを乗せた。アイスだというのにコーヒーから良い香り立っていた。


「それから今日のお菓子は、クローバー型クッキーですよ」


グラスの横に白い小皿をそっと置く。


そこには四葉のクローバーの形をしたクッキーが二枚入っていた。


ここで出るお菓子は毎日美和が作っているのでそんなに凝ったものは無く、いつもこういった素朴なお菓子が多かった。


「クローバーか、へぇ可愛いですね」


ふふと嬉しそうに美和が笑う。


「美和さんには笑顔という才能があるな、ふむ」


ユウコに殴られた所為で鼻から血をダラダラたらしながらも、安賀谷が満足そうに腕組みしながら頷いた。


(あれ?クローバーって……)


ふと、長谷部の頭の中でぼんやりとした記憶が蘇ってきた。


(小学生くらいの時、同級生の女の子がクローバーを持っていて。……で、あれ何だったっけ?)


しかし、その蘇り方が何ともあやふやなもので、彼自身も全く何の事かその時は思い出せない。


そんな事をしても記憶が蘇る訳ではないのだが、長谷部はクッキーを手に持ち凝視し続けていた。


「なになに、長谷部くん美和さんのクッキーをまじまじと見つめて。美和さんの手で作ったクッキーだ、えへへとか思っているのかな?」


ニヤニヤしながらQが彼の顔を覗き込む。


「えっっ、べ、別にそんな」


本当にそうじゃなかったのだが、長谷部が慌てて弁明する姿にますますQは口元をにやけさせコソッと耳元で呟いてきた。


「くくく、良いって。分かっているって。君が美和さんを好きな事くらい美和さん以外は全員気付いているから」


その言葉にはっと振り返ると、ユウコと安賀谷までもニヤついた顔をして長谷部を見ていた。


(えーーーー。みんな俺がここに来ている理由は美和さんだと思っていたのかーー!)


しかし、それはあながち間違いでもなかった。


実際、長谷部がこのお店に来るのは美和8割、仕事の休憩2割で、言ってしまえば殆ど美和目的だったのだ。


「長谷部くん分かり易いからな〜、でも気をつけろよ。美和さんをゲットするにはまず鬼頭さんを倒さないと」


Qがそう言い終わるか終わらないかというタイミングで、カランとドアーベルが音をたてた。


一斉に皆の視線が入り口に集まる。


「あ、噂をすれば」


入り口に立っていたのは、角刈りみたいに短く切り揃えられた髪に口ひげ、体にかなりフィットした白いタンクトップとパンツ姿の男性だった。手にはマイクスタンドが握られ、声は出さないがシャウトしている様なパフォーマンスをしてみせた。


「当店、変態の入店は固く禁じております」


扉を男性にぶつける勢いでユウコが激しく扉を閉めた。


男は店に入る事なくユウコに閉め出されてしまったのだ。


扉が閉まると皆何事も無かった様に元のスタイルに戻った。


「今日のは分かり易かったね。鬼頭さんのコスプレもネタが尽きてきたのかな」


Qがコーヒーを啜りながら、ちょっと物足りなさそうな顔をしてみせた。


「フレディーさんですね」


美和がクスクスと笑いながら言う。


「フレディーじゃったな」


「え?誰ですか?」


「はぁ!?フレディー・マーキュリーも知らないのかよ、長谷部!伝説のバンド『クイーン』のボーカルだろ!」


ユウコに怒鳴られ、長谷部はああ!といって手をポンと叩いた。


「ああ、クイーンね。それなら知っているけど。でも、なんで鬼頭さんって毎回ミュージシャンのコスプレばかりして店の前で立っているんですかね」


長谷部の問いにQは「あーあ」とわざとらしく声を上げる。


「かー、長谷部くん。その時点で完全にストーカー鬼頭さんに負けているね。美和さんはかなりの音楽好きでジャンルを問わず詳しいんだよ。だから、美和さんを喜ばせる為に鬼頭さんはああやって毎回ミュージシャンのコスプレをしては店前に立っているんだよ」


「はぁ、なるほど」


長谷部には美和が音楽好きという情報を得る事が出来たという喜びはあったが、そこで鬼頭に負けたという気分には全くならなかった。


(いくら音楽が好きだからといって、美空ひばりとか、ビートルズとか、スティービーワンダーのコスプレされもね…しかも今回もクイーンって)


だがしかし、いつも美和が顔をしかめずクスクスと笑っているだけという部分は少しだけ長谷部にも引っかかっていた。


チラリと美和の顔を見る。


「どうしました?」


美和は相変わらずの笑顔で彼に返した。


そう、それは誰に対しても同じ笑顔だったのだ。


(美和さんって何を考えているのかイマイチ掴めない人だよな〜)


「っって、わわわ」


ぼんやりしていると急に長谷部の胸ポケットがブルブルと震えた。


慌ててポケットを探り携帯を取り出す。


「うわ、お客さんからだ」


着信の名前を確認して長谷部が深くため息を吐いた。


「お、人気者だね〜長谷部くん」


「嫌みですか、どうせクレーム処理ですよ」


「働け働け、で、金を置いていけ」


ユウコが会計用のトレイを長谷部の横に置いた。


相変わらずのユウコの味気ない態度にも素直に従う癖付けがここに通い出した数ヶ月間ですっかり出来てしまっている長谷部は、言われるままに財布からお金を取り出す。


「若者には試練が必要じゃ。試練こそが長谷部くんの才能じゃな」


「……そんな才能いりません」


「あ、長谷部さん、ちょっと待って」


美和がそのまま席を立とうとする長谷部を呼び止め、クッキーが数枚入った袋を手渡してきた。


「クローバーのクッキー、気に入ってくれたみたいだから。お仕事の合間にでも食べて下さいね」


「あ、ありがとうございます」


袋には可愛らしい四葉のクローバーのシールが貼ってあった。それを見てまた彼の記憶が蘇る。


(そうだ!クローバーを女の子から手渡されて…)


