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【22話】口にできない気持ち


 グラディオの反応があまりにも迫真だったものだから、フェリシアはフフっと笑ってしまう。

 

「そんなにもおいしかったですか?」

「あぁ! これなら毎日食べたいくらいだ!」

「それでしたら、これからのランチは私が作りますよ。お昼に修練場へ持っていきますね」


 グラディオのランチは、いつも宅配方式。

 シェフが作ったものを、昼頃にメイドが持っていっている。

 

 シェフとメイドの役目を、これからはフェリシアがやろうとしていた。

 

 日中はリリアンの令嬢教育があるが、なにも一日中している訳ではない。合間には休憩時間がある。

 その時間を使えば、どちらの役目も無理なくこなせるだろう。


「そうしてもらえるのは嬉しいが……いいのか? 君の仕事は増えてしまうぞ」

「いいんです!」


 これはフェリシアがやりたいことだ。

 

 そうすれば、グラディオと日中にも会うことができる。

 彼と一緒にいる時間を、少しでも増やしたかった。


「あの!」


 リリアンが声を上げた。

 なにやら嬉しそうな顔をしている。

 

「少し向こうの方に、綺麗なお花を見つけたのです。見てきてもいいでしょうか? グラディオ様とフェリシア様は、ここにいてくださいね!!」


 最後の言葉を強調したように言うと、リリアンはシートから降りた。

 びゅーんと後方へ走っていってしまう。


「あんまり遠くへ行っちゃダメよ」


 背中越しに声をかけると、わかりました! 、と元気な声が返ってきた。

 

「君もすっかり母親だな。それもとびきり素晴らしいな」

「そう……ですかね。自分だとよくわからないです」


 リリアンとは仲良くできている。

 でも、母親としての役割をこなせているかというと、わからない。その自信はなかった。


「君はよくやってくれている。俺が保証しよう」


 グラディオがまっすぐに見つめてくる。


「ありがとうフェリシア。君と結婚してよかった」


 フェリシアの顔が真っ赤になる。

 心臓が飛び跳ねた。

 

 グラディオが好き――ミレアの一件で、フェリシアは自分の気持ちに気付いてしまった。

 

 でもこの結婚は、愛のない契約結婚だ。

 フェリシアがいくら好きだとしても、グラディオはそれに応えてくれない。

 一方通行で終わってしまう。

 

 それにそもそも、この気持ちを伝えることは許されない。

 二人の間に愛はない――嫁いだ初日、グラディオはそう言った。

 

 グラディオを好きになるのは契約違反だ。

 もしこの気持ちを口に出せば、今の関係が終わってしまうかもしれない。


 フェリシアは今、とても幸せだ。

 胸を張ってそう言える。

 

 この生活を手放すなんて、そんなのは絶対に嫌だ。


 だからこの熱い気持ちは、心にしまっておく。

 グラディオとリリアンとの幸せな暮らしをずっと続けていくためには、本心を口にしてはいけない。

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