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着信少女  作者: 沙φ亜竜
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「あっ、これ可愛い~♪」


 私はファンシーショップで猫のぬいぐるみを手に取った。

 そして、おもむろに首輪の後ろにつけられたタグを引っ張る。


「……むぅ。ダメじゃん、日本製じゃない!」

「あんたねぇ……。べつにいいじゃないの」


 隣で呆れ顔を浮かべている彼女は親友の神倉美子(かみくらよしこ)

 あだ名は『巫女』。美子→ミコ→巫女、ってわけだ。

 小学校からずっと一緒の腐れ縁、義務教育が終わって高校一年生となった今でも同じ学校に通っている。

 自分たちの意思とは別次元の要因で決められるクラス分けさえも、私たちの縁の強さの前では無意味なようで、同じクラスになるのも今年で十年目だった。


「だいたい、杏仁豆腐大好きでしょ? あんた」

「え~? でも私が食べるのってコンビニのばっかりだし。日本の工場で作られてるもん」

「だったら、パイナップルは? グレープフルーツは? バナナは? パパイヤは?」

「パパイヤは食べたことないけど。……それに、全部が全部輸入品ってわけでもないでしょ?」

「う~ん」


 私は日本製の物にこだわっている。

 メイド・イン・ジャパン、ラブ♪

 ……こだわりすぎで、ちょっと変わってると言われることもあるくらい。


 そんな私にいろいろと文句を並べ立ててくる巫女だったけど、


「ま、それはそれとして……」


 さくっと諦めたみたいだった。

 切り替えの早さもこの子のいい所だ。……多分ね。


「いなほ。あんたは大丈夫?」

「ほへ?」


 疑問符を浮かべる。


 『いなほ』というあだ名で呼ばれる私は、稲村秋穂(いなむらあきほ)

 美人の巫女といつも一緒にいることで、ぱっとしない印象で見られがちだけど、私だって結構いけてると思うんだよね。

 ま、生まれてこのかた、彼氏なんていたことはないんだけど。それを言ったら、巫女のほうだってそうだと思うし。


「ん? いなほ、どうしたの? 固まっちゃって」


 おっと、いけないいけない。

 どうも私は妄想に突っ走る性格みたいで、よく精神がどっか飛んでいってるとか言われるのだ。


「なんでもないよ。それより巫女こそ、大丈夫ってなにが?」

「ほら。なんか最近、迷惑メールとか多いじゃない?」

「あ~」


 ピロリロリーン♪

 絶妙なタイミングでケータイの着信音が鳴った。

 私はポケットからケータイを引っ張り出し、画面を確認してみる。


「やっぱり」


 ポチッ。ボタンを押して、メールを削除する。


「迷惑メール?」

「うん。ま、即削除よ、こんなの」


 ケータイをパタンと折りたたみポケットに突っ込むと、私は再び歩き出した。


「多いよね、そういうの。ほんと、イヤになってくる」

「そうなんだよね」


 眉をしかめている巫女に相づちを打つ。


「それにさ、そういうのがあると、ふとした瞬間に誰かに見られてるような気がして、なんか怖いよね」

「あっ、そうかも。でも迷惑メールって、自動でいろんなアドレスに送るだけで、相手を特定して送ってるわけじゃないんだよね?」

「ん、そりゃあ、そうでしょうね。それでもたまに、私のことを本当に見てるんじゃないかって思うような内容のも来ない?」

「え?」


 記憶を巡らる。


 迷惑メールといえば、馴れ馴れしい感じや懸賞に当たったとかってタイトルで返信を待つようなものや、メール本文の中からリンクが張ってあって怪しいアドレスに飛ぶようになってるようなものが多いと思う。

 不特定多数に送るものだろうから、あまり個人を特定しているような内容のは来ない気がする。


 とはいえ、自分を特定していると感じるような内容が事細かに書かれてあったら、確かに怖い。

 もちろんそれは、たまたまそう思える内容ってだけなんだろうけど。


「ん~、そういうのはあまり来ないんじゃないかなぁ」

「そっか。ま、いいや」


 この話題はそれで終わりだった。分かれ道に差しかかったからだ。

 ここから先は、お互いに進む道が違う。

 もっとも、この交差点からそれぞれの家までは、大した距離ではないのだけど。


「それじゃ、また明日ね」

「うん、バイバイ!」


 手を振り、親友に別れを告げる。

 ふぅ……。

 ため息ひとつとともに歩き始める私。

 巫女と一緒にいると、基本的にずっと喋りっぱなし。だから、別れたあとは妙に静かに感じてしまう。


 空は茜色から夜の深い青へとその姿を変え始めていた。

 わずかに生温かさを残しながらも、涼しさでいっぱいに染められた風が頬をかすめる。


「…………?」


 ふとした違和感。

 私は背後を振り返り、周囲を見回した。


 誰も、いない。

 もう巫女だって、すでに分かれ道の先をかなり歩いていったあとだろう。

 夕闇に包み込まれ始めた歩道には、私以外誰の姿も見えなかった。


 気のせい……か。

 なんとなく、視線を感じたような気がしたんだけど……。

 そんな思いを、懸命に振り払う。


 まったく……。巫女が変なことを言うから、神経過敏になってるみたい。

 かなり薄暗くなり始めている寂れた住宅街を、私は足早に駆け抜けていった。


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