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1.男爵令嬢と親友兼義妹

イリタルカ王国

王都ミランダアヴィス学院


ここは多くの貴族子息、息女が通う国唯一の国立学校であり、ミランダアヴィスに通えることこそが貴族としてのステータスの一つとも言える。


事実、爵位持ちの家系であればその9割がこの学校を卒業しており、この学校での生活を通し、各家の未来のための人脈作りや政治の足掛かりをつかんでいくのだ。


「あ、マリー!」

「サラ!」


廊下の奥に見つけた親友に声をかけると、彼女はぶんぶん、と効果音がつきそうなほど大きく手を振りかえしてくる。

こちらから声をかけたのだから、そんなにアピールしなくても存在は認識しているのに......と思いつつも、そんなマリーの姿を微笑ましく思う。


「マリー、また目立っているわよ」

「あっ......つい、ごめんなさい」

「いいえ、謝ることではないわ」


稀に貴族らしからぬ振る舞いをしては、周りの目を引いている彼女はマリー・ハードウィック。

我がハードウィック男爵家の次女である。


事情があって昨年貴族家入りを果した彼女は、まだその振る舞いに慣れていないことがある。

けれど貴族家の名に恥じないように、誰よりも努力をしていることを私はよく知っている。


「マリー、先日の試験また主席だったようね。おめでとう」

「うん、ありがとう。......まあ、でも、誰も本気じゃない試験で1番になってもあまり嬉しくはないけどね」

「そんなこと言って、全員が全員そう言う訳ではないことわかっているでしょう?誇っていいと思うわ」

「そうだね、ありがとう」


とはいえ、マリーの言うことも一理ある。


在学中の試験の結果なぞ、この学校の生徒には何の関係もない。

ほとんどの生徒が卒業すれば家を継ぐか、家の為に嫁ぐか......


だから、逆にこの学校に通える数年間は“自由になる期間”と考えている者がほとんどだ。


要はこの学校を“卒業すること”が試験で良い点を取るよりよっぽど大事なのである。


(だからみんな悠長なのよね。......まぁ、私もだけれど)


ハードウィック男爵家長女である私、サラ・ハードウィック。

貴族育ちである私も例に漏れず試験を重要視はしてないない。

さらに言えば、私には試験もずっと大事なことがある。


「そう言うサラこそ、序列1位じゃない! おめでとう!」

「えぇ、ありがとう」

「この学校の試験で主席とることなんかよりずっと誇らしいことだよ!」

「そう言ってもらえて光栄だけれど、今回もあの人がいなかったからツイていただけよ」

「それでも! 沢山いる候補生の中で1番だもん、尊敬する、だって......


あの学内の騎士団推薦選抜の序列1位だなんて!」


そう、私が選ばれたのは騎士団への推薦資格が得られる学内の選抜メンバー。

しかも剣の道を選んだ人間ならば誰もが憧れる存在、王家直属中央騎士団への配属資格を得られるチャンスとあって、こちらはなかなかに勝ち抜くのが難しい。



「でも、3年間良い成績を残し続けなければならないから、まだまだこれからよ」

「そっか......選抜でも重大事項だもんね。特に平民の人にとっては......」


この国には平民でも爵位に準ずる称号を手にするチャンスがある。それは騎士団のメンバーとなること。


正式に言えば、騎士団となり、なんらかの功績を上げることで、国王陛下から直々に《ナイト》の称号を頂戴することができるのだ。

この国ではナイト爵は貴族同様に扱われる場合が多く、成り上がりを求める平民にとって騎士団選抜は一世一代の出世大チャンスなのだ。


王家直属である中央騎士団ともなれば、叙勲の可能性も高まるためこの選抜試験は熾烈を極めている。


ただ、男爵令嬢である私が、ナイトの称号を手にする必要性など全くと言っていいほどない。

仮に私が男性であれば......見栄や栄誉という点で意味がなくはないのだろう。

それでも私にはどうしても1位の座を守り続けなければならない理由があった。


「やっぱり、騎士選抜序列1位のお嬢様って貴女だったんだね、サラさん」

「......あら、もしかしてウィリアム様?」

「久しぶり」


優しくはにかむ端正な顔立ちは、ゆるいウェーブがかったゴールドヘアと相まって異常な輝きを放っている(ように思える)

