急上昇
カシィィィィィィン・・・
これまでに要が倒してきた謎の生物と同じように、透き通るような音をさせながらミドリマンの体が粒子となり大気に散ってゆく。
「あつつ・・・結構切られちゃったなぁ。
さすがに傷跡を隠すのが難しいかも・・・」
要は消えてゆくミドリマンを覗き込みながら体のあちこちを確かめるが、突き刺さる痛みに顔をしかめた。
その時だった。
ザザ・・・ザザザ・・・
『リン・・・願・・・』
「え、誰っ!?」
突然要の耳にノイズと聞き取りにくい声が入った。
ザ・・・ザッ・・・
『接続・・・がい・・・』
尚も耳障りで不明瞭な声が聞こえてくるが、左右をきょろきょろと見渡しても誰もいないし気配も感じない。
「どこにいるの?
近くにいるのなら出てきてよ!」
叫び声を上げるも聞こえてくるのは相変わらずのノイズ交じりの声だけ。
「・・・?」
いきなり視界の右下に光の玉が現れた。
光の玉は親指と人差し指でつくった輪くらいの大きさで不規則に明滅を繰り返している。
「な、何だろうこれ・・・
新しい謎の生物?」
要はその光の玉を視界の中心にもってこようと頭を振るが、不思議なことに玉は視界の右下の位置を保ったままだ。
どんなに首を振ろうと頭を上に向けようと目をこすっても玉は消えることは無く、その位置も変わらない。
「う~ん、どうなってるの?
目の中だけに見えてるって事なのかな・・・」
いつまでたっても良く分からないままなのだが、徐々に光が弱くなっているのは確かなようだ。。
そこで要は見えている光の玉を右手の人差し指でちょんと触ってみた。
『・・・ンクしてよ~、お願いだから!!
はやくしないと切れちゃう~!
そのアイコンに触るだけで言良いんだから~!
って繋がった!?
やった~!
とりあえずシステムプログラムを送るからね!』
「え、え!?」
意味不明な事を話しかけられ戸惑う要だっが、それ以上に混乱する事態が訪れる。
ィィィィィィン!
ふいに耳鳴りがしたかと思うと、視界全体に見た事の無い記号や文字を羅列した窓のような物が次々と現れて消えてゆく。
「あ、あぁぁぁぁぁぁ・・・」
その窓は要の頭の奥底を押しつぶすような勢いで流れ込み意識の中を駆け回る。
思わず両手を地面についてあえぐ要だったが、永遠に続くかと思われたその圧迫感は急にぴたりと止まった。
「はぁはぁ、って何これー!」
ゆっくりと地面から顔を上げた要は素っ頓狂な声を上げた。
先ほどまでちらついていた光の玉が無くなった代わりに、視界の左上には両親指と人差し指で作った輪ほどの大きさの球体があり、右上には横3列の色違いに光るバーが並んで、視界の真下にはぼんやりと点滅する玉が3個、左下には薄暗い光を放つ玉が小指と親指の差し渡し幅に10個ほど並んでおり、 先ほどまで光の玉があった右下には十字を描くように小さな5個の光の玉が固まっていた。
「ど、どうなっちゃったの?
さっきより増えちゃったじゃないかー!」
もちろんどんなに首を振り回しても瞬きを繰り返しても消えることは無い。
『インストール完了っと♪
大丈夫だよ。
副作用も何も無いから安心してね~。』
ついさっきまではノイズまじりに聞こえていた謎の声が、まるで耳元かはたまた頭の中に直接響くようなクリアな音声で聞こえてきた。
「・・・さっきから隠れてたままで話されても信じられないんだけど」
『ごめんね~
今の私が届けられるのは声と情報だけなのよ~
・・・あ!ちょっと待ってね。』
数秒待つとまたも視界に記号の流れる窓が現れ、しばらくしてその窓がスゥっと消えると、そこに居たのはどこかで見た事のある細長い哺乳類だった。
『うん、オコジョのオブジェクでOKだね!
ちゃんと同期できてるみたいだしね~』
「え~と、動物だったの?」
『そうじゃないんだけどね~
声だけじゃ気分が悪いでしょ?
今の私は本当の姿で直接カナメに会うことは出来ないの。
いつかは会えると思うけど・・・
ゴメンね~』
「はぁ、だったらしょうがないんだけど・・・」
『あ、私の事はアーダって呼んでね!』
「あ、うん。よろしく・・・
で、さっきから見えてるこの表みたいな物は何なの?
