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第二話  雑音に悩まされる少年

昨夜の茶番には呆れた。


 まったくいい年して。30にもなろうかというのに。

何が楽しいんだ。よほどかまってくれる人が居ないんだな。

俺はあえて、人にかまわれないようにしているから、ああいう行動は、

俺にとっては理解不可能だ。

 だいたいビプ男は何者なんだろう。働いていない様子だし。クソニートか。

まあ、俺もいつかはそうなるのかもしれないな。俺は社会不適合者だから。


 俺はいつものように、朝家を出ると、数十メートル歩いた先で、

超高音質の密閉性の高い大きなヘッドホンを耳につける。このヘッドホンに

してからは、まったく「雑音」が聞こえなくなった。

 俺のは、ビプ男のように自作自演ではなく、本当の能力だから。

俺はある日を機に、どうでもいい見知らぬ他人の声が聞こえるようになった。

いわゆるサトリというやつだ。

不思議なのは、身近な人間からはその声は聞こえない。顔も知らぬ、見知らぬ

他人の意思だけが伝わってくるのだ。だから、電車の中などは、ヘッドホンが

無いと気が狂いそうになる。ヘッドホンをして、その音楽に集中していると、

雑音は聞こえなくなってくる。

 

 学校などでは、大変なことになる。クラスメイトなど、顔見知りの者の声は

聞こえないのだけど、よそのクラスと合同で行われる、朝礼や式典などでは、

その場は水を打ったように静かなはずなのに、俺の頭の中だけに、他人の思念が

流れ込んでくるのだ。まあ、たいていがくだらない思念だ。

「だりいな」「眠い」「早く終わらねえかな」など。


 だから俺は、化学の武本と、古典の相沢が付き合ってるのも知っている。

俺には何の興味も無い出来事だから、別に誰にも話してはいない。


 高校に入学してすぐに、俺に興味のある、ビッチ女から告白を受けたこと

があった。俺はそいつ自体、他の中学だったからまったく知らなかったから、

案の定、そいつの思念が流れてきたのだ。

 「水本は顔がいいから、付き合ってたら自慢になる」

その女から、そういう思念が流れてきたので、告白されても、全く嬉しく

なかった。無論俺は断った。すると、その女からその日から嫌がらせが始まった。

物を隠す、汚すなど、ねちねちと隠れて陰湿な嫌がらせが始まったのだ。

 俺は呆れた。興味が無い女だから思念が全部筒抜けなのに、その女は知らずに

毎日ご苦労にも嫌がらせをしてきた。そして女は、ある日俺の机に落書きをした。

さすがに俺も腹に据えかね、女の前に、その机をドンと置いた。

「お前の机と変えろ。これ、お前がやったんだろ?」

「は?何言ってんの?私がそんなことするわけないじゃん。バッカじゃね?」

女はしらを切った。

「そっか。俺はお前のことを何でも知っているぞ。お前はこれを、昨日の放課後、

俺が帰ったのを見計らってやったんだ。落書きをしたあと、お前は駅裏のホテルに向かった。援助交際するためだ。腹の出たキモイ親父に2万円もらった。安いな、お前。お前の親は中学1年の頃、離婚している。お前の初体験は、中学2年の頃だ。お前はバカな男とヤったから、避妊もしてもらえずに、子供を堕ろした。」

俺が怒涛のようにしゃべり続けると、明らかにその女はうろたえヒステリックに叫んだ。

「やめて!根も葉もないことを!嘘つくんじゃないわよ!」

唇が震えていた。全て真実だからだ。

 一部事情をしっているその女と同じ中学の女子たちが、驚いて俺を見た。

女はわなわなと泣き出した。バカだな。泣いたら認めたことになるだろう。


 俺は黙って、女の机と俺の机を交換して自分の席に戻った。

それから俺は、気味悪がられて、クラス全員から無視されるようになったのだ。

やっと気分が楽になった。


 そう、あの日から。俺が中学2年の、あの異臭騒動から。

ずっと俺にはどうでもいい誰かの思念が流れてくるのだ。


 俺の本当に好きな人の心は全く読めなかったと言うのに。

不便というか、なんて使えない能力なんだろう。

知りたい人の心は読めずに、どうでもいい人間だけの思念が流れ込んでくる。

始末が悪い。


 俺は学校以外はほとんど外に出なかった。俺が早川ことはのファンになったのは

彼女がマジで天使だったからだ。一度だけ、彼女の出るイベントに行ったことが

あって、その時握手した時に、心からファンに感謝していたからだ。

本当の天使を見つけた。


 その後、SNSで彼女のファンだという、ビプ男と、コドクに出会った。

彼らは全く顔も知らない人間だから、ネットを通じてだけど、少しは思念が

流れてきて、二人とも不器用なだけで、生き難い人間だということに

共感を得たのだ。ビプ男は、核心を突き過ぎた発言で人に叩かれる、自己顕示欲が強い。コドクは、人に気をつかいすぎて、疲弊してしまう人間のようだ。


 俺には、くだらない幼稚な同級生たちよりも、こちらのほうが、落ち着ける。

年上の大人になりきれない、このダメな奴らとの交流のほうが心地よいのだ。


 ビプ男、昨日黙って落ちたから怒ってるんだろうな。

そう思うと、俺、「ナナシ」はおかしくて一人笑った。

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