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10 苗木


 少しだけ、寄り道させてもらうことに。


 冒険者ギルドに戻って、受け付けの老人から召喚者さんのお墓がどこにあるのか、教えてもらいました。



 冒険者ギルドの裏手にひっそりと、しかし丁寧にお手入れされたそのお墓に、


 プリナさんとふたりで手を合わせました。



 帰ろうとした僕たちを呼び止めた老人から手渡されたのは、小さな苗木。


 召喚者さんのお宅は最近取り壊されて、跡地には商会の『収納』倉庫が建てられたそうですが、


 お宅の側の小さな畑にあった苗木だけ、持ってくることが出来たそうです。



 召喚者さんは、この地で一番最初に見つけたみかんの樹を"原種"と呼んでとても大切にしていたのだとか。


 自宅の畑に"原種"の種から苗木を育てるほどに。



 そんな大切なものをとお断りしようとしたのですが、


 老人から、是非に、と



 うちの花壇はちょっと小さいので、裏のお山で育ててみますと言うと、


 老人はにっこり笑って去っていきました。



「大切に育てましょうね」


 もちろんですとも、プリナさん。


 出来れば、居間の窓から見える場所で育てたいですね。



「書庫の方に、みかんの樹の育て方のご本、ありましたかしら」


 もし無かったら、今度は本屋さん巡りしましょうね。



 プリナさん、にっこり。



 ……



 帰りは、相変わらずののんびりドライブ。


 プリナさんは、苗木を『リコッタ』の『収納』トランクに入れずに、


 大切そうに抱き抱えております。


 それを見ると、なんだか、より安全運転したくなっちゃうのです。



 そんな感じで、オーバンに着いたのは5日後。


 みかんもみかん箱も手に入らなかったけど、


 可愛い苗木とご帰還なのですよ。




「おかえりなさい、ご旅行、いかがでした」


 ただいまです、リルルリエルさん。


 いろんなことがあったけど、とっても思い出に残る旅でしたよ。



「もうちょっとお帰りが早かったら、ヒルデュ祭りのパレードが見られたのですけど」


 お祭りですか、それは残念。



「うちの子たちも仮装してパレードに参加したんですよ」


 へえ、それはますます残念。



「かっぱのお姉さんたち、キレイだったよねっ、リル姉」


 かっぱ?



「この地方の伝統で、ヒルデュ河の安全を願って、かっぱの装束に身を包んだ若い娘たちが"決闘"などの伝統行事の際にお手伝いをするっていう習わしがあったのですけど」

「そういう風習をハレンチだっていう団体のせいで一度廃止されちゃったんです」

「でも、有志の方々がエルサニアとキルヴァニアの王家に直談判して」

「今回のパレードから復活したんですよ」


 えーと、ハレンチ?



「正式な装束は、頭のお皿と、背中の甲羅と、ふんどしだけ、なんです……」


 ……その格好でパレードしちゃったのですか。



「いいえ、今回はちゃんと水着着用でしたよ」


 今回は……



「今度何かの行事がある時は、お知らせしますので、ぜひお越しくださいね」


 ぜひ!




 ……えーと、そろそろ行きましょうか、プリナさん。


 はい、我が家に着いてからたっぷりと、ですね……



 それでは、


 リルルリエルさん、ティルハシエルさん、


 今回もいろいろとありがとうございました。


 ちびっ子たちも、ありがとね。



 ……



『ゲートルーム』で『ジオーネ』へ。


 もちろん、アランさんに『マリネ・リコッタ』を返却しに、です。



「おかえり、ふたりとも、楽しかったかい」


 ただいまです、アランさん。


『マリネ・リコッタ』のおかげで、めっちゃ楽しい旅でした。



「それは良かった」

「じゃあ、旅話は後でゆっくり聞かせてもらうから、早く帰ってあげてね」

「予想外の長旅、みんな心配してたんだから」


 はい、それでは。


『マリネ・リコッタ』も、お疲れさま。



 そして、一路、我が家へ。



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