『これ、はせべくんにあげるから。だから、約束わすれないでね』


突然、長谷部の頭の中に少女の声が響いた。


「あっっっ!!!思い出した!!!」


いきなり彼が大声を出したものだから、皆が何事かと目を丸くした。


しかし、その声よりも遥かに大きな音をたてて店のドアが破壊されるくらいの勢いで開いた。


「馬鹿亭主ーーー!!!!帰ってこんかーーーい」


現れたのは、なんともグラマラスな体系をしたスリップ姿の女性だった。


まだ歳の頃は25、6歳くらいだろうに、胸の辺りまである巻き髪はぐしゃぐしゃに乱れており、化粧は夜の蝶かと思わせる程のけばけばしく玄人感が半端ない。


顔は真っ赤で目は座っており、完全にアルコール濃度が限界値を超えている様子が誰の目にも丸わかりだ。


しかも、スリップはスケスケなので下着が完全に見えており、一歩間違えなくても公然わいせつ罪状態だった。


「あらあら、舞華さんまたお昼から一升瓶空けちゃいました?」


下着姿の女性の登場にも美和の笑顔は微塵も崩れる事がなかった。


「あ、美和さーん、ごめんねーいきなり。また馬鹿亭主が店をほったらかして居ないのよー。でさ、美和さんの所に来てないかなーって、って、おっととと」


よろりと舞華の足元がもつれ、そのまま倒れそうになるのを長谷部が両手で支えた。


「だ、大丈夫ですか?」


男の性と言うべきか、思わずその豊満すぎる胸元に目がいってしまったが、あまりの酒くささにすぐに長谷部は顔を逸らした。


(うわっっ、酒っくせーーー)


「あ、広太きゅーーん、ありがとーー」


舞華が唇を突き出し長谷部の頬に吸い着こうとした為、彼は両手を突っぱね全力でそれを阻止する。


「や、め、て、く、だ、さ、いー」


「舞華さん、今はお昼の時間だから西村さんきっとご飯を食べに行かれたんじゃないの?ほら、お店の看板もきっと休憩中になっている筈ですよ」


美和がそう言うと彼女は長谷部から離れ、トロンとした目つきのままで首を傾け暫し考えている様なポーズを取った。


「あ、あーーー??ああ!!なってたなってた!あ、そっか。じゃあいいわ。ごめんねーお邪魔してーー」


彼女はヨタヨタとした足取りで店のドアを手に取ると、急に酒が抜けたみたいにシャキッとした顔と声でカウンターの方に向かって声をかけた。


「昼飯ならキッチリ一時間で帰ってこいよ、わかってんだろーな」


「きっと戻られますよ、西村さんは」


誰に言ったのか分からない台詞だったが、一応美和が返事を返すとまた顔をぐにゃりと崩し、千鳥足で舞華が店を後にした。


「私、舞華さん好きだわ〜ああいう女性になりたいわ」


憧れの芸能人でも見たかの様にユウコが呟いた。


「だろうね」


完全に呆れ顔で長谷部が答える。


「いやぁ〜美和さんご迷惑をおかけしました」


ひょこりとカウンター下から、ア○パンマンに出て来るパン職人のおやっさんみたいな顔をした50代くらいの男性が現れた。


短髪の白髪まじりという髪型さえ除けば、服装も顔も完全にあのおじさんと一致する人畜無害そうな男性だ。


「に、西村さん!?そんな所にいたんですか!?」


長谷部が驚き思わず仰け反った。


「ふふ、西村さん、あとで舞華さんのご機嫌取りしておいた方が良いんじゃないんですか?」


「ははは、そうですね」


困っているのだか、照れているのだか分からない顔でぽりぽりと西村は頭を掻いた。


この西村という男は、美和の店のすぐ隣で小さなパン屋を営んでいる。


天然酵母のこだわりパン屋などと雑誌で紹介された為、そこそこの人気店であり、よって西村でも舞華の様なナイスバディーで二周りも歳が離れた女性を嫁に迎えいれる事が出来た。


しかし、舞華の強烈なキャラクターの所為で従業員と客が逃げ、今は夫婦二人で、いや、西村一人で細々と経営しているのだった。


「でもね、僕はこのお店で珈琲を飲んでいる時が一番幸せなんですよ」


西村が美和の手をそっと握る。


この西村という男、見た目はジャムだが中身はたらしというどうしようも無い男だった。


「おい、西村、美和さんに勝手に触ってんじゃねーぞコラ」


ドスを突き刺すかの様にユウコがギターをカウンターにどんと振り下ろした。


「ユウコちゃん、舞華とキャラ被りすぎ。一つの話に似た様なキャラは二人もいらないから」


「あ?なに訳わかんない事いってんだよ、このジャム!」


「あ、そんな事よりさ、長谷部くん、お客さん良いの?」


Qが西村達の事は完全に無視して、冷静に長谷部へと疑問を投げかけた。


「あっっっ!!!!しまった!!!!」


長谷部はクッキーを鞄にしまうと慌てて店を飛び出した。







 

「はぁ〜、今日も疲れた〜〜」


長谷部が仕事を終え、6畳一間の我が家に帰り着いたのは22時を過ぎた頃だった。


スーツ姿のまま玄関すぐの床に倒れ込むとぐぅぅぅと大きくお腹が鳴った。


「は、腹減った」


すぐ目の前には小さなキッチンがあり、やかんとカップ麺が置いてあるのだがそれにすら手を伸ばせない程彼は疲労困憊だった。


(あ、そういえば)


今日の昼に美和から貰ったクッキーの事を思い出し、倒れたままの状態で鞄の中を漁った。


「あった、あった」


クッキーの袋を探り当てると、余力僅かな手つきで何とか取り出した。


「クローバーか……」


小さなシールの四葉のクローバーを見つめながら、淡く甘い記憶がじんわりと彼の身体中に染み渡っていって行くのを感じだ。


遠くの方で響いていた女の子の声が徐々にはっきりと近づいてくる。


(そうだ……あれは小6の夏休み前日だ……)







