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【9話】向き合う二人


 その日の夕食。


「……グ、グラディオ様」


 食事の手をとめたリリアンが、震えた声を上げた。

 視線ははす向かいのグラディオへ向いている。


「……お前から話しかけられたのはこれが初めてだな」

 

 グラディオは両眼を見開き、まばたきをした。

 驚きと喜びが混じっているかのような、そんな複雑な表情をしている。

 

「え……えっと、その」


 リリアンの視線はふらふらとさまよっていておぼつかない。

 表情は過去一番に強張っている。

 

 リリアンはきっと、グラディオの仲を縮めたくて声をかけている。

 でも、言葉にできていない。あと一歩というところで、踏みとどまってしまっている。

 

(頑張るのよリリアン!)


 フェリシアはテーブルの下で、リリアンの手をギュッと握った。


 フェリシアの役目は、リリアンが勇気を出せるようにサポートすること。

 今がそのときだった。


「ありがとうございます」

 

 リリアンが小さく呟いた。

 揺れていた視線がまっすぐになる。


「お話があるんです。よろしいでしょうか?」

「……わかった。夕食のあと、ゲストルームで話そう」

「わかりました」


 それから、食事は再開。

 

 しかし、会話はない。

 緊張した空気が食堂に張りつめていた。



 夕食後。

 

 リリアンとグラディオは、ゲストルームで向き合っていた。

 二人とも立ったまま、そこそこの距離を開けてじっとお互いを見つめている。

 

 フェリシアはすぐ近くで、リリアンを見守っていた。

 

 緊張した空気の中、リリアンが、あの、と声を上げる。

 

「私、グラディオ様に謝らなくてはいけないことがあるんです。……これまでずっと失礼な態度を取っていてごめんなさい! 私、グラディオ様とお父様を重ねていたんです……」

「…………それはどういう意味だ」

 

 両親から虐待を受けていたことを、リリアンが話していく。

 

 それは彼女にとって、辛くて苦しい記憶。

 途中から涙を流していた。

 

 グラディオは大きな衝撃を受けていた。

 兄夫婦が娘にしてきたことを、まったく知らなかったみたいだ。


「グラディオ様は私に優しくしてくれていたのに、本当に……本当にごめんなさい!!」

「いや、謝るのは俺の方だ。兄の行いは到底許されないこと。お前が俺を怖がるのも当然だ」


 クラディオは拳を強く握る。

 顔に浮かぶのは大きな怒りと、そして深い後悔だった。

 

 グラディオが床に膝をついて、膝立ちになった。

 リリアンをまっすぐに見つめる。

 

「俺を好きなだけ殴れ」


 その行動は、あまりにも予想外。

 フェリシアもリリアンも、驚きの声を上げる。


「こんなことをしても、お前が心に受けた傷は癒えないだろう。だが今の俺にできることは、これくらいしか思いつかない」


 固まっていたリリアンだったが、やがてゆっくりと足を動かし始めた。

 

 グラディオとの距離を詰めていく。

 その拳は硬く握られていた。

 

(本気で殴るつもりなの!?)


 フェリシアがあたふたしている間にも、二人の距離はどんどん縮まっていく。

 

「それでいい」


 すぐ手前までやってきたリリアンに、グラディオはフッと笑った。

 瞳を閉じる。

 

 唇をぎゅっと結んだリリアンが、両腕を上げた。

 

 でもそれは、殴るためのものではなかった。

 リリアンはその両腕で、グラディオをギュッと抱きしめた。

 

「…………なぜだ」


 押し出すような声とともに、グラディオは瞳を開いた。

 

「殴られるのも殴るのも嫌です! 私はただ、優しくしてくれたグラディオ様と仲良くなりたい……それだけなんです!」

「……すまない。俺はお前のことをなにもわかっていなかった」


 グラディオは小さな体を強く抱きしめ返した。

 赤い瞳からは涙がこぼれている。

 

「俺もお前と仲良くなりたい……いいだろうか?」

「もちろんです!」

 

 互いに抱き合って泣いている二人の口元には、優しい笑みが浮かんでいた。

 

(いいものを見られたわ)

 

 そこにあるのは確かな家族の絆。

 

 フェリシアは、今は亡き母のことを思い出す。

 二人を温かく見守っている彼女もまた、涙を流していた。

読んでいただきありがとうございます!


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