第十五話 へっぽこに期待する少年
ここから連れ出して欲しい。ユウヤという少年はそう言った。
「俺達にはそんな力は無いよ。」
俺はチキンだ。少年を連れ出すどころか、ここから逃げ出す手立てすらわからない。
「そうだ、君ほどの能力があるのなら、自分で逃げ出せるだろう。」
俺は思っていたことを彼に告げた。
「パパやママを悲しませたくなかった。」
ユウヤは一言、ぽつりと言った。幼い少年にとって逃げ出さない理由はその一つだったのだろう。ユウヤが居なくなれば恐らく両親は血眼で探すだろう。
両親にとってもユウヤが全てなのだ。たとえ愛の形が間違っていようとも。
「それでも、やっぱりこれは間違っている。パパやママに早く気付いて欲しいけど、僕の言うことには耳を傾けてくれない。ユウヤはまだ世間知らずだから、人がどんなに怖いかわからないんだ、って言うんだ。」
ユウヤがしばらく沈黙する。
「僕さえ、僕さえ居なければ、この計画は進められない。何故なら、僕が諸悪の根源だから。」
幼い少年をここまで追い詰めるとは、親も罪深い。
「でも、君ほどの力があれば、すぐに俺達を捕まえることができたんじゃないか?あの異臭騒ぎから何年も経って何故今になって俺達をさらったの?」
俺は素朴な疑問を投げかけた。
「この研究所には他にも何人か監禁されてるって言ったよね?その人たちは初期にさらってきた人たちなんだけど、思うような成果が出なかったんだ。この計画は人類の、より高度なニュータイプを作るのが目的なんだ。何かのアニメのようなことを本当に実現させようとしてるんだ。」
ユウヤは幼い少年らしからぬ言葉を次々と連ねる。恐らくかなり早くから英才教育を受けているのだろう。
「この研究所の信者さんの中には著名な文化人や科学者がいるのは、お兄ちゃんも知っているよね?」
そう言えば噂で聞いたことがある。本人たちは否定しているようだけど。
「サンプルの人たちには、毎日僕が少しずつ、容量をオーバーしない程度に能力をスパコンにアップロードして、その人たちに与えているから、恐らく少しくらいの能力がある人が出てきてもおかしくないんだ。でも成果が現れない。それは、本人が抵抗してわざと出さないようにしてるんじゃないのかと考える人たちが出てきた。知識人の中には過激な人も居て、拷問にかけてでも、能力を示させるべきという考えの人が出てきてるんだ。僕はそれだけは絶対にさせないとパパとママに言ったんだ。そういうことをするのなら、僕は能力のアップロードをしないと言った。残念ながら、今の初期サンプルとして連れて来られた人たちには、僕の能力は与えることができなかった。」
「それと俺達の今になっての監禁とどう関係あるの?」
「お兄ちゃんたちは、自分達で能力を自ら試したでしょ?あの線虫にはある程度僕の能力をアップロードしておいたから、ちょっとだけお兄ちゃんたちは能力を使えるようになった。お兄ちゃん達はこの実験で初めて適性があった人たちなんだ。」
なるほど。ビプ男にせよ、ナナシにせよ、俺にせよ。自らがお互いの能力を告白しあって能力を試した。俺はそこで、はっと気付いた。
「まさか、あの事件も君が仕組んだんじゃないよね?だったら俺は許さない。」
ことはちゃん襲撃事件を思い出したのだ。
「違うよ、あれはホント偶然。でも、あの事件でお兄ちゃん達の能力が実証された。お兄ちゃん達をこのままモニターとして観察してても良かったんだけど、研究者達は結論を急いだ。でも、僕はあえて、それに反対しなかった。ごめんね。僕はお兄ちゃん達なら、僕をここから出してくれて、パパやママの目を覚ましてくれると思ったんだ。」
ユウヤが必死に俺に懇願する。
「お兄ちゃん、お願い。僕をここから出して。しばらくお兄ちゃん達には協力して欲しいんだ。しばらく僕の能力を、受けて欲しい。」
ユウヤ、俺達には荷が重過ぎる。俺達、へっぽこだぜ?