「はせべくん!」


ツインテールの髪とピンクのリュックサックを揺らしながら女の子が駆け寄ってきた。


「あ、美月」


少女の名前を呼び、長谷部は足を止めた。


すると彼と一緒に下校していたクラスメイト達が「おっ、なんだなんだ」「やらしーぞ、はせべ!」などと茶化しながらも気を効かせ二人を置いて去って行った。


二人きりになった気まずさに、暫くの間二人とも俯いたまま黙りこくっていた。


「あ、暑いからさ、楠の公園にいこうぜ」


この沈黙の気まずさから逃げる様に長谷部が提案する。


楠の公園とは、小学校の下校途中にある然程大きくない公園で、公園の真ん中に大きな楠が一本どんと構えているだけであとは古ぼけた遊具とベンチがあるくらいの子供達には非常に人気のない場所だった。


「う、うん」


頬を染めながらも少女が頷いたのを確認すると、長谷部は先に歩き出した。


その後を少し距離を保って少女が歩く。


公園は平日の昼間、しかも、この暑さという事もあって大人もおらず、二人は貸し切り状態で楠の真下にあるベンチに腰をかけた。


しかし、座ってみたもののやはり沈黙は続いていた。蝉の鳴き声が辺り一面に響き渡る。


「あ、あのね」


今度は美月が話を切り出した。


「はせべくん、夏休みの間に転校しちゃうでしょ」


そう、クラスメイト達が茶化しながらも気を利かせた理由はそこにあった。


長谷部は家の事情で母親と二人、ここ群馬を去って東京に引っ越すのだ。


そして、今夜からはもう引っ越しの荷造りをしなければならない。


「うん」


少し声のトーンを落とし、彼は返事をした。


そこでまた沈黙が続く。


「あ、あのさ。この間先生が小学生の時に友達と一緒に埋めたタイムカプセルを掘り起こしたって話をしていたでしょ」


長谷部は教師の話を大して聞いていなかった様で、宙を見ながら「あーそうだったっけな」と答えた。


「あれさ、私達もやらない?」


「は?」


唐突のフリに思わず彼は顔をしかめた。


「私たちも今、ここで大切なものを埋めようよ」


「えっ、大切なものって別に俺、なんにも今持ってねーし」


大切なものと言われて、彼がすぐ思いついたのはゲーム機と集めているキャラクターカードくらいだった。


もちろん、そんなものは学校には持って来ては没収されるので今ある筈もない。


「私、これ持っているから」


そう言って美月はリュックから筆記用具と便せん、それから猫のキャラクターが描かれた缶の箱を取り出した。


長谷部はそれの意味が分からずただ瞬きを繰り返した。


「ここにさ、10年後の自分たちに手紙を書こうよ。で、缶に閉まってこの木の下に埋めるの。でさ、10年経ったら二人で掘り起こそうよ」


「えっ10年って、俺22歳じゃん。そんなの憶えていないよ」


10年後に二人でまた会うという事を想像し、勝手に照れくさくなった長谷部は赤く染まった頬を隠す様にそっぽを向いた。


「うん、だからこれ」


そう言って美月は彼の手に何かをそっと握らせた。顔はあちらを向いたまま視線だけを手元にやる。


「…なんだ、これ」


それは四葉のクローバーを手作りのしおりの上に乗せ、丁寧にラミネート加工まで施されたものだった。


「四葉のクローバー、私の大切なものだから。はせべくんにあげる」


かぁーと長谷部は耳まで真っ赤になってしまった。


「これ、はせべくんにあげるから。だから、約束わすれないでね」


そしてその後、二人は手紙をそれぞれ書き、楠の下に埋めたのだった。






「はっっ」


いつの間にか眠ってしまっていた様で、長谷部は自分が床に倒れたままだという事に気付いた。


「やべっ、こんな所で寝ちゃったよ」


緩んだ口元をこすりながらゆっくりと体を起こす。


(そういえば、あれは7月19日だからちょうど明日か…)


そんな事をまだ寝ぼけた頭でぼんやりと考えながら、現在時刻を確かめようとスーツのポケットから携帯を取り出した。


「7月19日 7時35分…………ええええええ!!!??7時35分!???」


ボケていた頭が一気に目覚める。なんと、長谷部は床で朝まで眠りこけてしまっていたのだ。


「やばいやばいやばいやばいやばい!!!!!」


叫びながらその場で飛び上がる。


「とととおととおと、とりあえず、シャワー浴びて、着替えて会社に行かないと!!!」


慌て過ぎて足がもつれそうになりながらも、着ていたスーツやシャツを脱ぎながら風呂場へと向かい、下着が脱ぎ終わるのと同時にシャワーを出した。


「ぎゃーーー冷水だーーー!しかしもう構うものかーーー」


朝から一人叫びながら、長谷部は豪速球で身支度を済ませ家を出た。








「いやぁ、本当今日は大ピンチでしたよ」


いつも通り昼過ぎの時間になると、長谷部は美和の店のカウンターに座り珈琲と美和の笑顔に癒されていた。


結局、あれから彼はタクシーを使い、何とか会社に遅刻する事なく無事出社出来たのである。


「ピンチっていうかアウトじゃん。タクシー代に一万円も使っている時点で」


ユウコがわざとギターが長谷部の頭にぶつかる様に後ろを通り過ぎていった。


「いって。で、でも、ユウコちゃん、一応俺の無遅刻無欠勤は守られたからさ」


「そうそう、慌てて怪我をする事もなく遅刻せずに済んで良かったですね」


美和が微笑みながら、珈琲とマカロンを出してきた。


「今日は抹茶のマカロンですよ」


鮮やかな緑色のマカロンを見て、また長谷部は小学生の時に約束をした美月の事を思い出した。


(そういや、今日だったな。でも、ちょうど10年だと一年前になってしまうけど。いや、そもそも、彼女自体がそんな事を憶えているのか!?)


