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異世界恋愛短編

恋する乙女のような婚約者様に断罪を。

作者: ありしあ

勢いのまま練習シリーズ。





「やあ、フェリス! 僕はこれから、男友達と食事に行ってくるよ!」

「分かりました。いってらっしゃいませ」



 ――本日も晴天のエルタ王国にて。

 私の婚約者こと、ティロー王子は満面の笑みで城から出て行った。最近では一緒に過ごしていても、そうやって気ままに外出されることが多い。何か外で楽しい遊びでも見つけたのか、という生易しい想像はもちろんなかった。だって私は、彼が外で女性と逢引きしていることを知っている。


 どうして知っているのか。

 どこでそのような情報を手に入れたのか。

 もしかして探偵でも雇ったのか、というとそんなこともなかった。


 何故なら、ティロー王子が自ら白状しているからです。

 もっとも彼にその自覚はなく、こうして二人でいる時も上の空でいるだけ。ただ上の空になっている際に、本人は無意識のうちに口にしているのです。


『あぁ、愛しのアリス』


 ――誰ですか、その方。

 最初にそれを聞いた時から、私は彼の漏らす言葉をメモし始めた。

 先日のお茶会はとても楽しかったとか、一緒に宝石店にエンゲージリングの品定めに行った時のアリスは子供のようだったとか。まぁ、黙って聞いていれば勝手に出てくる出てくる。その眼差しはさながら、恋する乙女のようなものに違いなかった。

 それにしても、私という婚約者がいながらエンゲージリング見に行くな。

 そんな感じで私は日々の記録として、もう何枚も証拠を残していた。


『アリス。キミの青の瞳はまるでサファイヤのようで、いまにも吸い込まれてしまいそうだよ。あぁ、早く明日がこないだろうか。その小鳥の囁くような可憐な声を聞きたいよ』


 ――これ、王子の日記です。

 目の前で何かを書き留め始めたから、何かと思って覗いてみればこんな感じ。頼むから婚約者が目の前にいるのに、浮気相手のことを考えてポエムを綴るのはやめていただきたかった。しかも文面がふわふわしていることから分かるように、書いている際のティロー王子は鼻歌交じり。分かったから、そんな乙女らしさを前面に出さないでください。

 というかそんな口説き文句、私に行ってくれたことありましたっけ。

 なかったですよね。そんなわけで、これもまた証拠です。


 まったく、ここまできたら呆れを通り越して清々しくもある。

 ただ最近になって、彼の行動にも変化が起きていた。


 考えたくないことだけど、浮気も本気にならないなら、いっそ無視できる。

 だけど困ったことに、王子はいま父である国王陛下に何かを吹き込んでいるご様子だった。その内容をとある筋から仕入れたところ、どうにも私について噓八百を言いふらしている、とのこと。やれ暴力的だとか、やれ言葉遣いが悪いとか、やれ構ってくれないとか。

 最後のやつに至っては、貴方は子供ですか。

 今年で二十二になるというのに、自分が中心でないと駄目らしい。


 ただ、そんな変化があるからには、何かを企んでいるに違いなかった。

 私はそう考えて、重い腰を上げたのである。


 そうして調べてみると、出てくる出てくる証拠がわんさか。

 どうにもティロー王子は私を陥れ、悪役に仕立て上げてから婚約破棄を告げる腹積もりのようだった。たしかに私たちの婚約については、陛下と公爵である父の取り決め。しかし解消したいからといって、こちらに不利益は寄越さないでほしい限り。

 そんなわけでしたので、私は私で、いままで集めた証拠をまとめていた。


 そしてある日のこと。

 私とティロー王子は国王陛下、並びにお父様、その他多くの関係者が揃う場に呼び出された。その内容というのも、私が王子に強いてきた悪行を裁く、とかなんとか。

 いや、いったい何を言っているのか。

 私はどこか他人事のように、ティローの言葉を聞いていた。



「それでは、ティローの言葉に対してフェリス、言い分はあるか?」



 国王陛下が誰に対しても平等な方で、心の底から良かったと思う。

 私はその点だけ感謝しながら、一つ咳払い。そして、まずは張本人に登場願った。



「ここにお呼びしたい方がいますわ」

「ほう、その者の名は?」

「アリスさん、です」

「……へ?」



 そこに至ってようやく、ティロー王子は間の抜けた声を発する。

 それまでの余裕の表情はどこへやら。彼は顔面蒼白、視線が泳ぎ始めた。――などと、そんなこんなでアリスがその場に到着。噂通りに愛らしい少女で、ティロー王子を見つけると満面の笑みで手を振っていた。私はその様子に思わず吹き出しそうになりつつ、続ける。