まるで花でも纏っているかの様なオーラ。



ウィリアム・クラレンス


現国王姉の息子であり、クラレンス公爵家の跡取り様だ。


彼はこの学園でも1.2を争うほど女子人気が高い。

入学してから彼の名前を耳にしない日はなかったし、まあ、そうなるのも無理はない。


時期公爵でこれだけの顔立ちなら、騒がれない方が不思議だ。

しかも性格も穏やかで物腰も柔らかく、更には王族の血を引いているのだから間違いなく女子人気No. 1の優良物件だ。色んな意味で。

事実、今もチラチラとすれ違う女生徒の(あるいは教員職である婦人達の)視線を集めているのだけれど......本人にどの程度の自覚があるのかしら。


「はい、ご無沙汰を。皆様お元気でいらして?」

「うん、あれから色々あるけど相変わらずだよ。......隣はもしかして......」

「ええ、紹介が遅くなりました。

マリー・ハードウィック......昨年ハードウィック家に迎えいれた私の義妹です。」

「マリーです。お見知りおきください」

「ウィリアム・クラレンスだ、よろしくね」


その昔、クラレンス家にハードウィック家は懇意にしていただいていた。

ある時から交流は途絶えてしまったが、こうしてこの学園で再開することは貴族家として当然の巡り合わせといえる。


「サラさんは剣術を極める道を選んだんだね」

「はい。私の夢はあの頃から変わりありません」

「そっか、君はやっぱりすごいね」

「......できることをしているまでです」


古い友人とも言える人に褒められて悪い気はしないが、叶わぬ夢をいつまでも引き摺っていると思われているのではないかと、彼の淡いターコイズブルーの瞳に映る自分からつい目を逸らしてしまった。


「サラ......」


「いいえ! サラ様すごいです! 鍛え上げた殿方に勝てるなんてとても貴族育ちのお嬢様のできることではないですもの!」


マリーの心配そうな声を遮り、周りよりも2トーン高い声が突然響き渡った。

気まずい空気など気にしてないかのように、キラキラを輝かせて私たちの会話に割って入ってきたのは......


「パーシバル様......。ご機嫌よう」

「ご機嫌ようサラ様!それにウィリアム様! もう、パーシバルだなんて! ユリアンでいいですよ?」 


他の女生徒よりもふんわりとしたスカートに(パニエ倍増させているのかしら......)立体的で大ぶりな白のリボンの中央にはピンクダイアモンド。

ふわふわしたベージュヘアーに小動物のような瞳をした彼女はユリアン・パーシバル。


先日転入してきたばかりだと言う伯爵家の養女だ。


(ある程度は自由とされている制服も、ここまでキラキラのフリフリにされたらもう立派なオートクチュールね。)


「選抜って、王家直属の中央騎士団の推薦権が得られるっていう学内選抜ですよね!」

「......えぇ。そうよ。」

「うわぁ〜やっぱりすごいです! わたし憧れちゃいます!」

「あら、パーシバル様が騎士団の選抜に興味があるなんて知りませんでした。」

「だって、騎士団って強くて素敵じゃないですか、特に中央95期の方々って揃って美男ばかりなので憧れます〜」

「確かにエドワードも、皇太子である自分より今は騎士の方が人気あると言ってたまに拗ねているよ」

「まぁっ! エドワード王太子様も可愛らしいところがあるんですね!」



ウィリアムの言う通り、ここ数年、騎士団人気が高騰している。

特に中央騎士団95期は私達より少し上の世代だけれど、美丈夫が多く、若い世代の令嬢には大人気なのだ。


「でも、サラ様って()()ハードウィック家のお嬢様じゃないですか、なんで騎士団の選抜試験なんか受けているんですか?」


変わらずハイトーンボイスでそう言うと、人差し指を唇に当て、こてんっと首を傾げて眉をハの字にした男子ウケの良さそうな困り顔を私とウィリアムに向ける。......うーん......そんな顔されても困るのは私なのだけれど。


「ユリアン様はハードウィックの家系を知らないのですか?」

「いやだわ、マリーさん。私だってそのくらい知っているわよ?でもいずれお嫁に行くのに剣術なんて関係ないじゃない」


私の戸惑いを察してか、すかさずマリーが問いかけるものの、視線は私に向けたまま、クスリと笑いながら表情は崩さない。というか彼女が話しかけてから一度もマリーを視界に入れてない。まるで存在してないかのような扱いだ。


「貴女には関係のないことよ。そもそも私の家族にそんな態度を取る人間に説明することなんて何もないの。行きましょうマリー」

「えぇ! サラ様行ってしまわれるんですか?」


白々しくも悲しげな声を出してウィリアムに3歩ほど近づくのを見逃さなかった。わかってはいたけど、最初からそれが目的だったのね。


「あぁ、それから。私のことはサラではなくて、ハードウィックでよくってよ」


マリーの手を引くと足速にこの場を去ることにした。

久しぶりの再会だというのにウィリアムには悪いけど、尊い犠牲となってください。アーメン。


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