そんな事を考えながらぼんやりしていると、隣でQが嫌な笑いを浮かべてきた。


「なになに、長谷部くん。このマカロンには美和さんの爪の垢がねりこまれているのかな〜ゲヘグへって思っているのかい?」


「ちょ、それ完全に変態じゃないですか!止めて下さいよ!」


「いやいや、長谷部くん、変態こそがキミの才能じゃ」


阿賀谷がソファー席で腕組みをしながら満足そうに言ってきた。


「……だから、そんな才能いりませんって」


「いやぁ、長谷部くんみたいな普通っぽい人が一番怪しいよね」


今日は隠れる事なく堂々とカウンターで西村は寛いでいた。


「西村さん、余裕かましていますが大丈夫です?また奥さんが来ますよ」


すると、西村はつねりたくなる様なまん丸ぽっぺをにんまりと上げながら答えてきた。


「今日は一升瓶とワインの空き瓶が3本転がっていたから大丈夫。あれは夕方まで起きないパターンだよ」


「舞華さん、相変わらず格好いいな〜。あー私も早くお酒が飲める様になりたい」


一体ユウコはどこを目指しているのか。


うっとりとした表情を浮かべながら、酒を飲んで暴れている自分の妄想に浸っていた。


「いやいや、ユウコちゃんノンアルコールですでに舞華さんとキャラ被っているから」


長谷部が真顔で手のひらを左右にヒラヒラと振った。


「出来たらユウコちゃんには妻とは別のアピールをして欲しいなー、僕はお酒が飲めないユウコちゃんが好きなんだけど」


西村が笑顔でそう口走った瞬間、彼の頬にギターのヘッドが突き刺さった。


「ごふぅぅぅ」


西村が口から血を吹き出しながら、そのまま床に倒れた。


「ぎゃー、西村さーーん」


長谷部が頭を抱えながら叫ぶ。


「あらあら、大丈夫ですか西村さん」


「今のは西村くんが悪い。ユウコくんからアピールを受け様なんて、富士山から命綱なしでバンジージャンプを試みるくらいの考えの甘さじゃ」


「それ、甘い甘くない以前に即死ですね、安賀谷さん。あ、でも今の表現は小説に使えそうだ」


ツッコミを入れつつも、Qは淡々とパソコンのキーを叩いた。


因にギターが刺さった瞬間、西村の口の中でバキィと歯が折れた様な音が聞こえたが、みな敢えてそこはスルーしておいた。


「こんにちはーー、真夏のサンタでーーーす」


店のドアがカランカランと鳴り響くと、そこには赤い三角の帽子に、赤いキャミソール、それから真っ白なパンティー姿の舞華が立っていた。


彼女は、姿勢は立っているが目は完全に座っていた。


「まぁ、舞華さんちょうど良い所に。西村さん、口から血を出して倒れちゃったの」


まるで勝手に西村が倒れた様な口ぶりで美和が言う。もちろん悪意は一切ない。


「あ〜、了解、了解、壊れたプレゼントの回収もサンタのお仕事でーーす」


まるでこうなる事が分かっていた様に、大きなズタ袋を抱えていた舞華は手際よく西村をその中に詰め込んだ。


西村は完全に白目を向いており、なされるままだ。


「舞華さんって、酔っているのか確信犯なのか、どっちなんですかね」


ぼそりと呟いた長谷部の言葉にみな一様に頷いた。


「では〜お騒がせしました〜〜〜」


そう言い残すと、舞華は西村が入った袋を引きずりながらさっさと店を後にした。


みな、呆然とその姿を見守るだけだった。


「そう言えば、Qさん舞華さんの服装を参考に小説を書いたらどうなんですか?完全に歩く官能小説みたいな方じゃないですか」


「は!?長谷部くん分かってないなー。あれはただの露出狂だよ。官能のカテゴリーとは相容れないね。まったくエロチシズムを君は理解していない」


Qにそんな台詞を言われるのはかなりの侵害だが、まぁ舞華が官能ではないという部分は納得出来た為、一応反論せずに黙っておいた。


「あ、そう言えば」


ユウコは西村が床にまき散らした鮮血をモップで拭きながら思い出した様に言う。


「昨日、長谷部なんか叫んでいたけど、あれ、なんだったの?「思い出したー!」とか言っていたよな」


急に話題を振られ、長谷部は首を傾げた。そして昨日の記憶を反芻すると、あっと声を上げた。


「そうそう、ちょっと皆さんに相談したい事がありまして」


すると、みな興味津々といった感じで長谷部の周りに集まってきた。美和もカウンターから長谷部の方を向く。


「わっ、そんな集まって頂く様な話じゃないんですけど」


皆に注目され、少したじろぐ長谷部。


「前置きはいーんだよ、なんだよ、相談って」


そう言いながらもユウコの目は少しワクワクしていた。


「あ、はい。い、いや、ですね、実は、みなさんってタイムカプセルって埋めたりしました?」


「は?なにそれ?」


ユウコの興味はかなり反れたらしく、モップを握り直すとまた床拭きを始めた。



「うわ〜懐かしい響きだな〜、僕らの時代はそういうの流行ったんだよ」


Qはその話題に食いつき、パァっと表情を華やかせる。


「わしも聞いた事があるぞ。確か、大事なものを土の中に埋めて何十年後かにまた掘り起こすってやつじゃろ」


「そうそう、それです。実は俺も小学生の時に埋めたんですけどね。10年後に掘り起こそうって話になっていたんですよ。ただ、ちょうど日付は今日なんですが、なんとそれは一年前の今日の話で」


