【15話】看病
リリアンの教育係になってから、一か月ほどが経った。
リリアンは令嬢教育にとても熱心に取り組んでいる。
授業を真面目に受けているのはもちろん、予習復習を欠かさない。
さらには、令嬢教育の週休日の日も一日中勉強をしている。
そんな頑張り屋さんのリリアンのことが、フェリシアは大好きだ。
でも最近は、少し心配もしている。
やりすぎているのではないかと思うのだ。
勉強をするのはいいことだが、あまり無理をすると体を壊してしまうかもしれない。
そろそろリリアンに勉強のしすぎはよくない、と言ってあげよう――そう思っていたとき。
フェリシアの心配は、現実のものとなってしまった。
リリアンの部屋。
イスに座っているフェリシアは、ベッドで寝ているリリアンの額に手をあてた。
「ひどい熱ね」
三時間ほど前。
令嬢教育をしている最中に、リリアンは突然倒れてしまった。
診てくれた医者によれば、軽い風邪だとか。
日々の睡眠不足による疲れが、それを引き起こした原因らしい。
医者の言葉を聞いたときに、フェリシアはすぐにピンときた。
原因は勉強だ、と。
頑張り屋さんのリリアンのことだ。
睡眠時間を削ってまで勉強をしていたのだろう。
「……あ、あれ?」
リリアンが目を覚ます。
第一声は、そんな疑問に満ちた声だった。
「おはようリリアン」
声をかけると、リリアンはつぶらな瞳で見上げてきた。
「……あの、どうして私はベッドにいるのでしょうか? たしかお勉強をしていたと思うのですが……」
「令嬢教育の途中で倒れてしまったのよ。リリアン、あなた毎日夜遅くまで勉強していたでしょう?」
「――!? ど、どうしてそのことを……」
リリアンがハッとする。
そんな顔も、当然のようにかわいい。
めちゃめちゃに甘やかしたくなるが、それは我慢。
教育係として、ここはしっかりと注意しなきゃいけない場面だ。
「しっかり寝なきゃダメでしょ」
「…………ごめんなさい」
リリアンはバツが悪そうな顔で謝ってきた。
「私、フェリシア様に褒められるのが大好きなんです」
小さく呟いたリリアンは、上目遣いでフェリシアを見つめた。
「令嬢教育でいい点を取ると、フェリシア様は褒めてくれます。だから私、いっぱい褒めてもらいたくて……それでつい」
「もう……リリアンったら」
なんてかわいらしい理由だろうか。
そんなことを言われたら、これ以上怒ることなんてできなくなってしまう。
リリアンの頭を優しく撫でる。
「今日はずっと一緒にいてあげる。その代わり、これからはしっかり寝ること。いいわね?」
「はい!」
元気に返事をしたリリアンは、楽しそうに笑う。
これまでで一番の笑顔だ。
「風邪をひいて嬉しいと思ったことはこれが初めてです! だってフェリシア様とずっと一緒にいられるんですから! 毎日でも風邪をひきたいくらいです!」
「リリアンったら……そんなこと言ったらだめよ」
「はーい……ふふふ」
笑みを浮かべたリリアンは、目をつぶった。
それからすぐに、すうすうと寝息を立て始める。
「フェリシア様……だいすき」
リリアンが寝言を言った。
口元はずっと嬉しそうに笑っている。
「私も大好きよ。おやすみ」
微笑んだフェリシアは、リリアンのおでこにキスをした。
翌日。
フェリシアがつきっきりで看病した甲斐あってか、リリアンの風邪は完治。
すっかり元気になっていた。
しかし。
「……うつっちゃったわね」
喉はイガイガ。
視界はクラクラ。
意識はフラフラ。
今度は、フェリシアが風邪をひいてしまった。




