第七話 できすぎた運命の糸
俺は今、猛烈に悲しんでいるし、腸が煮えくり返っている。
「早川ことは 熱愛!」
嘘だ、嘘だと言ってぇ~ことはちゃーん。
俺はビプ男と会った3日後、コンビニでこの週刊誌の記事にショックを受けていた。俺は家に帰って、久しぶりにスカイプをつないだ。するとすぐに、ビプ男から声がかかった。
「おい、見たか、あの記事。」
「見たよ!ちくしょう、俺達のことはちゃんが!」
「相手はバックバンドの男らしいな。くそー、やっぱ身近にいたほうが有利なんじゃねーか。」
有利って・・・。お前が近くに居たところで、ことはちゃんとそうなるとは思えねえ。その自信はどこから来るんだよ。俺はビプ男に呆れた。
その時、久しぶりにナナシから声がかかった。
「おう、久しぶり、ナナシ。見たか?あの記事。許せねえ。」
俺達は開口一番、興奮して唾を飛ばした。
ナナシは冷静な声で、言った。
「ことはちゃんが、ヤバいんだ。お前ら、協力してくれ。」
「え?」
俺とビプ男の声がシンクロした。
「お前ら、これから俺が言うことを信じてくれるか?」
ナナシの表情はいつになく、真剣だ。
「な、なに?」
俺はごくりと唾を飲んだ。
「ことはちゃんが、狙われている。」
えっ?俺とビプ男は何のことかわからずに、一瞬黙った。
「実は俺、人の心が読めるんだ。」
俺達は、昨日の今日で、お互いに妙な能力があることを認識したばかりで、この男にまでこんな能力の話をされるなんて。にわかに信じがたいことだけど、これがもしも本当のことならば、運命過ぎるにもほどがあるだろう。
「お前らが信じられないのは仕方ない。俺、昨日ことはちゃんのアルバムのイベント会場で、聞いてしまったんだ。」
そういえば、昨日はことはちゃんの初アルバムのイベントをMRVレコードでやったんだっけ。俺はたまたま面接だったので行けなかったんだけど。
「ちょうどことはちゃんのことが雑誌に載った直後で。そのことで、ゲスなマスコミに熱愛のことを根掘り葉掘り聞かれてことはちゃんが困ってたんだ。」
そうだ、その悲報を俺は今日知った。
「そしたら、その時、俺に思念が流れて来た。殺してやるって。ことはちゃんも、相手の男も。今度、東都アリーナでのコンサートの時に、二人とも殺してやるって・・・。」
「ちょ、ちょっと待って。唐突に。能力って、そんなこと言われても。」
「嘘じゃない。俺も元々こんな能力があったわじゃないんだ。中学生の頃、あの電車の異臭騒ぎがあって、あの時、俺はあの電車に乗り合わせていた。そこで、俺は知らないオッサンに何かされたに違いないんだ。首の辺りがチクリと痛んで。」
俺とビプ男は、お互いあっと声を発した。
「あの時の、中学生はお前なのか。」
いよいよ、俺達は運命の糸で結ばれている。
ちょっと話が出来すぎてないか?俺は見えない恐怖を感じた。
「じゃあ、ビプ男とコドクも?あの電車に?」
「ああ。そうだ。」
同じ電車に乗って、あの異臭騒ぎの被害者だけに妙な能力が備わった。
きっと何かの意図を持った誰かの計画に俺達は巻き込まれた。
俺とビプ男は、俺達に備わった妙な能力のことを話した。
「そっか、ビプ男のこと、疑って悪かった。」
ナナシは素直に俺達の話を信じてくれた。
ナナシの能力はサトリだが、自分の興味の無い人間の思念しか流れてこないらしい。自分とほぼかかわりあいの無い人間や、全く知らない人間。
つまり、自分が興味を持った人間、親しい人間の思念はわからないという、これまた使えなさそうな能力だ。なんで、俺達はこんな中途半端な能力しかないのだろう?待てよ、そもそも能力があること自体が異常なのだ。いくらショボいにせよ。
「俺達で、ことはちゃんを守らないか?」
クールでいつも鼻持ちならないと思っていたナナシがいつになく、真剣な目をして俺達に訴えかけてきたのだ。
そりゃあ、俺だってことはちゃんのこと、守りたい。
だが、俺達のようなショボイ能力で、どうやって?
俺達に、そんな力があるのだろうか?