第八話 チキンのジレンマ
コンビニに灯りがともっている。
靴を濡らした闇に、落ちた月が揺れた。
雨が降っていたんだ。俺はアスファルトのにおいを嗅ぐと憂鬱になった。
スカイプでお互いの能力を明かしたのはいいが、ナナシからとんでもない
計画を持ちかけられたのだ。
俺達が、早川ことはを守るだって?こんなショボイ能力しかないのに。
軽く人の服を焦がす程度の能力と、知らない人間の思念が伝わってくる能力
そして、極めつけが俺の3秒後の未来しかわからない能力。
こんなものでどうやって戦えと。
結局スカイプでも、3人で頭をひねっても、まったく名案が浮かばなかったし。
だいたい、その思念はホントなのか?冗談で思ったんじゃないのか?
ナナシが言うには、かなり強い思念だったと言うのだが。
俺は、コンビニでアイスクリームと少年誌を買って、家へ帰った。
俺は自分の部屋で、アイスクリームを食べたあと、少年誌のページを
めくっていた。
すると、俺は突然、殺気を感じたのだ。
来る!
俺は今から起こる事態に備え、自分の腕をぐっと脇に引き寄せた。
「しょーおたぁーーーーー!」
叫び声と共にいきなり俺の部屋のドアが開き、瞬間俺は四の地固めを
キメられてた。
「いたたた!ギブ!ギブ!ギブ!」
俺は畳を何度もタップした。
姉ちゃんがゲラゲラ笑っていた。
「相変わらず、弱えぇなあ、翔太はー。」
「なんで腕ひしぎ逆十字じゃあないんだよ?」
俺はつい、3秒前に予測した技の名前を言った。
「なんで、わかったんだよ。まあ、読んだところで無駄無駄。」
姉ちゃんが仁王立ちで俺を見下ろす。
そうだ、姉ちゃんにだけは3秒前が通じない。何故なら姉ちゃんは
戦闘時には、何手も先を考えているからだ。戦い慣れしている。
傭兵にでもなればいいのに。
「うるさいねー、あんたたちは!翔太!ご飯だよ!降りておいで!」
「ほらみろ、母ちゃんに怒られただろうが。」
俺が下に降りて、テーブルにつくと、当然のように姉ちゃんが
俺の隣に座って飯を食いだした。
「なんで、居んだよ。旦那は?」
姉ちゃんはもぐもぐしながら、「出張~」と言った。
咀嚼したものを飲み込んだあと、俺の鼻先に箸を突きつけてきた。
「一人じゃ飯、うまくないし、一人分作るって無駄じゃん?
タダ飯最高ー!」
最低だな、この姉。俺はつきつけられた、箸を払いのけた。
まあ、俺もタダ飯食わしてもらってるんだから、姉ちゃんに説教もできねえや。
ご飯を食べながらニュースを見ていると、「人間自然発火の謎」という
テロップが流れた。俺は、目が釘付けになって箸を取り落としそうになった。
火をつけられたわけでもないのに、服と髪の毛の一部だけが燃える事例が
何件か発生したというのだ。マスコミは、尾ひれをつけているが、もしも
それが俺の知っているヤツの仕業であれば、正確に言えば3件だ。
あいつが、最初に能力に気付いた時と、俺達に能力を見せるために撮影した
あの映像、そして、俺が目の当たりにした、あの日だ。
結局、結論としては、ポイ捨てのタバコが風で転がり、排水講に落ち込み、
下水で発生していたガスに引火したのではないかということになったようだ。
違うことを俺は知っているが、俺は黙々と箸を口に運んだ。
次のニュースに移った。
「早川ことは、殺害予告!」
俺の目はまた釘付けになった。
ニュースは、ことはちゃんの事務所に脅迫状が届いたというニュースを
報じていたのだ。
ナナシの言ったことは、本当だったのか。
俺はますます、自分の無力のジレンマに陥ったのだ。