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【21話】三人で湖へ


 フェリシア、グラディオ、リリアンの三人はレクシオン公爵家の食堂で、いつものように夕食を食べていた。

 

 ここへきたばかりのときは無言で食事をしていたが、近頃ではそれが変化。

 食事中も会話している。

 

 といっても、話すのはいつもフェリシアとリリアンのみ。

 グラディオは聞き役に徹していることがほとんどだった。


「三人で湖へ行かないか?」


(珍しいわね)


 だから、グラディオがそう言ってきたときは少しだけ驚いた。

 

「抱えていた大きな仕事が、先日やっと片付いてな。ちょうどいい機会だから出かけたいと思ったのだが、どうだろうか?」

「いいですね!」


 フェリシアは大賛成だった。

 

 三人で出かけるというのはこれが初めてだ。

 きっと思い出に残るような、素敵で楽しいピクニックになる。


「わーい!」


 リリアンは大喜び。

 嬉しさのあまりか、イスから立ち上がっている。

 

 フェリシアと同じく、大賛成のようだった。


「そうだ。せっかくなので、お昼は私が作りますね!」


 イスピラル子爵家にいた頃はよく、罰として食事を用意してもらえないことがあった。

 そういうときにフェリシアは自分で食事を作り、それを食べていた。

 

 その経験があるので、料理の腕にはそれなりの自信がある。


「私もお手伝いします!」

「ありがとうリリアン。一緒に頑張りましょうね!」

 

 リリアンが手伝ってくれるなら百人力だ。

 心強くてかわいい味方を手に入れたフェリシアは、弾んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 それから一週間後。

 

 レクシオン公爵家から馬車に揺られること、約一時間。

 三人は森の中にある湖へやってきた。


「素敵なところですね!」


 周囲の景色に、フェリシアは感嘆の声を上げた。


 深緑の木々がいっぱいに生い茂っていて、空気がおいしい。

 この三人以外には誰もいなく、聞こえるのは小鳥のさえずりだけだ。

 

 眼前に広がる広大な湖は水が透き通っていて、水底まで見通すことができる。

 水が綺麗な証拠だ。

 

「こんな素敵な場所、どのようにして知ったのですか?」


 隣にいるグラディオを見る。

 この場所を提案してくれたのは、他でもない彼だった。

 

「幼なじみが教えてくれたんだ」

「それは女の人ですか?」


 そんなことを間髪おかずに返してしまう。

 考えるより先に、思ったことが口から出てしまった。


(私ったらなんてことを!)


 フェリシアはてんやわんや。

 どうカバーしようかと必死になって考える。

 

「……いや、男だが」


 困惑した様子でグラディオは口にした。


「王国騎士団副団長のキーシェという人物だ」

「そ、そうなんですね」


(よかったわ……ってそうじゃいわよね!)


 グラディオは明らかに不審がっている。

 早く話を終わらせないとまずい。

 

「フェリシア。どうしてそんなことを気にする――」

「お昼! お昼にしましょう!」


 わざとらしく大きい声をあげたフェリシアは、両手を合わせてパンと鳴らした。

 強引にでも話題を変えようとする。

 

「リリアンもお腹空いたわよね?」

「はい! もうペコペコです!」


(ナイスアシストよリリアン!)


 百点満点の返事をしてくれたリリアンに、心の中で感謝を送る。


「私もそうなのよ! さ、グラディオ様。早くシートを敷きましょう!」

「……あ、あぁ。そうだな」


 ぎこちなくも頷いたグラディオは、地面にシートを敷き始めた。

 危ないところだったが、なんとかうまくごまかせたようだ。

 

 三人は敷かれたシートの上に乗った。

 

 フェリシアの手には、昼食が入ったバスケットが握られている。

 今朝、リリアンと一緒になって作ったものだ。

 

「開けますね!」

 

 フェリシアがバスケットのフタを開ける。

 様々な種類のサンドイッチが、そこにはいっぱいに詰まっていた。

 

 手を伸ばしたリリアンが、サンドイッチを手に取った。

 

「いただきます!」


 弾んだ声で挨拶してから、勢いよくかぶりついた。

 そうしてから、ギュッと瞳を閉じる。

 

「とってもおいしいです!」


 閉じていた瞳をパッと開けたリリアン。

 満面の笑みをしていた。

 

(かわいすぎて死んじゃいそうなんだけど!)

 

 この一連の動作の破壊力はとてつもない。

 意味不明なくらいにかわいい。かわいいの暴力だ。

 

 フェリシアのキュンキュン指数は、マックスに到達していた。


(あぁ……幸せだわ)

 

 サンドイッチを食べる前から、もうお腹いっぱいだった。


「俺も食べてもいいか?」

 

 かわいさに圧倒されるあまり意識が遠くの世界にいっていたフェリシアは、グラディオの声で我に返った。

 

 慌てて、どうぞどうぞ、とすすめる。

 

「こんなにも種類があると迷うな」

 

 グラディオは少し悩んだ末、ハムサンドを手に取った。

 上品に小さくかぶりつく。

 

「うまい!」


 カッと瞳を見開いたグラディオは、大きな声を上げる。

 それはお世辞ではない、本気の反応だった。

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