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着信少女  作者: 沙φ亜竜
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-6-

「ご苦労様」


 よくわからない機械類がいくつも並んだ、真っ暗な研究所の一室。

 私は戻ってきたのだ。


「はい」


 声をかけてくれたのは博士だ。

 私に声をかけてくれる人なんて、他にはいない。


「……泣いているの?」


 博士はふと、私の肩に手をかけ、そんなことを言い出す。


「どうして私が泣かなければいけないんですか? そんなわけは……」


 ありません。

 そう言おうとして私は、頬を伝う雫に気づいた。

 そっと、博士が私の背中に身を寄せてくる。


「いつも……ごめんなさい……」


 不条理な死に方をする人のもとへと送られ、その人を守る。

 その人の身代わりとなって、殺そうとした相手を道連れに、死ぬ。

 それが私の役目だった。


「でも、あなたは死なない。生まれた場所であるこの研究所に戻るだけ……」


 そして、繰り返す。

 道連れにした殺人犯は、この世に存在しなかったことになる。

 完全に、すべての人の記憶から消し去られてしまうのだ。

 ……私に関する記憶とともに。


「せっかく仲良くなっても、覚えていてもらえないなんて……。寂しいわよね……」


 私の背中にしなだれかかり、博士――私のお母さんは泣いていた。


「ごめんなさい……私の愛しい、縁紫(ゆかり)ちゃん……」

「お母さん……。私は、大丈夫。……ほら、次の人が決まったみたいだよ? 行ってくるから、転送、して……?」


 転送装置の前に置かれたモニターの中で、『転送準備完了』の文字だけが光っていた。


「……ええ、わかったわ……」


 お母さんが、私の背中から離れ、転送装置のパネルを操作する。

 ボタンを押すお母さんの指は、小さく震えているように見えた。

 すぐに私の体は、真っ白い光に包まれ始める。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい……」


 私は笑顔を浮かべたけど、お母さんはうつむいたままだった。


 さぁ、また次の人との、束の間の共同生活が始まる。

 今回もまた、頑張らなきゃ……。


 決意を胸に、私は再び旅立った。



 ☆☆☆☆☆



 微笑みを向けてくれた少女の視線を、私は受け止めることすらできなかった。

 彼女が消えた去った空間を、ただ呆然と見つめている。


 ストーカーの被害を受けて殺された娘――縁紫。

 人工知能の研究者だった私は、縁紫にも協力してもらい、知能をデータ化しようとしていた。

 その研究の半ばで、縁紫は死んでしまったけど……。

 データの断片を再構成することで、縁紫の知能は復活した。


 それに目をつけた『組織』の援助で、私は立体映像を実体化させ、縁紫の知能を持たせることにまで成功した。

 できれば、私のそばにずっと寄り添っていてほしい。

 できれば、私のそばでずっと笑っていてほしい。

 だけど、それは叶わない願いだった。


 組織がなにを考えて私の研究の援助を続けてくれているのか、それはわからない。

 どんな意図があるにしても、あの子が存在し続けていけるのなら……。

 その一心でこの研究を続けている。


 ストーカーによって不条理な死に方をする人を、どうにかして救う。

 そのために、あの子は自分の身を犠牲にして立ち向かってくれている。

 それがあの子の役目であり、組織の意思でもある。


 でも……。

 あの子は、つらいはずだ。


 弱音なんて絶対に吐かない。

 それでも、あの子の瞳からこぼれ落ちた雫が、すべてを物語っていた。

 私はどうすればいいのだろう。涙は、止め処なく溢れてくる。


 いっそ、なにもかもを捨ててあの子とふたりで逃げてしまおうか。

 そう考えたこともあった。

 とはいえ、組織からの援助がなくなれば、あの子は生きていけない。

 今の状態が、生きていると言えるのかは疑問ではあるけど。


 せめて、あの子が幸せになってくれれば……。


 転送先のあなた。

 あの子のこと、忘れないでいてあげてください。

 たったひとつだけ、私のこの願いを、どうか叶えてください。

 お願いします……。


 私は今日も、あの子――縁紫の転送先である『あなた』に向けて、ただひたすらに祈り続けるのだった――。


以上で終了です。お疲れ様でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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宜しくお願い致しますm(_ _)m

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