第十四話 告白と告発
「僕、小さい頃から不思議な力があったんだ。」
ユウヤがポツリポツリと俺の脳に直接話しかけてくる。
「最初は、些細なことだった。お兄ちゃんみたいにね、ちょっと先の出来事が予測できるようになったんだ。家族で出かけている時に、ママがちょっとボーっとしていて、駐車場で車に撥ねられそうになった。僕にそのビジョンが突然飛び込んできて僕はママに危ない!って叫んだ。ママは驚いて立ち止まり、そのすぐ鼻先を車がすごいスピードで通り過ぎたんだ。どうやら、お年寄りがブレーキをかけようとして、間違えてアクセルを踏んでしまったみたいで。それから、そういうことがしょっちゅう重なって、パパとママは僕に特殊な能力があることに気付いた。パパとママはすごく喜んだんだ。うちの子は天才だって。超能力者だって僕を褒め称えた。だけど、周りは僕を気持ち悪い者としてしか見てくれなくて。幼稚園の先生にも僕は問題児扱いされた。パパとママはすごく怒って、理解されないのなら、幼稚園にも小学校にも行かせることはできない、そうすごい剣幕で怒鳴り込んで、僕はそれからはずっと家で勉強して家庭教師をつけられた。」
俺はその話をにわかに信じられなかったが、なまじ今自分に同じ能力があるだけに、その気持ちはよくわかる。俺はユウヤに同情した。
「君、学校に行ったことないんだ。」
かわいそうに。親のエゴでずっと家に居るのか。
「ううん、一度だけパパとママにお願いして、学校に通わせてもらってた時期があった。お友達が欲しいって泣いて頼んだら、パパとママが折れて僕を一時的に学校に通わせてたことがあったの。でも、やはり僕は学校に馴染めなかった。僕は人と違うということで、イジメを受けたんだ。それに激怒して、パパとママは学校など信用なら無いと言い、二度と僕は学校に通うことはなかった。」
人と少し違う、内向的、そんな些細なことだけでイジメは起きる。子供たちは残酷の意味をまだ知らない。一生知らずに大人になるやつもいるのだ。
「君が学校に行ってない理由はわかったけど、それがどうして君の親は人を監禁したりするの?」
俺は問題を元に戻す。ユウヤはしばらく黙っていたが、重い口を開く。
「パパやママは僕をすごく愛している。だから、どうして能力があるというだけで、他の者に愛されないかということに疑問を抱き、人間に対して失望し、人間不信になってしまった。」
そこで、ユウヤは溜息をつく。
「パパとママは、皆が同じであればこんな不条理な差別は受けないと考えた。皆が同じ能力を持てば、人間だって進化できるし、超能力は優れた能力、いえば僕のような人間こそが進化系であって、他が原始的なのだ、と考え出して、そういう思想の元、運動を始めた。それがESP研究会の原点だよ。」
どうしてそうなるんだよ。俺には理解不能だった。
「サンプルって俺達のことを言ってたよね?どういう意味?何故人を監禁するの?」
俺はユウヤを責めているつもりはなかった。俺は真実を知りたいのだ。
ユウヤは急に黙り込んだ。
「・・・ごめんね、お兄ちゃん。パパとママがやっていることは、いけないことだとわかっている。パパとママはサンプルとして一般人を捕まえてきて、実験台にしてるんだ。人体実験だよ。社会的には許されないことだよ。」
あの異臭騒ぎの時だ。俺達を捕獲し損ねた。
「何故、俺達の居所がわかったの?」
俺は一番聞きたかったことを聞いた。
「お兄ちゃんたちは監視されてたんだよ。お兄ちゃんたちの体の中には情報を収集するある物体が埋め込まれている。」
あの時、ちくりと何かを刺されたことは覚えている。でもあんな注射針のような物で情報を収集するようなものが体の中に埋め込めるのか?
「チップでも埋めたっての?あんな短時間に?」
俺は素朴な疑問を投げかけた。
「ううん、線虫。針の穴より小さい線虫だよ。」
俺はぞっとした。今も俺の体の中を得体の知らない線虫が蠢いてるというのか。
「線虫なんかで情報を収集できるわけないだろう。」
俺は与太話であってほしかった。
「その線虫は元々、人間の脳をコントロールできる性質を持っていて、実はお兄ちゃん達は偶然スカイプで出会ったと思っているかもしれないけど、実はその線虫によって操られているんだ。」
俺は信じられないけど、思い当たる節はあった。
偶然にしては出来すぎている俺達3人の出会い。
「脳はコントロールできても情報は収集できないだろ?」
その問いにも幼い少年はすらすらと答えた。
「その線虫に思念を送り、僕が情報を収集していた。悪いのは僕だ。」
感情を表に出すまいとユウヤはわざと棒読みに答えるが最後の悪いのは僕だ、という言葉は搾り出すように吐いた。ユウヤの葛藤が見てとれる。
「聞いておいてなんだけど、そんなに俺に話しても、君は大丈夫なの?」
ユウヤは、少し間をおいて俺にはっきりとした声で答えた。
「お兄ちゃん達に、僕をここから連れ出して欲しいんだ。」
その声には、断固たる決意が滲んでいた。