どうやっても消えないんだけど。」
『この表はね、カナメや周りの色々な情報を自動で見せてくれる便利な物なのよ~
いまは邪魔に思うかもしれないけど、慣れたら何も見えてない状態よりよっぽど役に立つからね!』
「ほんとかなぁ。
いきなり言われてもぜんぜん信じられないんだけど・・・」
今までに自分以外の誰にも見えていないミドリマンを筆頭とした謎の生物達を葬ってきた要であっても、自身に起きた不可解な状況をいきなり受け入れろと言われても無理があるだろう。
『う~ん、カナメは中々疑り深いんだね~
それならっと・・・うん、先ほど感知した放出魔素量から少しは・・・って何これスゴイじゃない!』
「な、何がそんなにスゴイの?」
『カナメっ!下のほうにある光ってる玉を触ってみて!」
「う、うん・・・」
恐る恐る要が玉に触れてみると目の前に新たな窓が現れた。
「な、何これ?」
要は目の前に広がる光る文字や記号に呆然としていた。
~~~~ステータス~~~~~~~~
ヒバラ・カナメ
レベル:1→8
レベル9までの経験魔素:6%
HP:80→350
MP:20→110
スタミナ:30→230
筋力:28+6
魔力:17+6
耐久力:26+6
敏捷性:18+6
知力:5
器用さ:11
運:13
残りポイント:16
スキル
魔力装身:レベル6
妖者の目:レベル8
魔法
なし
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『さぁ、張り切ってポイント振り分けちゃってチョーダイ!』
目の前でやたらとはしゃぐ小動物の映像から声が響き渡る。
「やっぱり止めとけば良かったかも」
『あ~ん、そのな事言わないでヨ!
ようやく見つかった枷の無い子なんだから~
それも闘士になる可能性大ってどんだけ掘り出し物なの?
ウレシー!』
「はぁ・・・振り分けるって何をどうすれば良いの?」
『残りポイントが16になってるでしょ?
それを筋力から運までのどれかに足していくの。
まぁポイントがなくてもそれぞれに合わせた鍛え方で数値を上げる事ができるんだけどね。』
「う~ん、どれを上げれば良いのかサッパリ分からないよ・・・」
『え~とね、カナメは今まで一人で戦ってきたんだよね?』
「うん、そうだよ。」
『魔力装身のおかげで魔力も上がってるし・・・筋力も耐久力も想像以上・・・誰にも逢わずに強くなって欲しいし・・・でもこの年でここまで鍛えてあるなんて・・・知力はちょっと残念な感じだけど・・・』
二本足で立ったオコジョは考えるように顎の下に手をもってきてブツブツとつぶやいている。
『ねぇ、カナメ。・・・私が決めても良い?』
こちらの様子を伺うような仕草で尋ねられた要は、どうせ説明を聞いても良く分からないだろうと思ったので了承する。
「うん、良いよ。
聞きたい事が色々もあるしね。」
『わーい、ありがと~』
小躍りするアーダ、すなわち目の前のオコジョは中々に可愛らしいものである。
『それじゃ言うよ~。
魔力に2、敏捷に9、運に5を入れてね。』
「・・・運?
そんなの要るの?」
『運を馬鹿にしちゃダメなんだよ~
魔力素材が出るか出ないかは運が大きくかかわるんだから!
そもそも他の値は鍛え方次第で後々も結構上げられるけど運だけはそうそう上がらないんだから!!』
アーダがこれまでとは段違いの気迫で要に迫る。
「分かった、分かったから!
それでどうやって上げるの?」
ズームで迫るアーダにのけぞりながら要はステータスの扱い方を尋ねた。
『あ、うん。
ポイントを入れるには入れたい文字の所に2回連続でちょんちょんと触ってね。』
要は言われたとおり魔力の文字を2回つついてみると横の数字が17から18に増えた。
「なるほどね。」
続けてアーダの指示通りに残りのポイントをそれぞれに振り分けてゆき、残りポイントがゼロになる。
「終わったけど・・・何も起こらないよ?」
『まだまだこれからよ!
最初にこのウィンドウを開いたアイコン、えーと光の玉を触ってみて。』
素直に要がアイコンに触れると新しいメッセージが表示される
~~~ポイントを確定しますか?~~~
~~~YES~~~~~~NO~~~
『もちろん「YES」を押すんだよ~』
そこで要が「YES」に触るとステータスと書かれたウィンドウが消えた。
「・・・終わり?」
要は特に何も変わった感じもしないので疑いの目をアーダに向けようとしたその瞬間だった。
「あ・・・つっ・・・!
体がっ・・・」
体の芯から燃え上がるような熱い何かが噴出して全身を包み込んだ。
徐々にその高揚感も収まったところでアーダから「どうだ!」と言わんばかりの声がかけられた。
『ふっふっふ、凄いでしょカナメ。
ここまで一気にレベルが上がるなんて事はそうそう有り得ないからね~」
「はぁはぁ・・・うん、分かるよ。
体が一気に軽くなった感じがする。」