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【10話】俺という生き物 ※グラディオ視点

 

 それから、少しして。

 

「グラディオ様、フェリシア様。おやすみなさい」

 

 リリアンは二人にペコリと頭を下げ、ゲストルームから出ていった。


「それでは私もこれで失礼しますね」

「待ってくれ」


 部屋から出ていこうとするフェリシアを、グラディオは呼び止める。

 彼女にどうしても伝えておきたいことがあった。

 

「ありがとうフェリシア。リリアンが自らの過去を打ち明けてくれたのは、君のおかげだろう?」

「いえ、私は大したことしていません。頑張ったのはリリアンですよ。……それに、お礼をいうのは私の方です。いいものを見させていただきましたから」


 フェリシアが微笑む。


「固く結ばれた親子の絆に感動しました。ありがとうございます」


 彼女の微笑みは優しい。

 でもどこか、寂しさを感じるような笑みだった。


******


 王都ベルノーにある巨大なホール――修練場。

 レシュアル王国騎士団は日頃、この建物の中で修練を行っている。

 

 騎士団長であるグラディオもそうだ。

 日中はここで団員たちと一緒になって汗を流し、修練に励んでいる。

 

 今は修練の休憩時間。

 グラディオは、騎士団副団長のキーシェと会話をしていた。

 

 キーシェの歳は二十五。

 三年前に不祥事を起こして騎士団から去った元副団長と入れ替わりで、副団長となった。

 

 長い金髪をしていて、耳にはピアスをつけている。

 体格は華奢だが、実力は高い。

 グラディオにつぐ剣の腕を持っている。


 キーシェとは幼なじみで、小さい頃からよく遊んでいる。

 もう十五年以上の付き合いだ。

 人間関係の構築が苦手なグラディオにとって、唯一の親友と呼べる人物だった。

 

「そうか。リリアンちゃんと仲良くなれたんだな。よかったな!」


 昨日の出来事を話すと、キーシェは自分のことのように喜んでくれた。

 

 外見から軽く見られがちだが、キーシェは面倒見のいい男だ。

 いつもグラディオのことを、なにかと気にかけてくれている。

 

 グラディオはそれに甘えて、毎日のように相談を持ち掛けていた。

 簡単な話から込み入った複雑なことまで、本当に色々だ。

 

 それもあってキーシェは、グラディオの事情をかなり深いところまで知っていた。

 

「お前が契約結婚したっていう、えっと……フェリシアちゃんだっけ? その子に感謝しないとな!」

「そうだな」


 フェリシアがいなければ、リリアンとの関係は変わることはなかった。

 これから先も、ずっと怯えられていたままだっただろう。

 

 リリアンが幸せなら嫌われてもいいと思っていたのは本心だ。

 

 でもそこには、どうにもできない現状への諦めもあった。

 心の奥では寂しさを感じていた。

 

 フェリシアには今回の件で、大きな借りができてしまった。

 

「なにかの形で恩を返さないといけないな」


 とは言ってみたものの、具体的にどうすればいいのかがまったく思いつかなかった。

 

 なにせこれまで、女性と関わってきた経験というのがほとんどない。

 二十歳の女の子になにをすれば喜ぶかなんて、グラディオにはわかるはずがなかった。

 

「なにがいいだろうか」

 

 ギロリ。

 隣にいる幼なじみに、ギラついた三白眼を向ける。

 

 これは怒っているのではない。

 助言を求めているのだ。

 

 キーシェには年頃の妹がいる。

 彼ならばきっと的確なアドバイスをしてくれるはず。

 

 そう思っていたのだが、


「心がこもっているなら、なんだっていいんじゃねぇか?」


 返ってきたのはグラディオがほしいものではなかった。

 期待外れの答えだ。

 

 そんな風に言われたら、余計にわからなくなってしまう。


「……頼むキーシェ。意地悪せずに教えてくれ」

「別に意地悪したつもりはないけど……。あ、それならドレスにしたらどうだ? 今度フェリシアちゃんと一緒に、ブート侯爵家主催のパーティーに出るんだろ?」


 先日ブート侯爵から、社交パーティーの招待状が届いた。

 

 グラディオは社交パーティーの席が苦手だが、レクシオン公爵家とブート侯爵家との付き合いは古くからある。

 

 貴族というものは繋がりが大事だ。

 いくら面倒でも、参加しないわけにはいかなかった。


「そのときに着ていくドレスをプレゼントするんだよ。なんたって、女の子は服が大好きだからな! きっと喜ぶぞ!」

「……ふむ。いい考えだ」


 グラディオひとりでは絶対に出てこないような考えを、キーシェはさらっと言ってみせた。

 やはり彼は頼れる男だ。相談して正解だった。

 

「しかし女に興味のないお前から、そんな相談を受ける日がくるとはな」


 キーシェの口元はニヤニヤ。

 意味ありげな視線で、グラディオを見てくる。

 

「もういっそ契約結婚じゃなくて、普通の結婚をしたらどうだ?」

「バカをいうな。彼女に恋愛感情はない」


 それは別に、フェリシアに魅力がないという話ではない。

 むしろ、逆だ。

 

 絹のように滑らかな金色の髪。

 神秘的な緑色の瞳。

 美しい顔立ち。

 

 フェリシアの外見は整っている。

 性格も穏やかで優しく、好感が持てる。

 

 フェリシアは、そうとう魅力に溢れている女性だと思う。

 

 だが、それだけだ。

 恋愛感情は抱いていない。

 

 そういう気持ちにならない。

 

(きっと俺という人間は、そういう生き物なんだ)

 

 いままで他人に恋愛感情を抱いたことはない。

 そして、これから先もずっと抱くことはないのだろう。

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