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着信少女  作者: 沙φ亜竜
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-3-

「守秘義務は守っていただかなくてはなりません」


 杏仁はそう言っていた。つまり、彼女の存在は知られてはいけないということだ。

 とはいえ杏仁は、立体映像のようなものではあっても、実体化していて触れることすらできる女の子。いったい、どうしろというのか……。

 そうは思ったのだけど。


「秋穂が部屋の外に出るときには、私は携帯電話の中に退避致します」


 帰り方こそ忘れてしまってはいたものの、ケータイの中への退避法は覚えているらしい。


「いなほ、おっはよ~!」

「あっ、巫女! おはよ~!」


 待ち合わせ場所にやってきた親友と、いつものように挨拶を交わして歩き出す。


「あれ? 待ち受け変えたんだ」


 巫女は断りもなく私のケータイを手に取り、画面をのぞき込む。

 そこには、目をつぶって眠っている杏仁の姿が……。


「可愛い女の子の寝顔の待ち受け……か。あんた、またこういうものを……。ま、いつものことか。それはともかく~……」


 巫女……。「また」って、「いつものこと」ってなに~? あんたは私をどういう目で見てるのよ~?

 ツッコミどころはいろいろとあったけど、「守秘義務」に縛られている私は、深く追求できなかった。


「今日の放課後、いなほの家で勉強会、ってことでいいんだよね?」

「あ……」


 すっかり忘れていた。

 期末試験も近いから、一緒に勉強しようと約束していたのだ。

 まぁ、巫女とふたりだけでの勉強会になるんだけど。


 巫女の家ではなにかと問題があるとかで、いつも私の家が勉強会の舞台となっている。

 成績は私より巫女のほうが圧倒的に上。だから私が巫女に頼っているという感じだし、べつに文句はなかったのだけど。


 今は、杏仁がいるしなぁ……。


 杏仁は基本的に、私が自分の部屋に戻った時点で実体化するらしい。

 いろいろとお喋りをしたり遊んだりしながら一緒に生活することが、モニターとしての私の努めだからだ。


 だけど、お客様が来ているときは、さすがにケータイに戻ってくれるよね。守秘義務もあるわけだし……。

 ケータイの画面の中で、心地よい寝息を立てている杏仁の寝顔を見つめる。

 もちろん、返事なんてないのだけど。


「あっ、予鈴だ。いなほ、走るよ!」

「え……? あっ、待って~!」


 私は素早くケータイを閉じ、巫女を追って慌てて走り出した。



 ☆☆☆☆☆



「で、勉強会で勉強道具一式忘れるって、どういうこと?」


 私はジト目で巫女を睨む。


「いやぁ~、いつも教科書とか全部学校に置いてきてるからさ~」

「……予習とか復習とか、しないのね……」


 もっとも、持って帰ってきている私でも、予習復習なんて全然していないのだけど。


「いなほの教科書があれば、とりあえずどうにかなるでしょ!」

「そりゃあ、そうだけどさ」


 巫女は、学校帰りにそのまま私の家まで一緒に来た。

 それほど遠くもないのだから、一度家に取りに帰ってもいいのに……。


 部屋の片づけをしていなかったけど、来るのが親友の巫女なら問題ないだろう。

 階段を上り、部屋のドアを開ける。

 と――。


 ぺこり。

 杏仁が、控えめに置かれたちゃぶ台の横に、ちょこんと座っていた。


(ちょっと、なにしてんのよ!?)


 私が杏仁を問い詰めるより早く、巫女はその姿を見つけてしまう。


「あれ? この子だ~れ?」

「いとこの杏仁です」


 事もなげに答える彼女。


(守秘義務はどうしたのよ!?)


 今度こそ杏仁の耳もとに口を近づけ、問い質す。


(この人は大丈夫です)

(え? どういうことよ?)


 私のその疑問に、答えは返ってこなかった。


「へ~、いとこなんていたんだ。よろしくね、杏仁ちゃん!」


 巫女……つき合い長いんだから、いとこにこんな子がいないことくらい、気づいてくれてもいいのに。

 それに、名前に関してのツッコミもなし?

 私の親友は、どうやら細かいことには動じない性格のようだ。……今に始まったことではないけど。


 ともかく、勉強会は始まった。

 杏仁は私たちの様子を不思議そうな目で静かに眺めている。

 巫女は、杏仁がいてもとくに気にならないらしく、いつもどおりといった様子だった。


「そういえばさぁ~、こないだ美術の先生に……」


 雑談ばかりになるのも、いつもどおりだ。


「そうそう。私ストーカー被害に遭っちゃった。いなほも気をつけてね。それから……」


 ん……?

 ちょっと待った!


「なによそれ? 巫女、大丈夫だったの?」


 すごく大変なことのはずなのに、あっさり流そうとした親友を、私は引き止める。


「ん? ああ、ストーカー? うん、大丈夫よ。うちの若い連中がちょっと『注意』したら、震え上がってたみたいだし」

「そ……そう……」


 若い連中ってなに? 『注意』ってなに!?

 巫女の家って、いったい……。

 考えてみたら私は、巫女の家のことをほとんど知らなかった。

 遊びに行ったことはないけど、すごく広いお屋敷だったような気はする。


「ん~?」


 ニコニコニコ。

 巫女の笑顔が、ちょっとだけ怖く思えた。



 ☆☆☆☆☆



「それじゃ、帰るね。……杏仁ちゃんも、またね!」

「はい、またねです」


 勉強会とは名ばかりの、お茶会+雑談が終わり、巫女は満足そうに部屋を出る。


「あっ、巫女。送っていこうか? ストーカーがいたんでしょ?」

「ありがとう。でも大丈夫よ、近いし。それに、私を送ったらそのあと、いなほがひとりで帰ることになっちゃうじゃない」


 巫女は私の申し出に笑顔で答えると、手を振って歩き出した。

 もうすっかり暗くなった歩道の闇の奥へ、彼女の姿は静かに消えていった。


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