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第十八話  三戸部の計画

「手荒なまねをして、申し訳ない。」

ちっとも悪びれる様子もなく、その男は言った。


 言葉とは裏腹に、この男はきっと微塵もそんなことは思っていないと思う。目がそう言っていないのだ。

「あなたたちは、この崇高な計画に選ばれた人たちなんです。」


「それじゃあ、もっと丁重に扱えよ!」

ビプ男がかみついた。男は、片方の眉毛だけをピクリとつりあげ、

「じゃああなた方は、この崇高な計画の実験台になってくださいと申し上げて、はいそうですかと、快諾してくださるのですか?」

と笑う。

「誰が!この卑怯者のイカれカルト野郎!」

ビプ男が吼える。

「随分と酷い言われようですね。」

男は声を立てて笑った。ビプ男の怒りが頂点に達した。そして、炎が画面を襲う。

「乱暴はいけませんね。もっとも、それはただの画面。一応対策は講じています。防火ガラスで覆われていましてね。あなたの能力はもう把握済みですから。」

「乱暴なのはそっちだろ!」

俺は腹に据えかねて、とうとう罵倒の言葉を投げかけた。画面には教祖と思われる男、それにビプ男、ナナシ、俺の画像が4分割でモニターされている。

俺たちは、この施設で監視されているのだ。

「暴れないでくださいね。さもないと、催眠ガスで眠らせて、拘束しなくてはならなくなりますよ。ここは、もう諦めて、私達の崇高な実験にご協力ください。」

「あんた達、なんなんだ。」

冷静な声でナナシが問いかける。

「君達も知っての通り、巷でカルトと噂されている、「ESP研究会」。私は代表の三戸部です。

まぁ、カルトと呼ばれるのは心外なんですけどね。私達はまじめに人類の未来について考えている団体なんですよ。」

三戸部という男はそう語った。おそらくユウヤの父親だろう。

「拉致をする時点で、すでにカルトだろ。」

俺はあまりに腹が立って、三戸部を非難した。

「私達も、こんな乱暴なことはしたくありませんでした。ですが、兎角、こういった活動という物は弾圧を受け、常識とかけ離れていると排除されてしまう。私達に協力してくれる人など、いません。」

三戸部は大げさに溜息をつく。

「信者内だけでやればいいじゃないか!どうして一般の人間をさらうんだ。」

ビプ男の言うことはもっともだ。

「信者という言われ方はまるでカルトのようですね。うちの団体では研究員と呼んでいます。もちろん、研究員の方達にも被検体になってもらいましたが、思うような成果が出なかったのです。この研究は失敗かなと私が思い始めた頃、監視していたあなたがたに成果を見出した。貴方達だけが敵性を示し、この研究の成果を確信しました。私どもの息子のユウヤは無限の可能性を秘めています。それゆえに、ユウヤは才能ゆえ、この世に生まれてつらい思いもしてきました。人と違うというだけで人は排除して来ます。でもどうでしょう?皆が同じく、ユウヤのような能力を持っていれば?皆が進化した人間になればきっとこういう醜い嫉妬心は起こらないでしょう?だから私は能力のコピーができないかと考えたのです。人にも、コンピューターのように能力がインストールされればこれほど素晴らしいことはないでしょう。人は常に進化すべきだと私は考えているのです。」


「なるほど。それで敵性のあった俺たちを実験台にしようってわけか。」

ナナシが答えた。

「いろいろ調べさせていただきますよ。何故君達だけが能力に目覚めたのかを。そして、あなたがたにはユウヤの能力を少しずつコピーさせていただきます。一緒に人類の進化のため、協力していただきますよ。」

三戸部は有無を言わせない強い言葉で俺たちを押さえつけようとする。

「ユウヤがかわいそうだ。」

俺がそう言うと、三戸部の表情が変わるのがわかった。

「あなたがたに、ユウヤの何がわかる。ユウヤと私達の何がわかるというのだ。何も知らないくせに。平々凡々と人生を過ごしてきたあなたたちに、ユウヤの何がわかると言うのですか。あなたたちが、自分の能力を隠して来た理由と同じでしょう?違いますか?」


俺はここ4年間の苦悩を思い出し、何も言えなくなってしまった。

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