【30話】守るべきもの ※グラディオ視点
赤色の廃屋敷に着いた。
馬から降りたグラディオは、入り口の扉を開けてエントランスへ入る。
「約束通りひとりできてやったぞ! そこにいるんだろボルク! 今すぐ出てこい!!」
薄暗いエントランスに、怒りに満ちた大きな声が響いた。
――グラディオ様!
奥の方から聞こえてきたのは、グラディオの名前を呼ぶ二人分の声。
フェリシアとリリアンのものだ。
そこへ目を向ける。
二人は大きな柱にロープで縛られていた。
身動きはできないみたいだが、外傷はなさそうだ。
「よかった」
二人が無事だったことに、ひとまず胸を撫で下ろす。
「よお、騎士団長様。クリムゾンドラゴンを倒したんだってな。おめでとう。すごい戦果じゃねぇか」
二人のいる方向から姿を現したボルクが、ゆっくりと歩いてきた。
口元は、これ以上にないくらい楽しそうに上がっている。
「お前に言われた通り一人できたぞ。衛兵にも通報していない。二人を早く返してもらおう」
「まだだ。もう一つの約束も果たしてもらわないとな!」
ボルクが剣を引き抜いた。
グラディオへ切っ先を向ける。
「今日は逃げやしないだろ?」
「いいだろう……今の俺には貴様と戦う理由がある!」
グラディオも剣を引き抜いた。
雰囲気は怒りに満ちあふれている。
二人は互いに剣を構えて、向き合う体勢となった。
「このときを俺がどれだけ待ち望んでいたことか! 三年前のあの日から、ずっとお前をぶちのめしたくてしょうがなかったんだ! ようやくだ……ようやく俺の願いがかなう!!」
「そんなくだらないことのために、フェリシアとリリアンを誘拐したのか!」
「なんとでも言え! 俺にとってはそれこそがなによりも大事なことだからな! さぁ、いくぜ!」
踏み込だボルクが、グラディオへ剣を振り下ろした。
ボルクの剣の腕は、三年前から変わっていない。
それどころか、当時よりも上がっている。
(だが、それがなんだというんだ! 俺は負けるわけにはいかない!)
大事な家族を守るためにグラディオは戦っている。
くだらない理由で戦っているボルクとは、この決闘にかける重さが違う。
グラディオが剣を繰り出す。
ボルクの剣を弾き返した。
「一発返したくらいでいい気になってんじゃねぇぜ! まだまだあっ!」
ボルクが連撃を繰り出してきた。
目にもとまらぬ速さで剣を振るってくる。
しかしグラディオは、まったく動じない。
剣を振るい、すべての攻撃を弾き返した。
「どういうことだよ……!」
ボルクの顔に余裕がなくなった。
攻撃を防がれたことで焦っている。
「俺の方が実力は上のはず……。それなのに、どうして当たらねぇんだよ!」
「観念しろ。お前では俺に勝てない」
「ふざけんな!!」
ボルクが怒声を上げた。
突進するようにして、斬りかかってくる。
グラディオはそれをひらりと躱す。
続けてボルクのみぞおちへ、剣の柄を強く押し込んだ。
「グハッ……」
苦悶の声を上げたボルクが、床にうずくまった。
みぞおちへの一撃が、決闘を終わらせた。
「俺には守るべきものがある。くだらない理由で戦う貴様に負けはしない」
「ク、クソがっ……!」
その言葉を呟いたのを最後に、ボルクは意識を失った。




