第九話 へっぽこ決死隊
「警備員アルバイト急募」
ナナシが、チラシを画面の方に向けてきた。
「どうせ、働いてないんだろ?」
俺と、ビプ男は、その言葉にカチンときたけど、返す言葉もない。
ナナシの案は、俺達が警備員として働き、コンサート会場でことはちゃんを守るため目を光らせるというものだ。ナナシは知らないやつの思念が流れてくるから、それでことはちゃんを襲おうとするやつを割り出そうというのだ。あんな会場だと雑念だらけでうまく行くのだろうか。強い思念は伝わってくるから大丈夫だとは言うのだけど。3秒後の未来が見える俺は危険を察知し、ビプ男に伝え、犯人を爆破してもらおうという計画だ。
はっきり言ってまったく上手くいく気がしない。ナナシは世間知らずだ。
3秒後の未来がわかっても何にも変わらないし、逆に俺はいっそうチキンになった。しかも、ビプ男の能力。あれは完璧な犯罪だ。公の場でやろうものなら、猥褻物陳列罪だ。
「ねえ、ビプ男、実はオナニーしなくても、爆破できるんじゃね?」
俺は前から思っていた素朴な疑問をビプ男にぶつけてみた。
「わかんねえ。オナニーしながらしかやったことねえから。」
俺が思うに、ビプ男は勝手に爆破はオナニーを動力にしていると思い込んでいるのではないのか。
「試してみるか?」
俺も物好きだ。また、あの危険な男、ビプ男と会っている。
俺は今度は自分から、丸亀公園の近くの山の登山道入り口に呼び出した。
男二人で、山を登り、人気のない広場まで歩いた。
誰も人が居ないのを確認して、俺は持って来た週刊誌を読み上げた。
「早川ことは、熱愛!深夜の密会!焼肉デート後、バックバンドギタリストに
肩を抱かれて、ホテル街へ消えていった。」
俺も読みながら声が怒りに震え、信じがたい気持ちだった。
あのことはちゃんが、あんなチャラい男と!
そう思った瞬間に、週刊誌がボッと燃えた。
「あ、オナニーなしでも、爆破できるな、俺。」
思った通りだ。ビプ男はきっと、あの日から、思念で相手を燃やすことができるのだ。一番恐ろしい能力だけど、力が俺達同様ショボいようで、大した惨事にはならないようだ。しかもリア充だけじゃない。憎しみの対象を爆破できるようだ。
今まで俺達は、無駄にビプ男の醜いオナニーを見せられただけだったのだ。
「よし、それが確認したかったんだ。正直、コンサート会場でオナニーでもされたら、俺たちまでヤバイもんな。」
俺は最初、乗り気ではなかった。
「じゃあ、ことはちゃんが殺されるのを指を咥えてみてるってのか?
お前達、それで後悔しないの?」
ナナシにそう言われ、俺達のことはちゃんが死ぬのなんて考えられない。
ことはちゃんでなくても、助けられる命を助けられなかったらきっと俺は
死ぬまで後悔するのだ。もう結果だけを恐れて逃げ回る人生なんてイヤだ。
俺達三人は、揃って面接会場の前に立っていた。
へっぽこ戦士たちのお出ましだ。