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第十一話  へっぽこに彼女を守れるのか

結局のところ、犯人は逮捕されたわけだけど、

アルバイトには行かなくてはならない。

まぁ、ことはちゃんのコンサートにタダで行けるわけなのだから?

そう思っていたのだ。ところが、いざ警備についてみると意外と大変だった。


 犯人が捕まったとは言え、模倣犯が現れるかもしれないということで、

異例の厳重体制で臨むことになり、手荷物のチェックはもちろん、一人ずつ

金属探知機で全ての人間をチェックするのは、意外と大変だった。


 鉄柵を設け、俺達はその前に立ちはだかったのだ。

っていうか、これ!俺達はことはちゃんの声は聞けるけど、ずっと

客席を向いてなきゃダメなんだから、ことはちゃんの姿は見れないってこと?

そんなぁ~。こんなことなら、バイト断って金払ってコンサートに来たほうが

いいじゃないか!俺は浅はかだった。


 俺達は一応、ナナシが手配した小型トランシーバーをつけてお互い

コミュニケーションをとることにした。


「はぁ~、こんなことなら、俺、バイトやめればよかった。

これじゃことはちゃんが見えないよ。どぞ。」

俺と全く同じ事をビプ男っも考えていたようだ。

「そうだなぁ、ホント。チェックしても怪しいやつ、居なかったし。どぞ。」

俺が応えた。

「しっ!黙って!」

突然、ナナシが鋭く叫んだ。

「どうしたんだよ、ナナシ、どぞ。」

ナナシはしばらく口を聞かなかった。どうやら考え事をしてるらしい。

「やばいぞ、お前ら、どぞ。」

「なになに?どぞ。」

「思念が流れてくる。」

「どんな?どぞ。」

俺は唾をごくりと飲み込んだ。

「殺してやる、って聞こえる。ことはちゃんを。」

俺はその言葉に驚いた。

「え?でも、犯人逮捕されたんじゃ?どぞ。」

「すごい強い思念だ。近いぞ、どぞ。」

「どこからか、わからないのか?どぞ。」

「ちょっと待って集中するから。」

しばらくの沈黙があった。

「ビプ男、コドク、聞いてくれ。信じられないかもしれないけど、思念は

舞台から流れてくる。」

えっ!舞台から?

「ビプ男、ミッションだ。これからことはちゃんを殺そうとしている

憎き犯人を思って念じてくれ。」

「え、急にそんなこと言われても。見えないものに対して。無理だよ。」

「お前、ことはちゃんが死んでもいいのか?」

「それはやだ。わかった。やってみる。」

しばらく沈黙があった。

ナナシは思念の元を探り、ビプ男は念じ続ける。

俺の無力感。俺は何をしたらいいんだ。

「やっぱ、無理だぜ。オナニーしたら、いけそうなんだけど。」

「バカかおめーは。捕まりてえのかよ。こんな公衆の面前で。」

「だって、漠然としてて、ムズいよ!」

俺達は口々に罵りあった。

「わかった!あいつだ!」

ナナシは、後ろを振り向いた。

「だれだれ?」

「ギターの野郎だよ、あのことはちゃんと噂のあった。」

マジか!なんで!?

「俺を振りやがって、って言ってる。」

俺はふつふつと怒りが沸いてきた。

ビプ男もそうとうボルテージが上がってきたようだ。

「あんのやろー、ことはちゃんをいただいた上に、振られたら殺すとか!

許せねえ!」

突然俺に、ビジョンが降ってきた。

「ビプ男!やばい!3秒後だ!早くしろ!」

俺は最短の言葉で危険を伝えた。


 男はギターを投げ、手元にあった刃物をかざす。

「ビプ男ーーーー!」

ああ、間に合わねえ!

とその時、舞台袖から弾丸のように何かが飛び出して来て、

ギターの男が弾け飛んだ。男が無様に転がった瞬間に爆発音がやっとした。

遅えよ!ビプ男!でも、なんで弾け飛んだんだ?あいつ。

弾丸に見えたのは、長身のロン毛がドロップキックで跳ね飛ばしたのだ。

あの空手の構えは・・・。


「ね、姉ちゃん!なんで!」

俺は舞台の上の、見慣れた勇ましい姉を呆然と眺めていた。

舞台も会場もこの騒動で大騒ぎになった。

すぐに警備員達に、ギターの男は取り押さえられ、しばらくして

警察官が到着し、ギターの男は連れられて行った。


「翔太もアルバイトか?お前そんなのちっとも言わないじゃん。」

姉ちゃんは白い歯をむき出してわらった。

「姉ちゃんこそ!何やってんだよ。」

「あぁ、ボディーガードのアルバイト。ほら、旦那が出張続きじゃん?

暇だから、じゃあ早川ことはのボディーガードやらない?って誘われて。」

「犯人捕まったのに。何で?」

姉ちゃんは少し声を潜めた。

「実はことはちゃんの脅迫ともう一つヤバイことがあったんだよ。

あのギターの野郎のストーカー。週刊誌に載ってたのは、あれは

ギターの野郎が勝手にことはちゃんを自分の彼女だって言いふらして

わざわざあの写真を撮らせたんだよ。スクープいらねえか?って。

雑誌社に自分で売り込んだってわけ。あの男、そうやって強引に

女を誘って振られたことがなかったから。今回見事にことはちゃんが

あいつを振ったから逆恨みってやつだよ。小さい男だな。」

俺達はそれを聞いて、狂喜した。

だよな!俺達のことはちゃんが、あんなチャラい男とデキるわけがねえ!

俺とビプ男が小躍りしていると、ナナシが呆然と突っ立っていた。

「どうした?ナナシ?ことはちゃんはあいつと付き合ってないし、

助かったんだよ?お前、嬉しくないの?」


 ナナシがボソっと一言呟いた。

「天使だ。」

はぁ?俺はナナシの視線を辿った。

ナナシは真っ直ぐに俺の姉ちゃんを見ている。

「えーっと、天使って、まさか?これのこと?このゴリ女?」

俺が指差して言うと、ナナシが赤くなって俯いた。


えーーーーーーーーーっ!

そう叫んだ瞬間に、俺に姉ちゃんのコブラツイストがキマっていた。

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