【6話】初日を終えて
リリアンが泣きやんでからしばらく。
フェリシアは令嬢教育を再開した。
教材を読み上げて解説していく。
(今回は集中しているわね)
リリアンは集中して話を聞いていた。
もうフェリシアの顔色を伺うことはしていない。
話をしっかりと聞きながら、ペンを握った手を一生懸命に動かしている。
(これはテストの点も期待できそうね)
期待に胸が膨らむ。
そしてそれは、思った通りとなった。
解説後に確認のテストをしてみると、なんとリリアンは満点を取った。
さきほどの点数が低かったのは、フェリシアを怖がるあまり集中できていなかったからだ。
集中さえすれば、リリアンはこうして満点を取れる。
本来の彼女は、教えたことをちゃんと理解してくれる頭がものすごくいい子だった。
「よくやったわね! 素晴らしいわ!」
「ありがとうございます!」
リリアンの頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
心からのその笑顔は、もう最高にかわいい。
フェリシアの胸はキュンキュンしていた。
その日の夜。
食堂に集まったフェリシア、グラディオ、リリアンは、朝と同じ配置で夕食をとっていた。
「教育係としての初日、ご苦労だった。やってみてなにか問題はあったか? もしあるなら言ってくれ」
対面のグラディオが心配そうに聞いてきた。
気を遣ってくれている。
でもフェリシアには、なんの問題もなかった。
「大丈夫です。まったく問題ありません。リリアンは教えたことをちゃんと理解してくれるので、私の方も勉強を教えていて楽しいです!」
「よかった。それを聞けて安心した。これからもその調子で頼む」
安堵したグラディオは、続けてリリアンの方を向いた。
「リリアンの方はどうだ?」
「は、はいっ!」
声をかけられたリリアンの反応は、朝とまったく同じ。
緊張たっぷりの、かしこまった声を上げた。
彼女はまだ、グラディオのことを怖がっている。
「大丈夫よリリアン」
小さな声で呟いたフェリシアは、テーブルの下でリリアンの手を握った。
頑張って、と心の中でエールを送る。
リリアンの表情が少しだけ和らぐ。
フェリシアの瞳をまっすぐに見つめて、それからグラディオへ顔を向けた。
「フェリシア様はとっても優しい方です。私も楽しくお勉強できています。フェリシア様を私の教育係にしてくれて、ありがとうございました」
リリアンは笑うが、笑顔がぎこちない。
頭を撫でたときにフェリシアに見せてくれたあの笑顔とはほど遠く、似ても似つかなかった。
きっとあれが本来のリリアンだ。
でもグラディオの前では、素の自分を出せていない。委縮してしまっている。
(私への恐怖はなくなったからグラディオ様のことも平気になったかと思っていたけど、そうじゃないみたいね)
グラディオのことだけをこんなにも怖がっているのには、なにか特別な理由があるはずだ。