【12話】私が気になるんです
「こちらなどいかがでしょうか?」
店員が選んだのは、深緑色のエンパイアドレス。
装飾は少なく落ち着いている。
スカートの丈が長く、エレガントなイメージを与える。
こういうシンプルなデザインは、フェリシアの好みだ。
さすがはプロ。素敵なチョイスをしてくれた。
「奥様の緑の瞳との相乗効果で、神秘的な印象を与えてくれますよ。いかがでしょうか?」
「とっても素敵なドレスです!」
店員のチョイスは完璧。文句のつけようがない。
フェリシアは声を弾ませた。
「気に入ったようだな。……では、こちらを購入させたもらおう」
「お買い上げありがとうございます。会計窓口までおこしください」
ドレスの支払いをするため、三人は会計窓口へ向かった。
店員がドレスの値段を口にする。
それはとんでもない金額だった。
ミレアでもこんな高価なドレスは持っていないだろう。
フェリシアはつい動揺してしまうが、グラディオはいっさい動じていない。
顔色一つ動かさず支払いをしてしまう。
(……さすがね)
高価なものでも、迷うことなくポンと買えてしまう。
グラディオのすごさを、フェリシアはあらためて実感した。
ドレスショップを出た二人は、街を歩ていく。
約束通り、グラディオが案内してくれることに。
まずは、噴水広場を見にいこうという話になった。
街へ初めてきたフェリシアにとって、目に映るものはどれも新鮮。
こうして街の様子を見ているだけも楽しい。
それなのに、フェリシアの表情は曇っていた。
その原因は、
「なにあの目……怖いんだけど」「ありゃ人殺しの目だな」「目を合わせるな。殺されるぞ」
街を出歩いている人々の声だ。
グラディオをチラチラと見て、ひそひそと心ない言葉を口にしてくる。
三白眼を恐れているのだ。
(なんてひどいことを……。グラディオ様はそんな人じゃないのに……)
嫌な気持ちになったフェリシアは、元気を無くしてしまう。
でも当の本人であるグラディオは、
「気にしなくていい。前にも言ったが、俺はこういうことを言われ慣れている。今さら傷つかない」
口元に笑みを浮かべていた。
でもそれは、諦めているかのような笑顔だった。
どうしようもないから受け入れるしかない、そんな風に思えた。
見ているだけでも辛い。
だからつい、どうにかしたい、なんて考えてしまう。
「そうだ!」
声を上げたフェリシアは、グラディオの手を取った。
「な、なんだ!」
「グラディオ様、私についてきてください!」
フェリシアは笑顔で、困惑しているグラディオを引っ張っていく。
その行き先は、すぐ近くにあったアクセサリーショップだった。
「こんなところにきて、いったいどうしたんだ?」
「探し物です」
「いったいなにを――」
「あった!」
グラディオの手を引いて、店内の一角へ歩いていく。
「これです!」
フェリシアが手に取ったのは、黒いサングラスだった。
「……これが君の探し物か?」
「はい! ちょっとここで待っていてくださいね!」
フェリシアは急いでサングラスを購入。
グラディオにかける。
「こうすれば三白眼が目立ちません。これでもう怖がる人はいませんよ!」
「探し物とは、俺のためのものだったのか。……しかし、なぜだ? なぜ俺のために……」
「グラディオ様はとっても優しい人です。それなのに外見だけで判断されて、誤解されてしまっている」
「だからそのことであれば、俺は気にしていないと――」
「私が気になるんです」
グラディオをまっすぐに見つめる。
「グラディオ様を悪く言われると、私が悲しいですから」
グラディオは慌てて背を向ける。
背を向ける前に一瞬だけ見えた顔は、赤くなっているような気がした。
「あの、グラディオ様?」
大きな背中へ声をかけてみるも、グラディオは振り向いてくれなかった。
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