「あーなるほど。約束をすっぽかしたんだね。そりゃ去年のうちに同級生達が集まってもう掘っちゃっているんじゃないか?集合のメールとか来なかったのかい?」


「いや、Qさん、実は俺、東京生まれじゃないんですよ。小学生までは群馬に居て。しかもあの頃は携帯なんて持っていなかったから連絡の取り様がなくて」


「え?でも、時々友達に会いに行ったりしないのか?あ、まぁ、群馬は遠いか」


「まぁ、それもありますし、家庭の事情で母と2人きりで東京に出たので。あれから一度も群馬には行ってないんです」


Qはあっという顔をして、かなり申し訳なさそうに目線を下にやった。


「ご、ごめん、長谷部くん、嫌な話をさせてしまったね」


「あ、いえいえ、もう昔の事ですし。それにうちの母は強くて明るい人ですからね。あの時はショックでしたけどその後の生活はむしろ笑い話の方が多いくらいですよ」


長谷部はQに申し訳ない思いを引きずらせまいと、努めて明るく話した。


「それで、長谷部さんはそのタイムカプセルが気になるから確かめに行きたいんですね」


彼の気遣いを分かったのか、美和がすっと話の方向を逸らした。


「あ、そう!そうなんですよ、ただ、一年前だし、しかも、2人きりで埋めたから彼女が憶えているかどうか……」


「か、彼女ぉ!???」


皆の声がハモる。美和だけはニコニコと微笑みがら黙って頷いていた。


「長谷部、彼女が居たのか!?あ、でも小学生って、お前どんだけ手の早い小学生だよ!」


「いや、誤解だよユウコちゃん!ってか、俺の言い方が悪かったのか。彼女ってそういう意味の彼女じゃなくて、えっと、その女の子って言えば良かったのか」


長谷部は、ユウコに弁明しながらも美和に誤解されてはまずいと大慌てで言い直した。


その弁明部分は美和に伝わったかどうかは謎だったが、Qには全く伝わっていない事は確実だった。


「いやぁ、長谷部くんに彼女がいたなんて激しくショックだよ。僕と仲間だと思っていたのに。うわ、すっごいヘコむわ」


40年間女性に一度も触れた事がないQに仲間だと思われていた事自体はかなりの不名誉だが、それでもQの調子が戻ってくれた方が長谷部は嬉しかった。


「長谷部くんに彼女か、それは野良トカゲの為に5億円の豪邸をプレゼントするくらいのしっくりこない感があるのう」


「……野良トカゲって何ですか?しかも、その例えは幾らなんでもちょっと俺に失礼ですよ安賀谷さん」


「ってかさ、ごちゃごちゃ言ってないで確かめに行ったら良いじゃん。で、その子に会って一年勘違いしてましたーくらいの事を言っておけば?」


ユウコらしいその意見に長谷部は少し背中を押して貰えた様な気がした。


「まぁ、確かに何を迷っているのか分からないね。行って確かめれば良いだけの話じゃん。そこにもう無かったら、本人に確かめに行けばいいし、まだ掘られてなかったら持って帰ればいいだけなんじゃないのかい?」


Qもユウコの後に続いた。


「いや、そうなんですけど。でも、もし相手が憶えていなくて、しかも、そんな所で掘っている所を見られたら「小学生の時の約束を今でも憶えているなんて馬鹿みたい」とか言われないかなーって。あ、あと、仕事終わってから行ったら夜遅いし…群馬まで車を飛ばしても2時間はかかるからなーとか」


「でも、長谷部さんは確かめたいんでしょ?」


あれこれと御託を並べる彼に、美和は優しく、しかし、ハッキリとした口調でそう言った。


「は、はい」


「じゃあ、行かなきゃ。一年遅れてしまったけど日にちは合っているのだから。気になっている事を確かめて、でも結果が自分の思った通りと違っていても行動を起こせたという経験値は決してマイナスにはならないと私は思いますよ」


いつも微笑んでばかりでふんわりしている美和が言うと、とても説得力を感じさせた。


「美和さん、ありがとうございます」


長谷部が真顔でお礼を言うと、美和は少し頬を染め照れくさそうに笑った。その笑顔はいつもより幼くて可愛らしかった。


(美和さん、やっぱり素敵な人だなー。ああ、こんな人が俺の彼女だったら…)


せっかく引き締めていた顔を長谷部がだらりと緩めたその時、ドアーベルが音を立てた。


振り返るとそこには、ドラムセットがセッティングされており、上半身裸姿にキャップを後ろ前に被った男がドラムを叩く仕草を必死でしていた。


もちろん、鬼頭だ。


裸になった部分にはみっちりとタトゥー風の落書きが描かれていた。


「はいはい、おつかれさーーーん、お帰りくださーい」


またユウコが勢い良く扉を閉める。あそこまでのセットをしたというのに鬼頭が皆の前に姿を見せる事が出来たのはたった数十秒のみだった。


「今日のは難しかったのぉ。誰じゃ?わしゃさっぱり分からん」


安賀谷が首を傾げる。


「あー彼はねーブリンク182っていうパンクバンドのドラマーでねーあー名前がーーえーーと」


そこまで言ってQが額を抑えた。


「分かる、分かる、名前が出て来ないよねーなんだっけー?」


ユウコも腕組みをしながら「うーん」と唸った。


「トラヴィスさんですね、トラヴィス・バーカーさん」


「ああ!それ!さすが美和さん!!」


Qとユウコがわっと声を上げる。


「え、えっとブリ182のトラフグ・バーガー…?さん??だ、誰ですか、それ?」


一文字も聞いた事がないアーティストとバンド名に長谷部の頭はハテナだらけだった。


「ググれ、カス野郎」


ユウコがピシャリと長谷部を斬った。


「は、はい。そ、それにしても美和さん凄いですね」


「ふふ、好きな事はなんでも知りたくなるタイプなんで。調べ出したら止まらないんです」


(俺は美和さんの事をもっと知りたいけどなー)


