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エピローグ

退院の日がやってきた。

病院の玄関の自動ドアが開いて、外の光が差し込んむ。

視界全体に広がる陽射しがまぶしくて、思わず目を細める。


「これを使って」

母が日傘を差し出す。

「しばらくは直射日光を避けるようにって、先生がおっしゃったから」


クリーム色のそれを受け取ると、自然と妖精たちの姿が頭に浮かんだ。

小さな罪悪感を抱きながら、傘を開く。


「今夜は何が食べたい? つぐみの好きなものを作るから」

母が嬉しそうに聞いた。

「何でもいい。お母さんと一緒に食べられるなら」

母の顔には、心からの笑顔があった。


病院を出ると、街の音が聞こえてきた。

車のエンジン音、人々の話し声、鳥のさえずり。

どれも以前より鮮明に聞こえる気がした。


横断歩道で信号待ちをしていると、青信号の電子音が鳴った。

この心臓は息切れすることなく、歩みを続けさせてくれる。

十歳の男の子の心臓。


「お母さん」

「なに?」

「私、生きてるよ」

「当たり前じゃない」


空を見上げる。


この世界は残酷で不条理だ。

誰かの幸せが、誰かの不幸の上に成り立つこともある。

善意が時として誰かを傷つけ、偶然が運命を決める。


妖精たちは死に、十歳の男の子は事故で亡くなった。

私はその上に生きている。


それでも――



母が幸せそうに笑ってくれるなら、それでいい。




利己的で、身勝手。

でも私にとって、母の笑顔が何よりも大切だった。



彼らの分も、精一杯生きていこう。



この世の全ての清濁を包み込む空は、今日も青かった。



私は感謝と謝罪を抱きながら、その下を歩いていった。


(完)

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