三話 忘れ去られた記憶
その夜、蓮は用意された部屋に居た。就寝準備をして寝る訳では無い、自分の家に短時間帰宅するための準備をしていた。蓮の家庭は事情がとても奥深いものだ。
「よし……、行くか。」
与えられた部屋の窓から飛び降りて、自宅へ向かう。部屋は三階にある、そこから飛び降りるのはかなりリスクが生じるがクッションの力を借りてダメージを吸収してもらうのがやはり一番だ。クッションでダメージを軽減し、森の中を抜け、田舎の小さな町スティッラへ向かった。
「やはり、霧が濃いな……。早く家に帰らないと。」
「お、お兄ちゃん……?」
「……凪灯」
蓮には妹がいる、それが凪灯。身体が弱く、長く生きれる確証がない病を患っている。医者から貰った薬が効果抜群なのか、長生きは出来ているが病は治らない一方だ。……良い医者に当ててるはず何だけどなぁ……(汗)。そんなこんなで家に凪灯と辿り着いた。
「ただいま!お母さん、お父さん。」
「……ただいま。」
「凪灯!?何処に行ってたのよ!心配したんだから!……あぁ、家事の方?今日も頼みますね。」
「……はい。」
「お兄ちゃん……。」
蓮は両親に縁を切られており、そもそも存在しなかったということになっている。別に忘れてくれて良いと思ってた、凪灯さえ助かれば…。ひたすら同じことを祈るしかない蓮は、自分の家の家事を代行している。凪灯の両親は、だいぶ昔に記憶障害に近いものを患って蓮を記憶から抹消した。……誰も悪くないんだ、誰も。
今日も家事を済ませ、何処の部屋もピカピカにした。……そして、今日もアレが来る……。
「……来い。」
「?お兄ちゃん、どうしたの?俯いて。」
「凪灯、気にするな。僕が悪いから罰を受けるだけさ。」
「大丈夫?」
「……どうだろうな、心配するな。さぁ、お母さんのとこに行きな。」
「……はぁーい。」
「お待たせしました、僕はどうすれば?」
「そこに立て。一歩も動くな。」
いつも、仕事を終えると凪灯の両親からストレス発散で暴行される。アイロンを身体中に当てられたり、包丁であちこち刺されたり、臓器が飛び出るギリギリまでお腹を裂けられたり……、痛いけど耐えるしかないんだ。
「アイツのせいで!俺は濡れ衣をきせられた!」
「……ぐふっ!……ぐはっ……くっ」
「あなた!床を汚くしないでちょうだい!」
「……ごめっ……ん……なさ、い……」
「……チッ、時間か。」
「……。」
泣いても仕方ない。凪灯さえ幸せなら僕は……。蓮はそう心の中で誓いを思い出し、傷が隠れるようなガーゼや包帯を探していた。
「では、また夜中来ます。失礼します。」
「あぁ、頼むぞ。」
「よろしくお願いしますね。」
「お兄ちゃん!気を付けて!」
時刻は夜が明ける前くらいだろう、森の中を急いで駆け抜けながら、治療という応急処置をして、勇のいる豪邸へと帰って行った。