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第十話  限りなく不安定な計画

俺達3人は、コンサート会場の警備強化もあって、あっさりと面接に受かった。

コンサートを中止するという選択肢もあったようだが、警備を強化し、金属探知機などを導入し万全を期すということで、どうやら中止は免れたらしい。

俺は本当は中止になればいいと思ったのだ。

ことはちゃんが危うい目に遭うかも知れないというのに、事務所はどれだけ儲け主義なんだ。俺は、事務所や開催主に対して憤怒した。


俺達は事前に計画を立てるために、ビプ男のマンションにいる。

無職なのに、こんなマンションに住んでいるのに、俺とナナシは驚いた。

「親が所有してる物件だからな。タダだ。」

ビプ男は平然と言ってのけた。お坊ちゃまなのかよ。

ただし、思っていた通り、中は汚い。外観がとても綺麗なだけに、このギャップには辟易し、呆れた。ナナシなど、明らかに座るのを戸惑っていて、埃にまみれた皮のソファーをティッシュで吹いてから座った。

テーブルに放置された、炭酸飲料のペットボトルにスナック菓子の袋。ゴキブリでも出てくるんじゃないかと、変に緊張した。

「俺、3秒後の未来しか見えないから、大して役に立たないぜ。腕力も弱いし。」

俺は開口一番、自分の無力を口にした。

「でも、危険くらい回避できるだろ?」

ナナシが言う。

「どうやって、ことはちゃんに危険を知らせるんだよ。コンサート会場だから絶対にうるさくて、俺が叫んだところで、ことはちゃんには伝わらないぜ?」

俺が反論する。

「コドクが危険を知らせるのは、ことはちゃんじゃなくて、ビプ男だ。」

突然ナナシに名指しされたビプ男は、ナナシのほうを振り返った。

「俺か?いくら俺でも、3秒で念をこめるのはきついぜ?」

そうだ。今までずっと、オナニーが原動力だと思っていたくらいなのだから。

「コドクから聞いたけど、ビプ男はオナニーなしでも小爆破できたんだろ?」

「ま、まあそうだけど。」

「それなら、ずっとコンサート中念をこめてればいい。俺達の大切なことはちゃんを、危うい目に遭わせようとしてるヤツだぜ?許せないだろ。わかった瞬間に一気にそいつに念を放て。」

俺達年上の大人は、最年少のナナシに指示をされている。情けない大人だ。

「俺はずっと、思念を拾い続ける。雑音は多いと思うけど、集中すれば強い思念はわかると思うから。俺がわかった瞬間に、コドクに伝える。コドクは3秒前に犯人の行動を予測して、ビプ男に伝えて一気に爆破させる。いいな?」

「そううまく行くもんかな?」

ビプ男は、ポテチをほうばりながら脂にまみれた手でテレビのリモコンを操作する。うわ、最悪。

「アキバで仕入れておいた。」

ナナシが超小型のトランシーバーを3つテーブルに並べた。

「これで連絡を取り合おう。」

準備万端だな、おい。俺はナナシの熱意に負けた。

「まあ、何もしないより、マシか。俺達に防げるかどうかはわからないけど。やるだけやってみるか。」

俺達の決意は固まった。


その時、テレビのニューステロップに早川ことはの文字が流れ、俺達は画面に釘付けになった。ビプ男は、リモコンでテレビの音量を上げた。


「さて、次のニュースです。声優でアイドルの早川ことはさんを脅迫していた犯人が逮捕されました。」

今、決意を固めたばかりの俺達は驚いてそのニュースを見ていた。

脅迫状の消印から、郵便物を投函した場所と時間を割り出し、防犯カメラに写っていた男に任意同行を求めたところ、自白したというのだ。


俺達は全員、躍り上がって喜んだ。

「よかった!犯人が捕まって!」

俺達の今までの計画は何だったんだ。

よかった、本当によかった。


「あ、でも俺達、警備員のアルバイトには行かなくてはならないよな?」

「まあ、タダでことはちゃんのコンサート会場に居ることできるんだからさ。

ラッキーじゃん?」

「それもそうだな。俺が用意したトランシーバー無駄になっちゃったな。」

「まあ、せっかくだから、使おうぜ。」


俺達は安堵の気持ちを口にした。


その時は、コンサート会場で起こることなど、予期することさえできなかったのだ。

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