第十三話 少年の声
遅くなってしまった。
俺は、ハローワークで何の成果も無いまま、たまたま出会った同級生と、今までカラオケに興じていた。こんなことしてる場合じゃないだろう、俺。カラオケでは同級生と盛り上がったが、帰り道は自己嫌悪に陥っていた。一応母ちゃんには、遅くなるから飯いらないってメールしといたんだけど、「いいご身分だね」と嫌味がかえってきてそれっきり返信していない。電車で駅のホームへ降り立ち、家までの真っ暗な夜道を歩いていた。後ろから車が走ってくる音がしたので、俺は道の端っこに避けた。
その時突然俺に3秒後のビジョンが浮かんできたのだ。ヤバイ!後ろから襲われる!俺が振り向いた時にはもう遅かった。俺は大男にあっという間に羽交い絞めにされ、後ろから妙な匂いのする布で口を押さえられ、意識が朦朧となった。
「だ、誰だ!」俺は朦朧とする意識の中、声を振り絞ったがかなり弱々しいものだった。男はフラつく俺を軽々と、肩に抱えあげ、真っ黒なワンボックスカーの後部座席に放り込んだ。
「やはり、こいつ、麻酔が効きにくいみたいですね。」
二人の男のうち、一人がそう呟いた。俺の意識はそこで途切れてしまった。
気がつくと俺は、真っ白な部屋の真っ白なベッドに寝かされていた。ここはどこだ?俺は痛む頭を抱え、無理に体を起こした。まだちょっとくらくらする。あいつら何者なんだ。俺に麻酔薬をかがせて、こんな所に連れ込んで。何が目的なんだ?
俺はフラフラしながら、ドアのほうに歩いて行った。俺の本能が俺に訴えかける。ここはヤバイ。逃げろ。ドアノブをつかみ、下へ降ろして、押したり引いたりしてみた。予想通り鍵がかけられていた。
(ここからは逃げられないよ、お兄ちゃん。)
どこからともなく、子供の声が聞こえてきた。俺は、あたりを見回したが、どこにも子供は居ない。誰?どこにいるんだ?俺は声に出した。
(しーっ!しゃべらないで。僕はお兄ちゃんの頭の中に直接話しかけてるんだから。僕がお兄ちゃんに話しかけてるのがバレちゃうでしょ?)
子供の声はそう俺の頭の中に直接話しかけてきた。
俺は声に出さずに、直接頭の中だけで、その子供の声に応えた。
(ここはどこなんだ?何で俺はこんなところに閉じ込められている?君は誰なんだ?)俺は怒涛のように質問した。
(お兄ちゃん達は、サンプルだよ。お兄ちゃんは何年か前に電車の中で異臭騒ぎに巻き込まれて、その日から能力が使えるようになったんでしょ?)
俺はズバリ言い当てられて、驚きを隠せなかった。
(そ、そうだよ。何で知っているの?君は誰?)
(僕はユウヤ。ここは、ESP研究所だよ。)
そう言えば聞いたことのある名前だ。テレビのワイドショーか何かで取り上げられてたあの胡散臭い、自己啓発セミナーのことか。噂では新興宗教だと言われている。
(そうだね、そう言われても仕方がないよね。実際ここでは、お兄ちゃん達のほかにも大勢のサンプルが監禁されているし。)
ユウヤは俺の考えを瞬時に読み取り、そう答えた。
(ちょっと待て。さっきから君は、お兄ちゃん達、って言ってるよね?お兄ちゃん達って言うことは、もしかして、ナナシやビプ男もさらわれたのか?)
ユウヤはしばらく沈黙して、言いにくそうに答えた。
(うん、うちのパパとママが信者さんに命令して。うちのパパとママが手荒なことをしてごめんね?)
ごめんねじゃ済まねえだろ。シャレになんねえ。
俺が怒りを露にすると、ユウヤは悲しそうに答えた。
(僕も、もうパパもママもこんなことをするのは止めてって言ってるんだけど。聞いてくれないんだ。僕を神様にするまで止めないって言うんだ。)
ユウヤは泣いていた。
神様にする?どういうことだ。




