第八話 狙われた場所
「篠崎っ・・!?お前、どうしてここにっ・・」
日が落ち、真っ暗な闇の中、私は浜辺にゆっくりと姿を現した。
浜辺には、泄が座っていた。
「お前には関係ない。」
海の中でのことは、きっと事実なんだ。ディティが、海の魔女だったんだ。
「お前っ・・もう会ってくれないかと・・」
「海に近づくな。」
今の海は、人間が思っているほど安全な場所じゃない。
海の魔女が、私のすぐそばにいた。
「これから、海は危険な場所になる。人間は、絶対に近づくな。」
「でもっ」
「でないと、お前達の街が私の街みたいに破壊される。」
それは事実。ディティに化けていた海の魔女。確実に人間の生気を狙っていた。
「海の魔女の話しは、以前したな。」
「あぁ。」
泄は、真剣に私を見ていた。これが冗談じゃないと理解したんだろう。
「海の魔女は、今から約1000年前に海の神アトランティスに封印されていた。でも何らかの理由で魔女は復活した。復活した魔女が一番欲しがるもの、それは生き物すべての命だ。そのためには今持っている生気だけでは力が足りない。だから、まずすべての人魚の生気を奪った。次は、何だと思う。」
ここまで話して、泄は全てを理解したようだった。
「次は人間ってわけか・・・。」
「うん。」
まっすぐに泄を見る。きっと、これから陸ではかなりの人が魔女の犠牲になってしまう。
もしかしたら、泄の家族も、泄の好きな人とかも。
「これから、陸で魔女の被害に遭う奴が出てくるかもしれない。だから、私はもう一度陸に戻る。」
「そうか。」
泄は、にっこりと笑った。
私も笑って、篠崎リンの姿になった。
「っつ・・・!!」
人間に化けるだけでも、こんなに頭が痛むなんて・・。
早く、早く魔女を捜し出さないと。
そして、アトランティスを探し出して、封印してもらわないと・・・。
「頭、痛むのか・・?」
いつのまにか、泄が私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫だ・・なんともない。」
「何ともないって顔色じゃないけど・・」
「平気ったら平気なんだよっ!」
初めて泄を怒鳴った。ちがう、こんなはずじゃ・・
「そうかよ。じゃ何も言わねーよ。」
そう言って、泄はさっさと砂浜を去って行った。
何故かそれが、すごく寂しかった。
(どうして、素直になれないんだろう・・私。)
ティティ、どうしてあんたが海の魔女なんだよ。どうして、あんたが敵なんだよ。
「あれ・・?篠崎じゃん。どーしたんだよ。」
顔を上げると、そこにいたのは確か泄と仲良しの南冬馬だった。
「南・・。」
「なーんでそんな辛気くさい顔してんだよ。」
「・・・。私、変でしょ。」
「別に?個性だからいいんじゃね?」
南は「よっこいしょ」と言って私の隣に座る。
「じじぃかお前は。」
「うわっ、篠崎口悪!」
「そうか?」
泄以外の人間と話すことはあまりなく、なんだか新鮮な気分だった。
「篠崎っていっつも泄と一緒にいるよなぁ。俺ぶっちゃけ羨ましいんだけど。」
「はぁ?」
「だってあいつさぁ、あんまり人とつるまない性格なわけ。だから、きっと篠崎の隣にいる時は落ち着いてんのかなぁって思うと、俺は嫌われてんなぁーって思って。」
南は言い終えると、後ろで手を組んで砂浜に倒れ込んだ。
「なぁ、お前泄好きなん?」
「はぁ!?」
寝っ転がりながら、南が私に聞いてきた。
「その反応、怪しーぃ!」
「ばっ、違う!そんなんじゃない!」
「どーだか♪」
人間の男ってどうしてこう恋愛の話しばっかりするんだろう。
「あんた彼女いないの。」
「残念ながら。」
「ふーん。」
そうか、私はここで一つ学んだぞ。
恋愛の話しをする奴は大体が彼女無し、だ!
「私は、一度家に帰る。じゃぁね。」
「お、お前ん家ってここの近くか?」
「ん。そーだけど」
すると南は、とんでもないことを言い出した。
「俺も行く。」
「なんで・・・」
ゆっくりと砂浜から起き上がった南は、私を見下ろすくらいの身長だった。
「お前、今何時だと思ってんだよ。」
近くの時計台を見る。時刻は夜9時、辺りは真っ暗だ。
「こんな時間に女一人で帰すってわけにはいかないから、送ってやるよ。」
「あ・・。でも・・。」
私の返事も待たず、南は歩き始めた。
「お前ん家ってここからどれくらい?」
「10分くらい。だから別に一人でも平気だけど・・」
「平気なわけねぇだろ?ここ最近、変質者が出てるって話しだし・・」
「私は平気だってば!」
そう言うと、南はくるっと私のほうに振り向き、私の肩に手を回して引き寄せた。
「えっ」
「・・・・。誰が平気だって?」
寸前で止めて、南は私の肩から手を離した。
「・・驚かせて悪ぃな!お前だって女なんだから、ちったぁ男を頼れ!」
そういう南の後ろ姿は、少しだけひぐらしに似ていた。