才能無限大を四本の足で証明してやるから覚えて帰れ
自惚れは身を滅ぼす?
自分はまっとうだって見下している人間様に言われたって痛くもかゆくもないわ。
お前らは覚悟の格が違うんだよ。
己の才能を武器にして、最高に面白いのは自分だって、命綱なしのパンジージャンプやってんだよ。保険一つもかけずに飛び込んでやってんだよ。
鼻で笑うお前らに理解してもらおうなんて思ってねぇから安心しとけ。
ぬるま湯の場所で一生批評(笑)でも呟いてろ。
ぐらついた足元で忙しなく指先を動かすお前らが無駄に命を擦り減らしている間に、この二本の足で舞台に立って懸命に命を燃やしてやるから。
「相変わらず強いな、色部。強すぎて“思想”みたいになってるけど」
楽屋の弁同を口に頬張りながら原が苦笑いを浮かべた。口端から米粒が落ちて、一張羅のスーツに貼りついた。
「俺はごちゃごちゃ言ってるだけの、安全地帯から見下している人間が大っ嫌いなだけ。あいつらは弱者(笑)みたいな存在を馬鹿にしたいだけなんだよ、クソが」
更に湧き上がりそうな不満を熱々のコーヒーで流し込む。本番前は何も食べないのが俺のルールだ。
「口が悪い。まぁむかつくのは分かるな」
米粒を取って弁当の蓋に乗っけた原が頷く。その後に続く言葉は分かりきっている。
「結果を残さないかぎりは負け犬の遠吠えだっていうんだろ」
「その通り。劇場メンバーの同期内で唯一レギュラーになれてないからね」
原の指摘に紙コップのフチを噛む。
俺は最高に面白いし、俺が選んだ相方も面白いし、俺らの漫才だって最強に面白い。
だからといって「客が理解できないのが悪い」なんて言い訳はしない。
ただ文句言うやつらとは違う。ネタを見てくれている人たちは、金を払って本気の審査をしてくれている。笑ってもらえないのは実力が追いついていない現実だ。
「だから足掻いてるんだろ。名前だけでも覚えて帰れって」
空になった紙コップを握りつぶす。
今日こそは。才能無限大を四本の足で立つ舞台の上で証明してやる。