第九話 真実は、時に敵へ
家に帰るまでのこの短い距離が、なんだかとても長く感じた。
「・・ぃ、篠崎!」
「ぇ・・あ、ごめん。何?」
「人魚・・?」
そう聞こえた。だから、海を見る。
「―・・・!!!」
そこにいたのは、人魚でもなんでもない。ずっと捜し続けていた、復讐の相手。
海の魔女。
(あいつ、なんで陸に・・)
すっ・・と海の魔女が私達に向かって指をさす。その瞬間、潮が信じられないくらいの早さで引いて行く。
「南、走って逃げて!なるべく海に近づかないように知らせてっ、早く!!」
「お前はどうすんだよ!?」
「お前が街の人に知らせないと、この街に住んでる人全員が死ぬぞ!!」
私は、また男に向かって怒鳴った。
でも今度は、南も素直に頷いて街の役所に走って行った。
「リン・・あなたに入墨を入れてから100年間。あなたにずぅっと会いたかったわ・・・。」
耳からではなく直接頭に響く声。私は改めて魔女を睨みつけた。
「そんなに警戒しないで。リンにとって、陸はどうでもいい場所でしょ・・?」
「違う。陸にも住んでいる生き物がいるっ。陸の生き物も、生きる権利がある!」
どこからともなく雨雲がやってくる。雷雲もやってくる。
「リン、陸は汚れた生き物の集まりよ。生きる権利なんか無いわ・・。」
よく、魔女はよく平気でこんなこと言えるなっ。
「魔女・・じゃぁ聞く。なぜ母様達の生気を全て奪った!なぜ私の仲間達を殺した!なぜひぐらしを殺した!!」
私の感情と連なって、波が魔女を襲う。
「くくく・・」
でも魔女は余裕の笑みで波を受け止める。
「そう、あなたは・・ひぐらしが好きだったの・・。ふふふ・・あっはははは!はっははは!!」
魔女は不気味なぐらいに腹を抱えて笑う。どうして、なぜ・・。
「ひぐらしは、私が仕組んだ内通者。スパイ。最初から私の仲間だったのよ!」
魔女の言葉が、私の心の中で響く。
―敵
その言葉が、私の中に浮かぶ。どうして?
どうして、敵なの?