表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/31

【27話】満たされない日々


 レシュアル王国の王都――ベルノーにある冒険者ギルド。

 そこの酒場では、朝から短く刈られた赤髪の男が浴びるように酒を飲んでいた。

 

 男の名はボルク・ウルバーン。

 四十歳の冒険者だ。

 

 ボルクは屈強な体と、卓越した剣の腕前を持っている。

 困難な依頼をいくつもこなし、多額の報酬金を稼いでいた。


「クソッ……」


 しかしボルクは、満たされない日々を送っている。

 三年前のあの日からずっとだ。




 当時のボルクは、王国騎士団の副団長。

 比類なき剣の腕前で、団員たちからも一目置かれる存在だった。

 

 しかし同時に、問題視もされていた。

 度を超えた激しいしごきを、団員にしていたからだ。

 

 周囲からその行いを何度も注意されたが、ボルクは聞く耳を持たなかった。

 団員へのしごきは彼にとって、必要なことだったからだ。

 

 真面目に仕事だけしているなんてつまらない。

 たまにはガス抜きをしないと、やってられなかった。

 

 だからいくら注意されようとも、やめようとしなかった。

 

 そんなある日。

 

「ボルク。貴様を騎士団から除隊する」


 言い渡してきたのは、騎士団長のグラディオ・レクシオン。

 凍てつくような冷たい眼を、ボルクへ向けいてる。

 

「なんでだよ?」

「わからないのか? 団員に対する貴様の行いを、俺は散々注意してきた。だか貴様は一向に改善しようとしなかった。であれば、もうこうするしかないだろう」

 

(生意気な野郎だぜ!)


 グラディオは年下のくせに、いつも偉そうに注意してきた。

 

 ボルクはそれが気に入らなかった。いつも腹を立てていた。

 

 そしてグラディオもそうだ。

 ボルクのことを嫌っている。態度でわかる。

 

 今回の除隊はおそらく、団員たちへのしごきが原因ではない。

 グラディオは単純に、ボルクが気に入らなかった。だからそれっぽい理由をつけて、騎士団から追い出した。

 

(そうだ……そうに決まってる!)


 グラディオへの怒りがふつふつと湧いてくる。

 

「わかったよ。こんなクソつまらねぇ仕事なんてやめてやるぜ」

 

 騎士団の仕事に未練はない。

 ボルクほどの剣の腕前があれば、他にいくらでも仕事はある。除隊されるのはどうでもよかった。

 

「だが、条件がある。俺と決闘しろ」

 

 生意気なグラディオ。

 ヤツをそのままにしておくことはできない。


(決闘で叩きのめして、俺の方が上だと証明してやる! ヤツのプライドを粉々に砕いてやるぜ!)

 

「断る。貴様と戦う理由がない」


 グラディオはボルクを一瞥。

 背を向けて去っていった。

 

(かっこつけやがって! 噓ついてんじゃねぇよ!)


 グラディオの実力は高いが、ボルクにはかなわない。

 決闘の結果は、やる前から目に見えている。


 グラディオもそれをわかっている。だから逃げた。

 決闘で負けるのが怖いからだ。



 騎士団を去ってからも、ボルクは何度もグラディオの元を訪れた。

 決闘を申し込んで打ち負かすためだ。

 

 しかしグラディオは、一度も決闘を受けなかった。

 毎回、貴様と戦う理由がない、とそればかり。ずっと逃げ続けている。




 ボルクは胸の内には、三年間のうっぷんがたまりにたまっている。

 いくら困難な依頼をこなして多額の金を稼いだところで、それが解消されることはない。

 

 グラディオを決闘で叩きのめすことでしか、ボルクはもう満たされないのだ。

 

「ふざけんな!」


 当時のことを思い出すと、今でも腹が立つ。

 酒を一気に飲み干したボルクは、空になったジョッキを机に叩きつけた。

 

「おい、知ってるか? ゼスト大平原にクリムゾンドラゴンが現れたらしいぜ」

 

 それは、ただの偶然だった。

 近くのテーブルで酒を飲んでいた冒険者たちの会話が、ちょうどボルクの耳に入ってきた。

 

「マジかよ! てか、大丈夫なのか? クリムゾンドラゴンがもしここへきたら、俺たちみんなひとたまりもないぜ。全員死んじまうぞ」

「それなら心配ない。もう倒されている」

「え? 倒されたって……誰にだよ?」

「王国騎士団団長、グラディオ・レクシオンさ」


(グラディオだと!)


 席を立ったボルクは、会話をしていた冒険者のテーブルへ向かった。

 グラディオが倒した、と口にした冒険者へ顔をグッと近づける。


「それは本当の話か!」

「あぁ。知り合いの情報屋が言っていたからな。信頼できるぜ」

「いつだ!」

「……は?」

「ヤツがクリムゾンドラゴンを倒したのはいつのことだ!」


 困惑している冒険者の胸倉をガッと掴む。

 眉間にしわをよせ、強く睨みつける。

 

 冒険者はボルクの迫力に圧倒されていた。

 怖がりながら、たどたどしく口にする。

 

「五日……五日前って言ってた」

「五日か……これはいい!」


 ボルクはニヤリと笑う。


 王都からゼスト大平原までは、どんなに急いでも五日はかかる。

 グラディオが王都に帰ってくるのは、最短で今日の夕方。

 

 つまりそれまで、ヤツがレクシオン公爵邸に戻ることはない。

 

(夕方まで、まだ時間はたっぷりある。これはチャンスだ! ありがとうよ神様!)


 三年越しの雪辱を晴らすチャンスがついにきた。

 なんてツイているんだろうか。


「こうしちゃいられない! さっそくとりかからなきゃな!」


 冒険者の胸倉を乱暴に突き放したボルクは、冒険者ギルドを出ていく。

 その雰囲気は、すこぶるご機嫌。三年ぶりに浮かれた表情をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