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第1章:穢れた教室
教室は、光に満ちていた。
だがその光は、志乃にとっては毒だった。
「おい、またアイツ来てるよ。マジで空気読めよな。」
「陰気くせぇ。存在が迷惑。」
「先生もさ、あんなの放っといていいの?」
笑い声。嘲り。無視。
志乃は、そこに“いる”だけで、罪だった。
彼の机には、今日も汚物が置かれていた。
誰がやったかは分かっている。
だが、証拠はない。
教師は見て見ぬふり。
クラスメイトは沈黙。
この教室は、聖なる場所ではない。
それは、穢れた祭壇だった。
志乃は、机の上のそれを見つめながら、心の奥底で何かが蠢くのを感じていた。
それは、昨日よりも大きく、今日よりも深く、明日にはもう戻れないほどに育っていた。
「……もう、いいよ。」
その言葉は、誰にも聞こえなかった。
だが、彼の中の“声”は、確かにそれに応えた。
「『ワタシ』はニーズヘッグ。
怒りに燃えて蹲る者。
おまえの痛みは、ワタシの糧。
おまえの憎しみは、ワタシの翼。」
志乃の瞳が、黒く染まった。