「えー、アリスさん。貴方は先日、王子から指輪を受け取ったそうですね?」

「はい、いただきました! とってもきれいなんですよ!」



 そう訊ねると、証言だけではなく実物を懐から取り出すアリス嬢。



「それをお受け取りになる際に、ティロー王子からはなんと?」

「えぇ、それはもう! とても情熱的なプロポーズでした!」

「具体的に、教えていただけますか?」

「もちろんです!」



 そうして、公開される王子の告白のセリフ。



『僕の心はいままで、囚われの小鳥だった。それを解放してくれたのは、他でもないキミなんだよ、アリス。あぁ、僕はキミのためなら身分を捨てて、野に下ったって構わない。もしそれが叶うなら、このように人目を忍んで逢う必要もないというのに。アリス、キミを愛している』



 なんだこれ、想像の何倍も小恥ずかしい。

 私が思わず失笑すると、その音を聞いた王子の悲鳴が聞こえた。だが彼も、このまま終わるつもりはないらしい。聞き取りにくいほど震える声で、こう反論してくるのだった。



「しょ、しょしょ、証拠はあるの、かな……?」



 私はそれを聞いて、肩を竦める。

 そして一度、こう口にした。



「残念ながら、これについて裏付けはございません」

「や、やっぱりそうじゃないか! だったら――」

「ですが、証人ならいます」

「………………」



 ――が、あえて希望を持たせてから。

 私はその場に、件の宝石店の主人を召喚した。

 彼はにこにこと微笑みながら、二人が来店した際のことを語ってくれる。



「……国王陛下。ここで提出したい証拠が、山のようにあるのですが?」

「あぁ、構わないぞ」



 ここまできたら、もう私のメモですら証拠になるだろう。

 そう考えて、これまでのすべてを陛下に差し出した。ついでに、



「あ、それは僕の……!?」



 王子のしたためていたポエムも。

 管理が甘すぎたので、簡単に盗み出すことができた。

 本来なら私の偽造が疑われるのだが、いま彼が自分で認めてくれて助かる。



「いかがでしょう、陛下」

「…………うむ」



 陛下はすべてに冷めた目を通すと、一つ大きく頷いた。

 そして、ティロー王子の方を見て言う。



「儂は思うのだ。ここはティローの願いを叶えてやるべき、とな」

「……お父様!!」



 その言葉に、一瞬だけ周囲がざわつく。

 ティローも目を輝かせるが、しかしそれを制するように陛下は手を挙げた。



「……フェリスとの婚約は、破棄するとしよう」

「あぁ、お父様! やっぱり僕を信じてくれたんだね!?」

「そして、今この時を以てティローの王位継承権を剝奪するものとする」

「え…………?」



 国王陛下の宣言に、全員が思わず吹き出す。

 そういえば、先ほどのアリス嬢の証言にあったな、と。


『いますぐにでも、身分を捨てて野に下りたい』


 陛下はそれをしっかり叶えた。

 その上で、彼は息子だった人物に言うのだ。



「さぁ、これで貴様は自由だ。どこにでも行くといい」

「そ、そんな……」



 だがこんな状況の中で、歓喜の声を上げる人物がいる。

 それは、元婚約者様の浮気相手であるアリス嬢。


 彼女はティローに抱きついて、満面の笑みを浮かべて言うのだった。



「これで、ずっと一緒にいられますね!」――と。






 これでは断罪になっているか、分からない?




 でもこれはこれで、良いんじゃないかしら。

 私は魂が抜けたような王子と、嬉々としているアリス嬢を見て思うのだった。





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