03 去就
気持ち良くお目覚めしたら、ちょうど夕食時。
居間には、家族全員勢ぞろい。
もちろん、ゾディ・ハラショーもそろっての、全員大集合。
"主"さんとの自己紹介も済ませたようで、
今はみんなで夕食の準備中。
すでに"主"さんの去就は決定済み。
つまりは、我が家で同居が確定。
ご本人の希望で、お庭の花壇のそばに住まいを建築予定。
『みかん箱だと、とても嬉しいです』
この世界にみかん箱があることにちょっとだけ驚きつつ、みんなで夕食。
事の経緯から、"主"さんはグルメなのかと思いきや、
好き嫌い無く召し上がっておられますね。
お話しを聞くと、例の新料理長のお料理は、
こじらせた創作料理系だった模様。
でも、お城の厨房を取り仕切る立場の人間がそんな感じで、よく平気だったな、と。
実力と権威がありすぎて誰も意見出来ず、本人があさっての方向へ突っ走っちゃったのでしょうか。
『王様たちも有り難がるばかりで、誰もお味については……』
あー、まさにありがちな天狗状態。
"主"さんも大変でしたね。
「召し上がる人の気持ちを全く考えないお料理なんて……」
うん、プリナさんのお料理とは真逆ですよね。
「武芸にも通じるものがある」
「何事も独りよがりはいけない、ということだな」
そうですね、イリーシャさんみたいに誰かのためを思ってチカラを振るう人ばかりでは無いってことですね。
「スーミャだって、ちゃんとイリーシャのことも考えて依頼を受けてるよ」
仲良きことは美しきかな、だね。
「みかんといえば、ノルセリエだよねえ」
有名な産地なのですか、フィナさん。
『お味もそうですが、特に香りが芳醇なことで有名で、ご贈答用として貴族様方の間でもとても人気が高いみかんなのですよ』
さすがはフィグミさん、物知りさんですね。
『みかん、大好き!』
ナルンはかんきつ類、大好きだもんね。
じゃあ、ノルセリエみかん、探してこようかな。
『アリシエラ博士のデータベースによれば、この時期は旬から外れており、ジオーネの『収納』倉庫くらいにしか在庫は無いであろう、とのことであります』
情報ありがとう、ゾディ。
明日、ジオーネに行って探してくるね。
そういえば、依頼内容は『大ねずみの魔物』の討伐、だったはずなのですが、
"主"さんって、どう見ても『大ねずみ』じゃないですよね。
フィグミさんよりも小さいですし。
『私は『リグラルトとびねずみ』なのですが、大昔、たまたま迷い込んだお城の宝物庫でかじっちゃいけない魔導具をかじったせいで魔物化してしまいまして、そのせいで身体が2倍もの大きさに』
元の2倍……
『おかげで食いしんぼうになってしまって、食べ物を安定して入手出来るあのお城から離れられなくなってしまったのです』
「お料理、先程の量でご満足でしたか?」
『あんなにお腹いっぱいになれたのは久しぶりでした』
『それに何より美味しくて美味しくて……』
プリナさん、にっこり。
「食後の歓談も楽しかろうが」
「まずは"主"さんのお名前」
「誰も言わないのなら、私が決める」
「『けだま』とかに決められたく無いなら、意見を出したまえ、皆の衆」
おっと、そっちも大事ですよね、モルガナさん。
もちろん『けだま』は却下で。
それでは、みんなでシンキングタイム!
……
命名『チュース』
僕の案『ちゅうすけ』が元、では無いのですよ。
確かドイツ語だった気がするのですが、
この異世界の言語体系についてはツッコミどころが多すぎて、深く考えるのはとっくにあきらめました。
何はともあれ、ご本人がお気に入りなら、それが一番なのです。