【14話】白馬の王子様
挨拶回りがひと段落したあと、グラディオとは別行動になった。
「少し休憩しましょう」
慣れないことをたくさんしたせいか、疲れてしまった。
フェリシアは会場の隅で飲み物を飲む。
「ほう、あれがグラディオ様の妻か」「ずいぶんお若い方なのね」
休んでいるフェリシアに、貴族たちの視線が降り注ぐ。
まるで値踏みでもしているかのような彼らの口元には、いやらしい笑みが浮かんでいた。
「どんな手でグラディオ様に取り入ったのでしょうね」「そんなの決まっている! 色目を使ったんだ!」「確かに。そういうことしそうな顔してるもの……フフフ」
投げ枯れられる言葉は、根も葉もない誹謗中傷ばかり。
それらの言葉に、フェリシアは心を痛める。
でも、泣いてしまうほどでもない。
(大丈夫。これくらいなら耐えられるわ)
イスピラル子爵家にいた頃は、ミレアの嘘を信じた人間にさんざん心ないことを言われてきた。
こういうことを言われることには慣れている。
だからフェリシアは、耐えようと決めた。
パーティーが終わるまでの短い時間だ。辛抱できる。
それにもしここで口答えをすれば、レクシオン公爵家の評判が落ちるかもしれない。
それはしたくない。
フェリシアを下を向いた。
拳を握りながら耐える。
「おい、見てみろ! 下を向いたぞ!」「泣いちゃうのかしら? みっともないわね」
貴族たちの嘲笑がひどくなる。
(我慢……我慢しなきゃ!)
それでもフェリシアは耐える。
泣きそうになってしまうが、歯を食いしばって必死になって我慢をする。
「黙れ」
怒りに満ちた声が、会場に響いた。
それは、フェリシアの隣から聞こえたきたもの。
それは、グラディオの声だった。
フェリシアは顔を上げる。
グラディオは怒りに打ち震えていた。
眉間にしわを寄せ、フェリシアを嘲笑していた貴族を睨みつけている。
「彼女はレクシオン公爵夫人。彼女を侮辱することはつまり、レクシオン公爵家を侮辱していることと同じだ。二度とくだらない噂をするな……! それでももし続けるというのなら、レクシオン公爵家の総力をもって厳正な処罰を下す。覚悟しておくんだな……!」
フェリシアを嘲笑していた貴族たちは、グラディオの激しい怒りに圧倒されていた。
悲鳴を上げると、顔を真っ青にして逃げていった。
フェリシアはグラディオへ頭を下げる。
「ありがとうございます」
「当然だ」
君がこれ以上おとしめられるとレクシオン公爵家の品格に関わる――グラディオの言葉の続きは、たぶんこうだ。
つまり、フェリシアを助けることが目的ではなかった。
それでもフェリシアは今確かに、助けてもらった。
グラディオの目的がなんであれ、その事実は揺るがない。
泣きたくなるほど辛いピンチに現れて救ってくれた彼は、まさに白馬の王子様。
フェリシアは無意識にときめいていた。
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