長谷部の顔が溶け出しそうな程グニャグニャになっていると、ユウコのギターヘッドがその緩んだ顔面に直撃した。


「ぎゃっっいてっっっ」


「いてっ、じゃねーよ!長谷部、あんた13時に客先に行かなきゃいけないんでしょ!」


ユウコの言葉に彼は痛みも忘れて腕時計で時間を確認した。


「やば!もう12時50分だ!」


お金をカウンターにそのまま置くと、「ごちそうさまでした」が言い終わる前に長谷部は店から出て行った。









「せっかく仕事を早く終わらせたというのに、さすがに遠かったなー」


車を走らせながら長谷部は独り言を呟いた。


ナビの時計を見ると21時を過ぎた所だった。


長谷部が通っていた小学校はまだ存続しており、そこまではナビですんなりと着く事が出来た。


「さて、ここからがな…まだあの公園があると良いんだけど」


しかし、肝心の公園がナビでは出て来ない。彼は速度を落とし外灯が少ない真っ暗な道を記憶を辿りながら走らせていた。


こんな時間は外を歩いている人どころか対向車すら遭遇しない。


東京では考えられない事だが、田舎ではしごく当たり前の事だった。


「あっっ!ここだ!」


かろうじて残っていたといった感じのボロボロのフェンスと雑草が生えきった空き地が見えた。


それだけだとただの空き地として通過してしまいそうだが、大きく立派な楠が一本中央にまだ残っていてくれた為に長谷部は気付く事が出来たのだ。


車を止め、途中のホームセンターで買った懐中電灯とスコップを後部座席から取ると、彼は車から降りた。


「うわぁ、懐かしい」


降りた瞬間、草木や土の臭いが彼の鼻を刺激した。


降り立った地面もいつもの無機質な固いものではなく、踏みしめた感覚が靴の上からでも分かる土独特の柔らさを持つものだった。


ここでやっと群馬に戻ってきた実感が彼の中にふつふつと湧いてきた。


鼓動は高まり、少年時代の記憶達が夜風と共に彼の周りを駆け巡った。


「これは…来て良かったな、美和さんに感謝だ」


彼はカブトムシでも取りにきた少年の様に、笑顔を抑えきれず楠目指してゆっくりと歩き出した。


公園内はあまり整備が行き届いてない様で雑草があちこちから生えていた。


よく育っているものなんて彼の腰ほどまでの高さがる。


しかし、スーツが汚れる事も気にせず長谷部はずんずんと進んで行った。


「あれ?ベンチってこんなのじゃ無かったよな?」


楠の前で彼は足を止めた。


木の真下にあったのは小学生時代に彼が座った一枚板みたいなベンチではなく、背もたれと銅でお洒落に細工された肱置きまで付いていた。


「前のは撤去されたのか。でも場所は前も大体ここら辺だった気がするけど」


10年も前の記憶なんてあやふやなのだが、ただ楠の真下という事は合っているのでとりあえず今あるベンチの下に懐中電灯を置き、光が照らされている場所にスコップを突き刺した。


「やべっ、なんかワクワクしてきたぞ」


一日仕事をして普段だったら家に帰ってカップ麺すら作る体力すら残っていない癖に、今は疲れる事を知らない子供の様にサクサクと土掘りをしている。


(もし、あったらどうしよう。一人で持ち帰って良いのかな?美月にも渡した方がいいのかな?今日は遅いから明日は土曜日だし、明日また来るか?いやでもな。あ、そんな事より掘っている間に偶然美月が通りかかったらどうしよう)


そんな事ばかりを永遠と考えながらひたすら長谷部はスコップで土を掘り続けた。


掘り続け、掘り続け、掘り続ける事1時間。


「だーーーー!ないーーー」


辺り一面穴だらけになっていたがそれらしい物は結局見つからなかった。


長谷部はそのまま地面に座り込む。


「これはもう美月が掘り起こした後なのか、それかベンチを新しく設置した時にゴミと思われて捨てられたのかのどっちかだな」


真っ赤になって痺れた両手のひらを見ながら、独り言にしては大きな声で呟いた。


せっかくあれだけ心弾ませたのに、結果無かったという事にかなりの喪失感と疲労感だけを抱え、スコップを杖代わりに長谷部はよっこらと立ち上がった。


「………とりあえず、帰るか」


のそのそと懐中電灯を拾い上げたその時、その場所だけ掘っていない事に気付いた。


「あ、そうえば」


最後の望みと、一応そこにもスコップ刺してみる。


手はすでに痺れで感覚が無くなってきていたが、それでも土を掘る。


それは彼の諦めの悪さと、ここまで来た意地のみが原動力となっていた。


カチン


スコップの先に何か固いものが当たった。


「ま、まさか!?」


スコップを放り投げ、しゃがみ込んで土を掻き分ける。


するとそこには、錆び付いてもう猫のキャラクターかどうか判別は出来なかったが、四角い箱が埋まっていた。


「あっっっっった!!!!!」


そう長谷部が叫んだその瞬間、眩しい光が彼の顔に当てられた。











蛍光灯が煌々と灯る四角い箱みたいな部屋の中、安っぽいパイプ椅子に長谷部は肩をすぼめて座っていた。


何とも味気ない事務机を挟んだ向かいには警察官の制服を着た長谷部より少し若い男が座っていた。


(相悪だ…俺の人生始まって以来の最悪に近い)



「じゃ、身分証出して、車で来たから免許書は持っているだろ?」


若い警官はやる気が有り余っているといった感じで、この台詞を言う日を待ち構えた様な目をして言った。


長谷部は黙ってスーツのポケットから免許書を取り出すと机の上にそれを置いた。


「長谷部 広太  東京都………あんた東京の人なのか」


「はぁ」


「東京からわざわざこんな時間に何しに来たんだ?丁寧にスコップと懐中電灯まで用意して」


そして公園を穴だらけにして。そのシチュエーションだけを見ると長谷部は不審者以外の何者でもない。


(ここは素直に言った方が良いに決まっているのだが、タイムカプセルを掘っていましたなんてあまりに怪し過ぎる…まぁ、でも一応現物があるんだから信じてもらえるよな?)


机の上に置かれた缶と、二枚の封筒を見つめながら彼は不安そうに口を開いた。


「実は昔、ここら辺に住んでいまして。で、当時同級生とタイムカプセルを埋めたのでそれを掘り起こしに」


「こんな時間に?」


「し、仕事が終わったのが遅かったので」


「だったら普通、翌日にするだろ」


「そうですよね……で、でも約束の日が今日だったので」


「じゃあ、同級生はどこに居るんだ?なんでそいつは来ていないんだ?」


「………それが、一年前の今日だったので。なので、今日は居ないんです」


「一年前???じゃあ、なんで今更来たんだよ」



長谷部の回答に警官はあからさまに不審そうな顔をしてみせた。


(あーやばい、これは絶体絶命のピンチだー美月助けてくれー)


