第4章:罪の空間
廊下 ― 神谷蓮の罪:支配の崩壊
廊下は、無限に続いていた。
壁に絡みつく黒い蔦が脈打ち、天井から吊るされた“目”が神谷を見下ろしている。
彼は、命令を拒絶され続ける世界に閉じ込められていた。
「おまえは空気なんだよ」
「俺の許可なく喋るな」
「おまえがいない方が、クラスはうまくいく」
その言葉が、壁に刻まれ、彼の足元から這い上がる。
幻影の生徒たちが無言で彼を囲み、ただ“見ている” 。
神谷は叫ぶ。
だが、誰も助けない。
ここは、支配が崩れる空間。
そして、志乃の怒りが最初に形を持った場所。
体育館 ― 佐久間隼人の罪:暴力の逆転
体育館は、処刑場と化していた。
天井から吊るされた縄の先には、佐久間がぶら下がっていた。
彼の腕は異形化し、拳を振るうたびに、自分自身が裂けていく。
観客席には誰もいない。
だが、空席のすべてに“目”が浮かんでいた。
それは、暴力を見ていた者たちの沈黙の証。
「なんでだよ……俺は……強かったんだ……。 」
その叫びは、体育館の壁に吸い込まれ、誰にも届かない。
志乃は、体育館の隅に立っていた。
無言で、ただ、見ていた。
鏡張りの教室 ― 三枝美羽の罪:偽善の崩壊
教室は、すべてが鏡だった。
床も壁も天井も、無数の“自分”が美羽を取り囲んでいた。
だが、その顔は、どれも違っていた。
SNSで笑顔を振りまく彼女。
陰で志乃を「気持ち悪い」と吐き捨てる彼女。
教師の前で「いじめなんてありません」と言い切る彼女。
「やめて……こんなの、私じゃない…… 。」
鏡の奥から、無数の“いいね”の通知音が鳴り響く。
誰も彼女を見ていない。
誰も、彼女の“本当”を知らない。
鏡が割れ、破片が足元に散らばる。
その中に映るのは、誰にも見せたことのない“本当の顔”
職員室 ― 藤堂由紀の罪:沈黙の罰
職員室は、告解室となっていた。
壁には、無数の“言葉”が浮かび上がっていた。
「見て見ぬふりをした」
「証拠がなかった」
「問題を起こしたくなかった」
「彼は、ただの陰キャだったから」
藤堂は、口を縫われていた。
声を出すことはできない。
代わりに、彼の“心の声”が、壁に浮かび続けていた。
机の上には、志乃の成績表。
「問題なし。特記事項なし。」
志乃は、職員室の入り口に立っていた。
その瞳は、赦しを持たない。
そして、教師の沈黙に、終止符を打つ者の瞳だった。