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魔王城 書記録 ~決まらなかったことを記します~  作者: 叶詩


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1/4

書記は、内心が静かに荒れ始めていることを記録しない

会議には、

結論が出るものと、出ないものがある。


そして魔王城では、

出ない会議のほうが、圧倒的に多い。


決まらなかったことは、

なかったことにはならない。

ただ、誰にも言われず、

誰にも感謝されず、

記録だけが残る。


それを書くのが、書記の仕事だ。


本来なら、

感情も、意見も、声も必要ない。

必要なのは、正確さと沈黙だけ。


――だが。


これは、

書記がまだ冷静だと思っていた日の、

最初の記録である。

 書記の一日は、結論から始まらない。


 始まらないというより、

 そもそも来ない。


 この城の会議では、

 結論というものが、

 だいたい途中で行方不明になるからだ。


 書記は机に向かい、羊皮紙を広げる。

 端を揃え、インク壺を開け、ペン先を確かめる。


 この作業は毎日同じだ。

 会議の内容より安定している。


(……今日もか)


 思わず、そう思う。

 声には出していない。

 出していないが、かなり思っている。


 魔王城の会議は活発だ。

 議題は多い。

 意見も多い。

 無駄に真剣だ。


 それなのに――


 結論だけが、毎回いない。


 何なんだ。

 途中退席か。

 欠席連絡くらい寄こしてほしい。


 書記は会議室の扉を見る。


 重厚な扉の向こうでは、

 きっと今も話し合いが続いている。


 魔王がいて、

 幹部がいて、

 全員が「重要だ」と思っている顔をしている。


 ……はずだ。


 聞こえてくるのは、沈黙だけだった。


(あ、これ長いやつだ)


 長い会議には兆候がある。

 静か。

 異様に静か。

 誰も何も決めていない時ほど、静かだ。


(どうせまた「様子を見よう」だろ)

(何の様子だ)

(誰の様子だ)

(世界か? 世界なのか?)


 書記はペンを取る。


『本日の会議において、議題は提示されたが、結論には至らなかった』


 ――出た。

 またこれだ。


 最近、あまりにも書きすぎて、

 手が勝手に動く。


(この一文、魔王城公式スタンプにした方がいいのでは?)


 以前は、こんなことはなかった。


 勇者が来れば対策を決め、

 魔物が増えれば指示を出し、

 世界は「管理」されていた。


 記録も短かった。

 三行。

 多くて五行。


 今は違う。


 魔王は決めない。

 会議は終わらない。

 結論は先送り。


 先送り先? 知らない。


 その結果、

 決まらなかったことだけが、

 書記の前に積み上がっていく。


(これ、仕事増えてるよな?)

(絶対増えてるよな?)

(誰も言わないけど)


 書記は積み上がった記録を見下ろす。


 解決した問題は、ほとんどない。

 だが、消えた問題もない。


 全部そのままだ。


(世界、保留箱に突っ込まれてない?)


 一瞬、

 本当に一瞬だけ、

 口が開きそうになる。


 だが書記は、

 ぎりぎりで踏みとどまる。


 言わない。

 言えない。

 言ったら終わる。


 書記は新しい紙を重ね、日付を書く。


 今日もまた、結論は出なかった。


 だからこそ、

 書くことだけはやめない。


 誰も決めなかったこと。

 決めきれなかったこと。

 決めないと決めたこと。


 全部、ここに残す。


 それが正しいかどうかは、

 正直、もう分からない。


(……いや、分からないけど)

(書かないよりは、マシだ)


 書記はペンを走らせる。


 ――まだこれは、

 声に出す段階じゃない。


 だが、

 その日が近いことだけは、

 はっきりと分かっていた。

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