長谷部は心の中で救いを求めた。


ここで美月が居てくれたら随分話は違っていただろうが、男一人でこんな夜遅くにタイムカプセルを掘り起こしていたなんて言ってもなかなか信用は得られない。


気まずい空気が交番内に漂う。


「よお、お疲れさん」


蛇に睨まれたカエルの様に長谷部が縮こまっていると、ガラガラと交番の扉が開く音と共に年配の警察官が中に入ってきた。


「あ、高橋さん、お疲れ様です」


若い警官がスッとその場に立ち上がり、敬礼をした。


「はい、お疲れさん。で、このお兄ちゃんがさっきの無線で話していた人か」


ひょい高橋と呼ばれた警官が長谷部の顔を覗きこんだ。その顔を見て「あっ」と長谷部が声を上げる。


「やっぱり!高橋さんだ!憶えていません?長谷部です。小学生の頃よくイタズラをして怒られていました長谷部 広太です」


すると高橋はギョロッとした目を更に大きくしていった。


「長谷部って!あの長谷部くんか!!懐かしいな!!いやー、君は変わってないなー」


「高橋さんこそ。すぐに分かりましたよ」


話が分かる懐かしい相手に出会え、長谷部の顔がほっと緩む。


高橋もオーバーなまでに大きな声で喜んでくれた。



「ここの交番に連れて来られた時に高橋さんいるかなーって思っていたんですよ!本当、お久しぶりです」


「いや、ビックリした。あのイタズラ好きの小学生がこんな風にスーツを着ているなんてな」


「俺ももう23歳ですから」


「そうかー23か。パトカーにネギ貼ったり、養鶏場からニワトリ盗んでランドセルに入れて登校したりしていた子が、もう23歳か」


「それは俺だけじゃなくて、あの時の仲間も悪いですからね。いや、それにしても本当、馬鹿なことばかりしていまいたよね」


小学生時代の馬鹿な行動を思い出し、長谷部は自分の事ながら笑ってしまった。


「あれ?!君は確か東京に……じゃあ、こっちに戻って来れたのか!?最近かい?」


「あ、いえ、そういった訳では。今日はたまたま用事があって」


長谷部は決して緩めた顔を引き攣らせたりせず、そのままの笑顔で答えた。


「おお、そっか、そっか」


それに気付き、高橋もそれ以上は追求したりしないでおいた。


「所で、今日は何をやらかしたんだ」


長谷部の肩を年期の入った手で叩きながら高橋が言う。


「やらかしたって、高橋さん。いや、実はタイムカプセルを掘り起こしに来ていまして」


「そういう事か!君達ならやりそうだな。で、これがそのタイムカプセルか」


机の上に並べられたものをみながら、高橋がふむと頷く。


「一応、中身を見てもいいかな?」


「それで僕の無実が晴れるなら」


長谷部が苦笑いをする。それを見て高橋もにまっと笑うと、手紙を広げ声に出して読み出した。




「『6ー3  長谷部 広太


10年後のオレへ


10年後のオレ、初めまして。10年前のオレです。きっと今はすっごいお金持ちでおしろに住んでいるんだろうな。それから、ポケモンを全部集めて、伝説のトレーナーになっていて……』」


そこまで読んで、高橋が「ぶふふふふ」と吹き出した。


かぁーと長谷部の顔が完熟トマトみたいに赤くなる。


しかも、さっきまで真面目な顔をしていた若い警官まで便乗して笑っていた。


「こ、これは長谷部くんの名誉の為にちょっと読むのは止めておいてあげようかな」


ひーひーと目尻から滲む涙を抑えながら高橋が言う。


「……お願いします」


脳まで熱くなった長谷部は先ほどとは違う意味で肩をすぼめた。


「こっちのは何だい?」


高橋がもう一枚の手紙を手に取り、読み上げようと口を開けたがそのまま固まってしまった。


そして、ゆっくりと開いたままの口を閉じた後眉間にしわをぐっと寄せ、声のトーンを落とした。


「これは……君に渡した方が良いね」


そう言うと、何故か若い警官にその手紙を渡した。


彼は意味が分からずポカンとしたものの素直にそれを受け取り、その場で手紙を広げた。


「あっっっ…」


そう叫ぶと彼は手で口を抑え、わなわなと震えだした。


「ねぇちゃん!!!!!」


その言葉と共に抑えが効かなくなったのか、目からは大粒の涙が溢れ落ちていった。


「ねぇちゃん???じゃあ、君は美月の弟の陸くんか!」


しかし、長谷部の問いには答える事が出来ない程彼は号泣し、そのまま泣き崩れてしまった。


(な、なんだよ。もしかして美月に何かあったのか?)


状況が分からないが、長谷部は嫌な胸騒ぎがした。


不安そうな表情で高橋を見る。


「…長谷部くん、実はね、美月ちゃんは……」


「高橋さん、待って下さい」


高橋がそこまで言うと、ぐしゃぐしゃになった顔を上げ、若い警官が止めた。


「これ、長谷部さん、あなたが読むべき、いや、あなたに読んで欲しいです」


そう言って手紙を長谷部の前に出した。長谷部はかなり躊躇したが、ゆっくりと受け取ると手紙に目を通した。








はせべくんへ



今日は一緒にタイムカプセルをうめてくれてありがとう。


すっごくうしかったです。


はせべくんにどうしても言いたいことがあったんだけど、お家のことで大変そうだから話せませんでした。


だから手紙に書きます。


さいきん私はよく熱を出して学校を休んでいたけど、風邪ではありません。


市立病院でガンだと言われました。


でも、今はそんなに体調は悪くないです。


病院の先生は、私くらいの子だと病気が悪くなるのも早いけど、治ることが多いそうです。


だから夏休みの間に入院をして治してもらいます。


それから元気になって新学期は学校に行きたいです。でも、その時にははせべくんは居ないのでさみしいです。


それから、はせべくんがもう群馬にはもどらないだろうってお母さん達が言っていました。


だからお願いがあります。


10年後、またいっしょに公園に来てほしいです。


それから10年後私が元気だったら、はせべくんのおよめさんになりたいです。



                                  6ー3  佐藤 美月より









「ねぇちゃんは、その手紙の半年後に亡くなったんだよ。辛かった、苦しそうなねぇちゃんの顔が、辛かった……もう、辛くて…あんなに苦しそうなのに、なのに何にもしてあげられなくて…」


