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アップルティー

作者: 本。

微笑んだ物語程、悲しみえをはらんでいる。そうおっしゃった作家さんがいます。そんなお話を目指しました。

行方不明だったファイルから発掘第一弾です。

 甘いリンゴに甘い砂糖。それって、最強のコンビだと思いません?




 何処かにある海の近くに、小ぢんまりした可愛らしい家がありました。


 そこには、1人の少女が住んでいました。


「さあ、今日も張り切って過ごしましょう!」


 これは、全てが生きている世界の、小さくて大きな物語―――――。




 少女の名前はミア。この《全てが生きている世界》の、人間の女の子の住人です。


 ミアと一緒に住んでいるのは、リンゴのレンと、角砂糖のマト。レンは女の子で、マトは男の子です。


 レンもマトも非常に優れた種族だったので、話すことはもちろん、歩くことも、物を持つことも、食事をすることも出来ました。もちろん、ミアが住んでいる家も、家にいる家具なども、皆生きてはいるのですが、話せる程の知能を持っているのは、ミアとレンとマトを除くと、家であるルアだけでした。


「見て、レン。今日はとっても良い天気よ」


「ええ、そうね、ミア。今日はとても良いピクニック日和だわ」


「それを言うのは今日で35回目だよ。春になってからずっと言ってるじゃないか。今日、ピクニックに行ったら、当分の間は騒がない約束だからね。覚えてる?」


 人間の女の子、ミアと、リンゴのレンと、角砂糖のマトは、とっても仲良しです。どうやら今日は皆でピクニックに行くようです。


「ええ、ええ、覚えているわ。だから言ったんじゃない。ねえ、ミア」


「ええ、そうね。レン」


「全く…。じゃあ、そろそろ行くよ!ルア、行ってくる」


 マトがこの家であるルアに声をかけました。


「はーい。羨ましいわ、ピクニックなんて。楽しんで来てね!」


「ええ、ありがとう、ルア」


「綺麗な貝殻、拾ってくるわね」


 ミアとレンがルアにそう返します。


「「「行って来ます」」」


 ミアとレンとマトの声とが重なりました。


「行ってらっしゃい」


 ルアが応えました。




 ミアとレンとマトが暮らしている、ルアから、大分離れた場所。そこにもまた、海が広がっていました。ただ、ルアの近くにある海より、美しい色をしていました。


 どこまでも伸びる透明な美しい青に、ほんの少しのきらめく緑。それはまるで幻想の様で、そしてまたどこまでも現実感のある色でした。


「今日もまたこの海は美しいのね」


 ミアが呟きました。ため息を零す様に、自然に。そうすることがまるで、当然のことの様に。

「ええ、本当に。いつ来ても、この海は美しくあるわ」


 レンがそれに応えます。


「まあ、別に…まあまあかな」


 安らかな顔をして、マトが言いました。


「またまた。マトは本当に素直じゃ無いわね」


 レンがマトをからかう様に言いました。


「なっ…別に、そんなこと、無い」


「マトは、自分が思ってるのと反対のことを言う時、ちょっと声が上ずるから直ぐに分かるのよ」


 ミアが、口元に手を当ててくすくすと笑いました。


 これには流石のマトも何も言えません。真っ赤になって口をつぐみます。


「さあ、お昼にしましょう」


 ミアが優しく綺麗に微笑みました。




 ミアとマトとレンは、自分達が敷いた真っ白いシートの上に座って、お弁当を広げていました。


 桃色の可愛らしいお弁当箱と、薄紫色のプラスチック製のお皿が、白と青と緑だけのその場所から少し浮いていました。


「いただきます」


 ミアが嬉しそうに言います。


「いただきます」


 レンとマトも、少しだけ悲しそうな顔をして言いました。


 お弁当の中身は、アップルパイやリンゴのタルト、水筒の中身はアップルティーです。とにかく『リンゴ』と『砂糖』をたっぷり使った食べ物ばかりなのです。


 お弁当を作ったのはミアでした。これだけ見れば、ミアがレンやマトに意地悪をしている様に見えますが、そうではないのです。


 レンはリンゴで、マトは角砂糖です。ですから、何であっても食べられることは食べられるのですが、一番栄養をとれるのは、自分と同じ種類のものを食べることなのです。なので、ミアは自分が食事当番の時は、なるべくリンゴと砂糖をたくさん使った料理を作っているのです。それがミアの優しさでありました。


「甘くて、美味しいわ。私、アップルパイ大好きなの。ごめんなさい、もう飽きてしまった?」


 ミアが言いました。何気ない様で、残酷な様で、何処までも優しい言葉でした。


「いいえ、大丈夫よ、ミア」


「ああ、ミアは料理が上手いからね」


 レンとマトが言いました。静かだけれど、愛おしそうな声でした。


「そう、良かったわ…。でも私、アップルティーが一番好きなの。甘くて、酸っぱくて…大好き」


 ミアがカップを手に、胸をきゅっと掴まれるような、甘い声で言いました。


「ええ、私もアップルティーは好きよ。何だか、ほっとするの」


 レンが言いました。


「僕も、アップルティーは好きだよ。何だか、甘さが、砂糖だけじゃなくて、リンゴだけじゃなくて、…何とも言えない、アップルティーの甘さなんだ」


 マトが呟く様に言いました。


「ふふふ」


 ミアが笑いながら、アップルティーの入ったカップを手に、海の方へと歩いて行きます。いつの間にか裸足になっていました。


「レン、マト、大好きよ。ずっと私と一緒にいてね」


 レンとマトの方を真っ直ぐに見ながら、ミアが言いました。そのまま後ろへと、ぽちゃ、ぽちゃと音を立てて一歩一歩下がって行きます。


「ミア、前を見ないと―――――」


 危ないよ、とマトが続けようとした時、


「きゃあっ」


 ミアが小さく悲鳴を上げて、後ろの方へすってんころりんと転びました。


「「ミアッ」」


 レンとマトの声が重なり、ミアの元へと駆け出します。


「ミア、大丈夫?」


 レンがミアの隣まで泳いで来ると、尋ねました。


「だっ大丈夫…」


「全く、心配かけないでよね」


 マトが呆れた様に言いました。


「ごめんなさい…でも、ほら!見て、空」


 レンとマトが空を振り仰ぎます。


 風が、さらさら。雲が、ふわふわ。


「気持ち良いね」


 ミアとレンとマトは、海にぷかぷかと浮き沈みしながら、空を見て、瞳を閉じました。


「あっ」


 ミアのカップは何処かに無くなって、代わりに海全体がアップルティーになっていました。

 甘い甘い、アップルティーに。


「嬉しいね、レン」


「ええ、それに、美味しいわ」


 ここは《全てが生きている世界》ですから、もちろん海も生きていて、それでミアとレンとマトは、いつもこの海のことを美しいと言っていましたので、海は常々お礼をしたいと思っていました。


「ありがとう、海さん」


 ミアがお礼を言うと、ほんの少しアップルティーの海が桃色になりました。


「ねえ、何だか幸せね」


「ええ」


「ああ」


 ぷかぷか、ぷかぷか。女の子と、リンゴと、角砂糖が、アップルティーの海で浮き沈みしていました。空を見ながら、実に幸せそうな顔をして―――――。




 ―――――甘いリンゴに、甘い砂糖。それって、最強のコンビだと思いません?

           ねえ、だから―――アップルティーって、凄いよね?―――――

マトは溶けません。優れた角砂糖なので。

2年ほど前に授業中、リンゴ、海、砂糖の三題で書いたお話。色々酷いですが、まあ、見逃して頂けるとありがたいです。

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