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プロローグ:咆哮の胎動
みんな、神様に銀貨を送ってでも、天国へのコネが欲しいのさ。
隠している左手を見なくて済むようにね。
教室の隅。
誰にも見られない場所で、志乃は静かに笑った。
その笑みは、喜びでも、皮肉でもない。
ただ、壊れた機械が最後に漏らすノイズのような、無意味な表情だった。
彼の中で、何かが目覚めた。
それは怒りでも、憎しみでもない。
もっと深く、もっと古く、もっと禍々しいもの。
名を持たぬそれは、彼の心臓を喰らい、脳髄を這い、骨の髄まで染み渡っていく。
「おまえが俺の中の“聖人”を穢し、
“祈り”を辱め、殺したんだ。」
誰の声かは分からない。
だが、確かにそれは、志乃の中にあった“何か”の声だった。
「だから、『怒りの荊冠』を首に掛けるしかなかったんだ。」
その瞬間、彼の瞳は人間のそれではなくなった。
黒い蛇がとぐろを巻くように、瞳孔が歪み、世界が反転する。
「『ワタシ』はニーズヘッグ。
怒りに燃えて蹲る者。」
この世界に、復讐の咆哮が響き渡る。