嗚咽まじりに美月の弟である陸が声を絞り出す。それをただ呆然と長谷部は見つめていた。


何も考える事が出来ず、長谷部はもう一度手紙に視線を落とす。


すると、視界は滲み、何も見えなくなってしまった。代わりに、鮮やか過ぎる程鮮明にある記憶が脳裏に映し出された。






それは、2人で手紙を楠の下に埋めた後の帰り道の事だった。






外はすっかりオレンジ色に染まり、蝉の声よりもカラス達の方が賑やかになっていた。


2人は公園を出た後から一言も会話を交わす事なく、長谷部が先頭を歩き、そのすぐ後ろに美月がついていくというスタンスを保っていた。


美月は何か言いたげにずっと長谷部の背中だけを見つめていた。


もうすぐ美月の家という所で、彼女は足を止め、意を決したのか貝の様に閉ざしていた口を開いた。


「はせべくん、私のことわすれないでね」


急に声を掛けられ、長谷部はドキッとする。


「……わすれねーよ」


彼は照れくさそうにそのまま足を止めず歩き続けた。


「はせべくん!」


呼び止められ振り返ると、彼女はツインテールを揺らし大きく手を振っていた。


「またね!またね、はせべくん!!」


それは彼にとって意外な、そして嬉しい言葉だった。


「さよなら」ではなく「またね」は10年後の自分達へと導いてくれそうなそんな気がしたからだ。


思わずニヤけてしまいそうな顔を彼女に見られまいと、長谷部はその言葉に返事はせず、すぐに背中を向け家へと走って帰ってしまった。








「また、また会えたな、美月。待たせてごめんな」


手紙を握りしめていた手は小刻みに震えている。長谷部の頬を止まる事なく熱い涙が伝い落ちて行った。















「あら、いらっしゃい」


ドアを開けると、美和がいつもの笑顔で出迎えてくれた。長谷部はその顔を見て、やっと呼吸が出来た気がした。


「お、長谷部くん、今日は早いね。って、あれ?今日は土曜日だろ?なんでスーツなんだ?しかもかなり汚れているけど、どうしたの?」


Qがパソコンのキーボードに指を置いたままドアの方を振り返って、少しだけ驚いた様な顔をした。


「あ、昨日の夜タイムカプセル掘りに行って来たのか!?で、そのまま公園で寝ちゃったってオチだろ?え?」


ユウコが突っ立っている長谷部にごすごすとギターをぶつけながら言う。


「なんじゃ、小学生時代の彼女には会えなかったのか?長谷部くんよ」


安賀谷の問いにえへへと長谷部が頭を掻いてみせる。


「そりゃそーだろ。小学校時代の約束なんて憶えていられたら気持ち悪いって。私だったらストーカーだと思うね、そいつのこと」


「だよね」


長谷部は笑いながら指定席と化しているカウンターの一番端に腰かけた。


「そうでしたか、はいお疲れさま」


そう言って美和が出したのは、アイスコーヒーとはちみつトーストだった。


「朝ご飯まだでしょ?それから疲れている時は甘いものが良いんですよ」


ふんわりとゆげが上がるトーストには、とろけたバターとはちみつがたっぷりかけられていた。


その甘い香りと美和の笑顔に思わず長谷部の目の前が涙で滲みそうになってしまった。


「お、なんだ、長谷部くん、傷心を美和さんに癒してもらおうって魂胆だな?」


Qがニヤつきながら肘でつついてくる。


「ち、違いますよ!!」


「まぁ、私でよければ」


さらりと美和が返事を返す。


「えええ!!???」


思わずその場にいる全員の叫び声がハモった。


バァン!!!!


激しい音をたててドアが開いたので全員舞華が来たのかと一瞬勘違いしたが、そこに立っていたのは、ボブヘにやたら丈の短い青いワンピースを着たおっさん、鬼頭だった。


ヒールの高いパンプスを履いているので立っているだけでもフルフルと震えていた。


しかも、ミニ丈のワンピースから出ている足は筋肉とすね毛がついた男の足だ。


因に右隣にはポニーテール、左隣にはぱっつん前髪に腰の辺りまでのストレートロングヘアをした鬼頭と少しデザイン違いの同じ青いワンピースを着たマネキンを立たせてあった。


鬼頭は、いつもの様にパフォーマンスはせず「ふんがーふぉんがー」と荒い鼻息を鳴らしながら長谷部を呪い殺す勢いで睨みつけていた。


(ひーーーーこえーーーーー)


「はい、はい、当店では呪詛もお断りですーーー」


ユウコはそんな鬼頭の鬼気迫った目つきにもたじろぐ事なく、ドアを思いっきり閉めた。


「いやぁ、今日の鬼頭さんは怖かったねー。あまりの怖さに何のコスプレか分からなかったよ」


Qがビクビクと怯えながら、もう閉まった扉をまだ見つめていた。


「今日のはわしは分かったぞ、Perfumeじゃな。わしゃ、かしゆかが好きじゃ」


安賀谷が嬉しそうに髭を撫でた。


「それにしても今日の鬼頭はやばかった、あれはさすがにやばいわ」


いつもと変わらない態度を取っていた癖にユウコは内心ちょっとビビっていた様だ。


「はいはいはーーーーい、みんな呑んでるーーー??」


また扉が開いたので皆がビクッと警戒していると、今度は一升瓶と旦那を抱えたスリップ姿の舞華が現れた。


「あらあら、舞華さん、西村さんカニさんみたいに口から泡が出てますけど大丈夫です?」


美和がうふふと微笑みながら聞く。


「あ?だいじょーぶ、だいじょーぶ、だって今日はお店お休みだから。久しぶりに2人でデートしようって言ってくれたからさー嬉しくって美和さんのお店に着ちゃった」


「まぁ嬉しい、2人ともゆっくりしていってね」


おいおいとQと長谷部がツッコミを入れたそうな顔をしたが、2人とも舞華を恐れて口にはしなかった。


「ほらーーユウコちゃんも呑むーー」


「えーーーでも私、未成年ですし」


「じゃあ、髭ジジイ呑めや」


「わ、わしか!?た、助けてくれ美和くん」


一気に店内が賑やかになり、いつの間にか長谷部も笑っていた。それは皆への気遣いの笑顔ではなく、自然と出た笑顔だった。


それを見て美和の笑顔がより一層華やいだ。




                                    長谷部の思い編 おわり










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