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第十六話  ナナシと少年とユビキタス監視

 ナナシ、こと水本弘樹は、白い無機質なベッドの上で目覚めた。

学校帰りに拉致されたことを思い出した。背後からワンボックスカーが近づいているのに気付かなかったのだ。3人くらいの男達がナナシを取り囲み後ろから羽交い絞めされた。そしてまた麻酔薬を嗅がされたのだ。拉致される前、一瞬誰かの思念が流れて来た。

「ごめんね、お兄ちゃん。」

その声は自分の体の中から聞こえる声のようでもあった。


ここはどこなんだろう?そう思った瞬間

「ここはESP研究所だよ。」

という少年の声がした。あの、カルト団体として有名な?

「カルトって言われても仕方ないよね。ここの人達は本気でニュータイプを作って世に送り出しユビキタス監視やブレインハッキングで世界を統制しようと考えている人たちばかりだから。」

脳に直接語りかけてくる。

「君は誰?」

ナナシも自分の思念を送った。

「僕はユウヤ。異臭騒動の時にお兄ちゃん達の体に、僕の能力をアップロードした線虫を体内に注入したのは、この団体だよ。お兄ちゃん達は、実験台にされたんだ。ごめんね、僕のパパとママが酷いことをして。」

「なるほど、君の親がこの団体の代表か。こんなことをしてタダで済むと思っているの?他のやつらもさらったのか?」

ナナシがそう責めると、ユウヤはしばらく沈黙した。

「他のお兄ちゃんたちもここに居るよ。お兄ちゃん達のスカイプや携帯は全て監視されていたの。僕が悪いんだ。こんな能力を持って生まれたばかりに。パパとママは最初は僕を守るためにこの団体を立ち上げたんだけど、だんだんと変な方向に軌道が行っちゃって。」

ナナシには、だいたいの事情はわかっていた。少年から溢れるほどの思念が送られてきてパンクしそうだ。

「君の能力に気付いたパパとママが、君を利用しているってわけか。」

ナナシは子供だろうが容赦ない。

「パパとママを悪く言わないで!僕が全て悪いんだから!」

少年は感情的になり、声が震え、建物も震えた。感情的になると、能力も暴走するらしい。

「でも、結果としてはそうだよ。君は、両親の愚行をやめさせたい。そうだろ?」

少年はしばらくして、また思念を送ってきた。

「お兄ちゃん達に、ここの実態を告発して欲しいんだ。僕はまだ小学生だから。お兄ちゃん達大人の言うことだったら、警察も信じてくれると思うんだ。しばらく、この団体のスパイをしてくれない?」

「そうしたら、君のパパとママは捕まっちゃうけどいいの?」

少年はまた言葉に詰まる。

「仕方ないんだ。こんなのは間違っている。だんだんと、団体が暴走してきているんだ。サンプルの人たちを拷問にかけようとしたり、もっとたくさんサンプルを集めようと言ったり、どんどんおかしな方向に行っちゃってるんだ。もうこれ以上、罪を重ねて欲しくないんだよ。」

しばらく二人の間に沈黙が漂う。

「お兄ちゃんは、人の心の読める能力が備わったんだね。お兄ちゃんの友達はまた違う能力が備わったみたい。きっと僕の能力をアップロードして、線虫にデーターを送る時に分化したんだと思う。これからその線虫を通じて、僕から能力をお兄ちゃん達に移行する実験が行われると思うんだ。お兄ちゃんはたぶん、もっともっと人の心が読めるようになると思う。お願い、僕をここから出して。お兄ちゃん達に力が備わったら一緒にここの人たちを救って欲しいの。」

「ここの人たちは救われたくて来てるんじゃないの?」

「僕はそうは思わない。みんなそれぞれ悩みがあって、人間が全て同じ考えで統率されればその苦しみから救われると勘違いしているんだ。人はみな違って当たり前なんだ。」

「そうだな。君はその年でもうそれがわかってるなんて、頭の良い子だな。まぁ、俺たちもいつまでもこんな所に居るつもりは無いから、もちろん脱出するつもりだよ。だから、俺にもっとパワーをちょうだい。この能力は疎ましいと思っていたけど、今回は必要に迫られているから仕方ない。甘受するよ。」

「ありがとう、お兄ちゃん。」


ナナシは、少年のを不憫な子だなと思った。

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